ホーム » スタッフ » 斉藤徹 » 実験(斉藤) » コンパイラと関数電卓実験の総括

2022年5月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

検索・リンク

コンパイラと関数電卓実験の総括

複雑な字句解析

コンパイラでは、字句解析→構文解析を行うのが一般的である…と説明をしたが、最近のC++では少し話がややこしい。

C++ではテンプレート機能などがあるので、整数型のリストみたいな型は、forward_list<int>といった書き方をする。そして、リスト型のリストを作る場合は、forward_list<forward_list<int>>という型が出てくるかもしれない。しかし、この場合、C言語の単純な字句解析処理が行われると、forward_list, “<” , forward_list , ”<” , int , “>>” というトークンに分解されることになる。しかし、これでは、ただしいC++でのテンプレート表記に構文解析できないので、少し古い C++03 では、”forward_list<forward_list<int> >”と、最後の2つの”>”の間に空白を入れる必要があった。

しかし、これはプログラム記述上問題も多いため、最新の C++11 では、”>>”と書いてもテンプレート記述の”<“との組を判断して、”>”,”>”と2つに分解してくれる。このため、字句解析の処理が lex のようなものでは不十分となっている。

形態素解析

今回の実験では、コンパイラを作るという目的で、字句解析、構文解析 を行う流れを説明し演習を行った。しかし、こういった処理は、自然言語処理でも使われている。

自然言語処理(Natural Language Processing)とは、人間の言語(自然言語)を機械で処理し、内容を抽出することです。

具体的には、言葉や文章といったコミュニケーションで使う「話し言葉」から、論文のような「書き言葉」までの自然言語を対象として、それらの言葉が持つ意味をさまざまな方法で解析する処理技術を指します。(入門編)自然言語処理(NLP)とは[引用]

今回のコンパイラの技術では、最初の処理は字句解析で説明をしていたが、日本語の場合は形態素解析が必要となる。

形態素解析 — 形態素解析とは、文法的な情報の注記の無い自然言語のテキストデータから、対象言語の文法や、辞書と呼ばれる単語の品詞等の情報にもとづき、形態素の列に分割し、それぞれの形態素の品詞等を判別する作業である。(wikipedia引用)

意味解析

自然言語処理では、これに加え構文解析の後に、意味解析の処理が行われる。例えば、「高い」という単語は、金額の意味なのか、高度の意味なのか、判断が必要だが、かかり受けする単語にお金に関するものであれば金額と判断するし、身長という単語があれば高低の意味と判断し、全体の意味を解析する。

コンパイラ処理でも、目的プログラム生成行程プログラミング言語において、コンパイラーがソースコードを解析し目的プログラムを生成する際の処理工程のひとつ。意味解析は、ソースコード内に記述された変数の型や文(ステートメント)が言語の記述仕様に沿っているかどうかをチェックする。

静的型付け・動的型付け・型推論

プログラム言語のコンパイラでも、意味解析が必要な事例として、型推論について紹介する。プログラム言語では、プログラムを記述する際に、値を記憶するために型情報が重要である。C言語では、明確に型を記述する必要がある(静的型付け言語)。これに対し、Perl , Python , PHP , JavaScript といった言語では、変数にどういった型の情報でも代入が可能となる。このため、変数宣言では型を明記する必要がないが、プログラムが動作している時点でインタプリタは型を確認しながら処理が行われる(動的型付け言語)ため、無駄な型判定処理が常に行われ処理効率が悪い。また、動的型付け言語では、型が明記されていないのでプログラムの間違いが見逃されることもある。

Microsot では、JavaScript の動的型付けの問題を解決するために、TypeScript を開発している。TypeScript では JavaScript に、静的型付けとオブジェクト指向のクラスの機能が追加されている。

プログラムを安全に作る視点であれば、データの型のチェックが行われる静的型付けはバグを減らす意味で重要であるが、プログラム記述が複雑になる問題も出てきている。例えば、C++ でのリスト処理は、forward_list のテンプレート機能を使うと、以下のように書ける。

#include <iostream>
#include <forward_list>

int main() {
  // std::forward_list<>線形リスト
  std::forward_list<int> lst{ 1 , 2 , 3 } ; // 1,2,3のリストで初期化
  // for( List* p = lst ; p != NULL ; p = p->next ) {...} に相当
  for( std::forward_list<int>::iterator itr = lst.begin() ;
       itr != lst.end() ;  
       itr++ ) {
    std::cout << *itr << std::endl ;
  }
}

しかし、繰り返し処理のためのデータ型(反復子) itr の宣言は、ただ「リストの要素で繰り返し」とい目的で書くには、型宣言が面倒すぎる。
そこで、最新の C++ では、型推論 とよばれる機能が導入され、型宣言の初期化の右辺式から変数の型を推論してくれる。下記プログラム例では繰り返しのイテレータ itrauto という曖昧な型で宣言されているけど、初期化の右辺式 lst.begin() の型 std::forward_list<int>::iterator で宣言してくれる。あくまでも型推論は、コンパイル時に型が確定しているので、静的型付け言語の便利な機能の1つである。

#include <iostream>
#include <forward_list>

int main() {
  // std::forward_list<>線形リスト
  std::forward_list<int> lst{ 1 , 2 , 3 } ; // 1,2,3のリストで初期化
  for( auto itr = lst.begin() ; // lst.begin() の型からitrの型を推論
       itr != lst.end() ;
       itr++ ) {
    std::cout << *itr << std::endl ;
  }
}

しかし、変数の型推論をしなくちゃいけないのは、変数を使った副作用を伴う記述方法が間違いのモトという考え方では、関数型プログラミングという話が出てくる。C++のalgorithm = 関数型という意味じゃないけど…

#include <iostream>
#include <forward_list>
#include <algorithm>

int main() {
   std::forward_list<int> lst{ 1 , 2 , 3 } ;
   std::for_each( lst.begin() ,
                  lst.end() ,
                  []( int x ) { // 配列参照のコールバック関数
                     std::cout << x << std::endl ;
                  } );
   return 0 ;
}