情報構造論ガイダンス2022
基本的なガイダンス
情報構造論のシラバスを、ここに示す。プログラムを作成する上で、どのような考え方で作れば処理速度が速いのかを議論する。基本的に、4回のテストのたびに、レポート課題を実施する。各テスト毎の評価は、テスト素点と、「テスト素点×60%+レポート評価×40%」の良い方とする。テストに自信のない人は、レポート課題をきちんと提出すること。
プログラムを評価する3つのポイント
まずは以下を読む前に、質問。
- あなたが”良い”プログラムを作るために何を考えて作りますか? ※1
- ここまでの段階で3つの要点を考えメモしてください。
具体的な言葉で要点を考えると、いろいろなものがでてくるだろうが、端的なポイントにまとめると、次の3つに分類できるはずである。
- プログラムの速度
- プログラムのわかり易さ
- メモリの使用量
プログラムを作る場合、この3要素がトレードオフの関係にある。プログラムの速度を優先すると、プログラムが分かり難くなったり、メモリを大量浪費するものだったりする。
メモリの使用量の影響
メモリを大量に使用すると、どういった影響がでるのか? OSの機能を知らないと、メモリ(主記憶)を使い果たしたら、プログラムが動かないと思うかもしれないけど、最近のOSは仮想メモリ機能があるため、主記憶がメモリが足りなければ待機状態のプロセスのメモリを補助記憶に保存することで、プログラムを動かすことはできる。(仮想記憶)
しかし、プロセスが切り替わる度に、補助記憶への読み書きが発生するため、処理性能は低下する。(スワッピング)
int 型のメモリ使用量
int 型は、プログラムで扱う一般的な整数を扱うのに十分なデータ型。
32bit の0/1情報の組み合わせで、232通りの情報が表現でき、負の数も扱いたいことから2の補数表現を用いることで、-231~0~231-1 の範囲を扱うことができる。231 = 2×210×210×210 ≒ 2×10003
32bit = 4byte
ソフトウェアとアルゴリズムとプログラム
用語として、ソフトウェア、アルゴリズム、プログラムという表現があるが、この違いは何か?
- アルゴリズム – 計算手順の考え方。
- プログラム – アルゴリズムを特定のプログラム言語によって記述したもの。
- ソフトウェア – プログラムと、その処理に必要なデータ。
(日本語を変換するプログラムは、日本語の辞書データが無いと動かない/役に立たない) - パラダイム – プログラムをどう表現すると分かりやすいか?
トレードオフ関係をプログラムで確認
例えば、配列の中から、目的データを探すプログラムの場合、最も簡単なプログラムは以下の方法であろう。
// ((case-1)) // 単純サーチ O(N) #define SIZE 1024 int a[ SIZE ] ; // 配列 int size ; // 実際のデータ数(Nとする) int key ; // 探すデータ for( int i = 0 ; i < size ; i++ ) if ( a[i] == key ) break ;
しかし、もっと早く探したいのであれば、2分探索法を用いるだろう。でも、このプログラムは、case-1 のプログラムよりは分かり難い。(速度⇔わかり易さ)
// ((case-2)) // 2分探索法 O(log N) int L=0 , R=size ; // プログラムは複雑になった while( L != R ) { int M = (L + R) / 2 ; if ( a[M] == key ) break ; else if ( a[M] < key ) L = M + 1 ; else R = M ; }
でももっと速いプログラムとしたければ、大量のメモリを使えば一発でデータを探せる。(速度⇔メモリ使用量)
// ((case-3)) // 添字がデータ O(1) // 探すデータが電話番号 272925 のような 6 桁ならば int a[ 1000000 ] ; a[ 272925 ] = 272925 ; // 処理速度はクソ速いけど、メモリは大量消費
良いプログラムを作るとは
プログラムを作る時には、メモリが大量に使えるのなら、速いものを使えばいい。だけど実際には、そのシステムには限られた予算があるだろう。
実際には、限られた予算からメモリやCPUが決まり、その会社の人員やら経験やらでプログラム開発に使える時間がきまる。プログラムをデザインするとは、限られた条件の中で、適切な速度のコンピュータ、適切な量のメモリでコンピュータを用意し、限られた納期の中でシステムを完成させることである。
皆さんも、ゲームを買った時、処理速度が遅くてキャラクターがカクカク動いたら幻滅するでしょ?ゲームがバグですぐに変な動きしたらキレるでしょ!発売日の予定どおりに買えなかったらさみしいでしょ!!プログラムがでかすぎてローディングに時間がかかったら、寝ちゃうでしょ!!!
組み合わせ問題の解き方(予備実験)
プログラミングコンテストの競技部門では、パズルのような組み合わせ問題が 出題されることが多い。また、課題部門や自由部門であっても、複数の条件の組み合わせの中から最良のものを選ぶといった処理も求められる。そこで、この予備実験では、きわめて単純なパズル問題(組み合わせ問題) のプログラムについて扱う。
組み合わせ問題の基礎
簡単な問題として「100未満の整数の値を3つ選び、その値を辺の長さとした場合、 直角三角形となるものをすべて表示する。」について考える。
一番簡単な方法は、以下となるであろう。
#include <stdio.h> #include <math.h> #include <time.h> // 整数比の直角三角形の一覧を求める。 void integer_triangle( int n ) { for( int a = 1 ; a < n ; a++ ) { for( int b = 1 ; b < n ; b++ ) { // 一番ダサい方法 for( int c = 1 ; c < n ; c++ ) { if ( a*a + b*b == c*c ) { printf( "%d %d %d\n" , a , b , c ) ; } } } } } int main() { integer_triangle( 100 ) ; return 0 ; }
しかしこのプログラムの欠点としては、100×100×100回のループで無駄な処理が多い。
4EIの情報構造論で説明するネタだけど、こういうアルゴリズムは、O(N3) のアルゴリズムという。
ループ回数を減らすだけなら、最も内側の処理を、計算で整数値か確認すればいい。
O(N2) のアルゴリズム
void integer_triangle( int n ) { for( int a = 1 ; a < n ; a++ ) { for( int b = 1 ; b < n ; b++ ) { // ココも改良できるよね? int d = a*a + b*b ; int c = (int)sqrt( d ) ; // 斜辺Cの整数値を求め、改めて確認する。 if ( c*c == d ) { printf( "%d %d %d\n" , a , b , c ) ; } } } }
(1) 計算誤差の問題を考えてみよう。
たとえば、3:4:5の直角三角形で、3*3+4*4 = 25 だが、sqrt(25)は実数で計算するから、 計算誤差で4.99999で求まったらどうなるだろうか?
1~100までの数値で、”int c = sqrt( (double)(i*i) ) ;” を計算してみて、 異なる値が求まることはあるか? 多少の計算誤差があっても正しく処理が行われるにはどうすればいいか、考えてみよう。
(2) 無駄な答えについて考えてみよう。
このプログラムの答えでは、簡単な整数比の答えの「整数倍の答え」も表示されてしまう。 たとえば、(3:4:5)の答えのほかに、(6:8:10)も表示される。 こういった答えを表示しないようにするにはどうすればよいか?
また、この2つのプログラムの処理時間を実際に比べてみる。
#include <stdio.h> #include <time.h> int main() { time_t start , end ; // time() 関数は、秒数しか求まらないので、 // あえて処理を1000回繰り返し、数秒かかる処理にする。 start = time( NULL ) ; for( int i = 0 ; i < 1000 ; i++ ) { // ただし、関数内のprintfをコメントアウトしておくこと integer_triangle( 100 ) ; } end = time( NULL ) ; printf( "%lf\n" , difftime( end , start ) ) ; return 0 ; }
再帰プログラミング
組み合わせ問題では、forループの多重の入れ子で問題を解けない場合が多い。 (書けないことはないけど無駄なループで処理が遅くなるか、入れ子段数が可変にできない。)
こういった場合には、再帰プログラミングがよく利用される。 もっとも簡単な再帰の例として、階乗のプログラムを考える。 通常であれば、以下のような for ループで記述することになるだろう。
// 階乗の計算 int fact( int x ) { // ループ int f = 1 ; for( int i = 2 ; i <= x ; i++ ) f = f * i ; return f ; }
再帰呼び出しでは、関数の処理の中に、自分自身の関数呼び出しが含まれる。 また、無限に自分自身を呼び出したら処理が止まらないので、 問題を一つ小さくして、これ以上小さくできないときは処理を止めるように記述する。
int fact( int x ) { // 再帰呼び出し if ( x <= 1 ) return 1 ; else return x * fact( x - 1 ) ; }
ここ以降は、指定長さを指定辺の組み合わせで作る課題と、後に述べるFlood-fill 課題の選択とする。
指定長を指定辺の組み合わせで作る(テーマ1)
再帰を使った簡単なパズル問題として、以下のプログラムを作成したい。
配列の中に、複数の辺の長さが入っている。これを組み合わせて指定した長さを作れ。 使用する辺はできるだけ少ない方がよい。
int a[] = { 4 , 5 , 2 , 1 , 3 , 7 } ;
(例) 辺の長さ10を作るには、(5,4,1)とか(7,3)などが考えられる。
これは、ナップサック問題の基本問題で、容量の決まったナップサックに最大量入れる組合せを求めるのと同じである。
このプログラムを解くには…
10 を [4,5,2,1,3,7] で作るには... (0) 6=10-4 を [4|5,2,1,3,7]で作る。 (1) 5=10-5 を [5|4,2,1,3,7]で作る。 (2) 8=10-2 を [2|5,4,1,3,7]で作る。 (3) 9=10-1 を [1|5,2,4,3,7]で作る。 (4) 7=10-3 を [3|5,2,1,4,7]で作る。 (5) 3=10-7 を [7|5,2,1,3,4]で作る。
そこで、ここまでの考えを、以下のようなプログラムで記述してみる。
# まだ再起呼び出しにはしていない。
// 指定されたデータを入れ替える。 void swap( int*a , int*b ) { int x = *a ; *a = *b ; *b = x ; } void check( int array[] , int size , int len , int n ) { // array[] 配列 // size 配列サイズ // len 作りたい長さ // n 使った個数 for( int i = n ; i < size ; i++ ) { // i番目を先頭に... swap( &array[ n ] , &array[ i ] ) ; printf( "check( array , %d , %d , %d )\n" , size , len - array[ n ] , n+1 ) ; // 最初のswapでの変更を元に戻す。 swap( &array[ i ] , &array[ n ] ) ; } } int main() { int a[] = { 4 , 5 , 2 , 1 , 3 , 7 } ; check( a , 6 , 10 , 0 ) ; }
(1) これを再帰呼び出しにしてみよう。どう書けばいい?
void check( int array[] , int size , int len , int n )
{
// array[] 配列
// size 配列サイズ
// len 作りたい長さ
// n 使った個数
if ( len < 0 ) {
// 指定した丁度の長さを作れなかった。
;
} else if ( len == 0 ) {
// 指定した長さを作れたので答えを表示。
for( int i = 0 ; i < n ; i++ ) {
printf( "%d " , array[ i ] ) ;
}
printf( "\n" ) ;
} else {
// 問題を一つ小さくして再帰。
for( int i = n ; i < size ; i++ ) {
swap( &array[ n ] , &array[ i ] ) ;
printf( "check( array , %d , %d , %d )\n" ,
size , len - array[ n ] , n+1 ) ;
check( array , size , len - array[ n ] , n + 1 ) ;
swap( &array[ i ] , &array[ n ] ) ;
}
}
}
(2) 少ない組み合わせの方がポイントが高い場合には、プログラムをどう変更する?
(3) 答えが1つだけで良い場合は、プログラムをどう変更する?
(4) このプログラムでは、冗長な答えがあるか?ないか?検討せよ。
(5) 前設問の整数比直角三角形のプログラムで、冗長な答えを削除するプログラムを作成せよ。
# レポートでは、(2),(3),(4)を検討した結果を実験すること。(5)までチャレンジした人は(2),(3),(4)の説明は簡単に記載するだけで良い。
別解
この問題の解き方には、もっとシンプルな書き方がある。2進数の各bitを、j番目の長さを使うか使わないかを表すこととする。
例えば、j=1番目,3番目を使うというのを、000101)2=5で表すこととする。すべての長さを使うのであれば、111111)2=63 で表す。この2進数を1から63まで変化させれば、すべての組み合わせを試すことになる。
#include <stdio.h> #define sizeofarray(A) (sizeof(A)/sizeof(A[0])) int obj_len = 10 ; int a[] = { 4 , 5 , 2 , 1 , 3 , 7 } ; int main() { int l_max = 1 << sizeofarray( a ) ; for( int i = 1 ; i < l_max ; i++ ) { // i は a[j]を使うか使わないかを表す2進数 // i = 5 の場合 // 5 = 0,0,0,1,0,1 // a[] 7,3,1,2,5,4 // ^ ^ = 長さは6 int sum = 0 ; for( int j = 0 ; j < sizeofarray( a ) ; j++ ) { // iの2進数の各bitに対応する長さを加算 if ( (i & (1 << j)) != 0 ) sum += a[ j ] ; } // 目的の長さを作れたので答えを表示 if ( sum == obj_len ) { printf( "0x%x : " , i ) ; for( int j = 0 ; j < sizeofarray( a ) ; j++ ) { if ( (i & (1 << j)) != 0 ) { printf( "%d " , a[ j ] ) ; } } printf( "\n" ) ; } } return 0 ; }
このプログラムは再帰呼び出しを含まないので、プログラムの挙動も解りやすい。しかし、j番目を使うか使わないのか…という2つの状態しかない組み合わせ問題でしか使えない。R3年度の競技部門のパズルように、絵のピースの↑,→,↓,←,回転右,回転左という6状態の場合は、使えない。
Flood fill アルゴリズム
再帰を使う他の事例として、図形の塗りつぶし問題で示す。(Wikipedia Flood-fill参照)
以下の image のような2次元配列が与えられたら、指定座標(x,y)を中心に周囲を塗りつぶす処理を作成せよ。
include <stdio.h> // *は壁 SPCは白 この領域の指定位置を#で塗りつぶす。 char image1[10][10] = { // (4,4)始点で塗りつぶし後 "*********" , // ********* "* * *" , // * *###* "* * *" , // * *###* "* * *" , // * *####* "*** ***" , // ***###*** "* * *" , // *####* * "* * *" , // *###* * "* * *" , // *###* * "*********" , // ********* } ; char image2[10][10] = { // 応用問題用の画像例 "*********" , // * のような隙間は通り抜けられる "* * *" , // * ようにするにはどうすればいい? "* ** *" , // ** "* ** *" , // ** これは通り抜けられない "*** ***" , // ** "* * *" , "* * *" , "* * *" , "*********" , } ; // 盤面を表示 void print_image( char image[10][10] ) { for( int y = 0 ; y < 9 ; y++ ) { for( int x = 0 ; x < 9 ; x++ ) { printf( "%c" , image[y][x] ) ; } printf( "\n" ) ; } } // 再帰呼び出しを使った flud_fill アルゴリズム void flood_fill( char image[10][10] , int x , int y , char fill ) { // image: 塗りつぶす画像 // x,y: 塗りつぶす場所 // fill: 書き込む文字 // 指定座標が空白なら if ( image[y][x] == ' ' ) { // その座標を埋める image[y][x] = fill ; ////////////////////////////////////// // ここに周囲をflud_fillする処理を書く // ////////////////////////////////////// } } int main() { print_image( image1 ) ; flood_fill( image1 , 4 , 4 , '#' ) ; print_image( image1 ) ; return 0 ; }
応用問題
Wikipediaのflood-fill のプログラムの説明のアルゴリズムでは、左図黒のような斜めに並んだブロックは、境界として通り抜けられないようにつくられている。
そこで、斜めに並んだブロックは通り抜けられるルールとした場合のプログラムを記述せよ。
レポート提出
レポートでは、指定長を辺の組み合わせで作るテーマか、Flood-fill のテーマのいずれかにて、以下の内容をまとめてレポートとして提出すること。
-
- レポートの説明(自分の選んだテーマと自分なりの説明)
- プログラムリスト
- 動作確認の結果
コンピュータとN進数
3年の情報制御基礎の授業の一回目。この授業では、情報系以外の学生も受講することから、基礎的な共通的な話題を中心に説明を行う。参考:2021年度の講義資料
情報制御基礎のシラバス
情報制御基礎では、ここに上げたシラバスに沿って授業を行う。
基本的に、センサーから読み取ったデータを使って動く制御系システムを作る場合の基礎知識ということで、アナログ量・デジタル量の話から、移動平均やデータ差分といった数値処理や、そこで求まった値を制御に用いるための基礎的な話を行う。
コンピュータと組み込み系
最近では、コンピュータといっても様々な所で使われている。
- 科学技術計算用の大型コンピュータ(最近なら富岳や京が有名)や
- インターネットの処理を行うサーバ群
(必要に応じてサービスとして提供されるものはクラウドコンピューティングと呼ぶ)、 - デスクトップパソコン、
- タブレットPCやスマートフォンのような端末、
- 電化製品の中に収まるようなワンチップコンピュータなどがある。

(5) ワンチップコンピュータ:PIC
身近で使われている情報制御という点では、(5)のような小型のコンピュータも多く、こういったものは組み込み型コンピュータとも呼ばれる。しかし、こういったコンピュータは、小さく機能も限られているので、
- 組み込み系では、扱える数値が整数で 8bit や 16bit といった精度しかなかったり、
- 実数を伴う複雑な計算をするには、処理時間がかかったりする
ため、注意が必要である。
この情報制御基礎の授業では、組み込み系のコンピュータでも数値を正しく扱うための知識や、こういった小さいコンピュータで制御を行うことを踏まえた知識を中心に説明を行う。
2進数と10進数
コンピュータの中では、電圧が高い/低いといった状態で0と1の2通りの状態を表し、その 0/1 を組み合わせて、大きな数字を表す(2進数)。
練習として、2進数を10進数で表したり、10進数を2進数に直してみよう。
N進数を10進数に変換
N進数で “abcde” があったとする。(2進数で”10101)2“とか、10進数で”12345)10“とか)
この値は、以下のような式で表せる。
(例1)
(例2)
10進数をN進数に変換
N進数のは、前式を変形すると、以下のような式で表せることから、
値をNで割った余りを求めると、N進数の最下位桁eを取り出せる。
このため、10進数で与えられた35を2進数に変換するのであれば、35を2で次々と割った余りを、下の桁から書きならべれば2進数100011)2が得られる。
実数の場合
途中に小数点を含むN進数のab.cde)Nであれば、以下の値を意味する。
ここで、小数点以下だけを取り出した、0.cde)Nを考えると、
の値に、Nをかけると、次のように変形できる。
この式を見ると、小数部にNをかけると、整数部分に小数点以下1桁目が取り出せる。
このため、10進数で与えられた、0.625を2進数に変換するのであれば、0.625に次々と2をかけて、その整数部を上の桁から書きならべれば、2進数0.101)2が得られる。
ただし、10進数で0.1という値で、上記の計算を行うと、延々と繰り返しが発生する。つまり、無限小数になるので注意せよ。
2の補数と負の数
コンピュータの中で引き算を行う場合には、2の補数がよく使われる。2の補数とは、2進数の0と1を入替えた結果(1の補数)に、1を加えた数である。
元の数に2の補数
を加えると(2進数が8bitの数であれば)、どのような数でも1,0000,0000という値になる。この先頭の9bit目が必ずはみ出し、この値を覚えないのであれば、元の数+2の補数=0とみなすことができる。このことから、2の補数= (-元の数) であり、負の数を扱うのに都合が良い。
練習問題
(1) 自分の誕生日で、整数部を誕生日の日、小数点以下を誕生日の月とした値について、2進数に変換せよ。(例えば、2月7日の場合は、”7.02″という小数点を含む10進数とする。)
変換の際には、上の説明の中にあるような計算手順を示すこと。また、その2進数を10進数に直し、元の値と同じか確認すること。(ただし、結果の2進数が無限小数になる場合最大7桁まで求めれば良い。同じ値か確認する際には無限少数の場合は近い値になるか確認すること)
(2) 自分の誕生日の日と、自分の学籍番号の下2桁の値を加えた値について、8bitの2進数で表わせ。(2月7日生まれの出席番号13番なら7+13=21)
その後、8bitの2進数として、2の補数を求めよ。また、元の数と2の補数を加えた値についても検証すること。
レポートの提出先は、こちらのリンクを参照(この中にレポート書式のひな型を置いてあります)
オブジェクト指向/2022/ガイダンス
専攻科2年のオブジェクト指向プログラミングの授業の1回目。
最近のプログラミングの基本となっているオブジェクト指向について、その機能についてC++言語を用いて説明し、後半では対象(オブジェクト)をモデル化して設計するための考え方(UML)について説明する。
評価は、3つの課題と最終テストを各25%づつで評価を行う。
オブジェクト指向プログラミングの歴史
最初のプログラム言語のFortran(科学技術計算向け言語)の頃は、処理を記述するだけだったけど、 COBOL(商用計算向け言語)ができた頃には、データをひとまとめで扱う「構造体」(C言語ならstruct {…}の考えができた。(データの構造化)
// C言語の構造体 struct Person { // 1人分のデータ構造をPersonとする char name[ 20 ] ; // 名前 int b_year, b_month, b_day ; // 誕生日 } ;
一方、初期のFortranでは、プログラムの処理順序は、繰り返し処理も if 文と goto 文で記載し、処理がわかりにくかった。その後のALGOLの頃には、処理をブロック化して扱うスタイル(C言語なら{ 文 … }の複文で 記述する方法ができてきた。(処理の構造化)
// ブロックの考えがない時代の雰囲気をC言語で表すと int i = 0 ; LOOP: if ( i >= 10 ) goto EXIT ; if ( i % 2 != 0 ) goto NEXT ; printf( "%d " , i ) ; NEXT: i++ ; goto LOOP ; // 処理の範囲を字下げ(インデント)で強調 EXIT: --------------------------------------------------- // C 言語で書けば int i ; for( i = 0 ; i < 10 ; i++ ) { if ( i % 2 == 0 ) { printf( "%d¥n" , i ) ; } } --------------------------------------------------- ! 構造化文法のFORTRANで書くと integer i do i = 0 , 9 if ( mod( i , 2 ) == 0 ) then print * , i end if end do
このデータの構造化・処理の構造化により、プログラムの分かりやすさは向上し、このデータと処理をブロック化した書き方は「構造化プログラミング(Structured Programming)」 と呼ばれる。
雑談
ここで紹介した、最古の高級言語 Fortran や COBOL は、今でも使われている。Fortran は、スーパーコンピュータなどで行われる数値シミュレーションでは、広く利用されている。また COBOL は、銀行などのシステムでもまだ使われている。しかしながら、新システムへの移行で COBOL を使えるプログラマーが定年を迎え減っていることから、移行トラブルが発生している。特に、CASEツール(UMLなどの図をベースにしたデータからプログラムを自動生成するツール)によって得られた COBOL のコードが移行を妨げる原因となることもある。
この後、様々なプログラム言語が開発され、C言語などもできてきた。 一方で、シミュレーションのプログラム開発(例simula)では、 シミュレーション対象(object)に対して、命令するスタイルの書き方が生まれ、 データに対して命令するという点で、擬人法のようなイメージで直感的にも分かりやすかった。 これがオブジェクト指向プログラミング(Object Oriented Programming)の始まりとなる。略記するときは OOP などと書くことが多い。
この考え方を導入した言語の1つが Smalltalk であり、この環境では、プログラムのエディタも Smalltalk で記述したりして、オブジェクト指向がGUIのプログラムと親和性が良いことから、この考え方は多くのプログラム言語へと取り入れられていく。
C言語にこのオブジェクト指向を取り入れ、C++が開発される。さらに、この文法をベースとした、 Javaなどが開発されている。最近の新しい言語では、どれもオブジェクト指向の考えが使われている。
この授業の中ではオブジェクト指向プログラミングにおける、隠蔽化, 派生と継承, 仮想関数 などの概念を説明する。
構造体の導入
C++でのオブジェクト指向は、C言語の構造体の表記がベースになっているので、まずは構造体の説明。詳細な配布資料を以下に示す。
// 構造体の宣言 struct Person { // Personが構造体につけた名前 char name[ 20 ] ; // 要素1 int phone ; // 要素2 } ; // 構造体定義とデータ構造宣言を // 別に書く時は「;」の書き忘れに注意 // 構造体変数の宣言 struct Person saitoh ; struct Person data[ 10 ] ; // 実際にデータを参照 構造体変数.要素名 strcpy( saitoh.name , "t-saitoh" ) ; saitoh.phone = 272925 ; for( int i = 0 ; i < 10 ; i++ ) { scanf( "%d%s" , data[ i ].name , &(data[ i ].phone) ) ; }
構造体に慣れていない人のための課題
- 以下に、C言語の構造体を使った基本的なプログラムを示す。このプログラムでは、国語,算数,理科の3科目と名前の5人分のデータより、各人の平均点を計算している。このプログラムを動かし、以下の機能を追加せよ。レポートには プログラムリストと動作結果の分かる結果を付けること。
- 国語の最低点の人を探し、名前を表示する処理。
- 算数の平均点を求める処理。
#include <stdio.h> struct Student { char name[ 20 ] ; int kokugo ; int sansu ; int rika ; } ; struct Student table[5] = { // name , kokugo , sansu , rika { "Aoyama" , 56 , 95 , 83 } , { "Kondoh" , 78 , 80 , 64 } , { "Saitoh" , 42 , 78 , 88 } , { "Sakamoto" , 85 , 90 , 36 } , { "Yamagosi" ,100 , 72 , 65 } , } ; int main() { int i = 0 ; for( i = 0 ; i < 5 ; i++ ) { double sum = table[i].kokugo + table[i].sansu + table[i].rika ; printf( "%-10.10s %3d %3d %3d %6.2lf\n" , table[i].name , table[i].kokugo , table[i].sansu , table[i].rika , sum / 3.0 ) ; } return 0 ; }
値渡し,ポインタ渡し,参照渡し
C言語をあまりやっていない学科の人向けのC言語の基礎として、関数との値渡し, ポインタ渡しについて説明する。ただし、参照渡しについては電子情報の授業でも細かく扱っていない内容なので電子情報系学生も要注意。
オブジェクト指向のプログラムでは、構造体のポインタ渡し(というよりは参照渡し)を多用するが、その基本となる関数との値の受け渡しの理解のため、以下に値渡し・ポインタ渡し・参照渡しについて説明する。
ポインタと引数
値渡し(Call by value)
// 値渡しのプログラム void foo( int x ) { // x は局所変数(仮引数は呼出時に // 対応する実引数で初期化される。 x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } int main() { int a = 123 ; foo( a ) ; // 124 // 処理後も main::a は 123 のまま。 foo( a ) ; // 124 return 0 ; }
このプログラムでは、aの値は変化せずに、124,124 が表示される。ここで、関数 foo() を呼び出しても、関数に「値」が渡されるだけで、foo() を呼び出す際の実引数 a の値は変化しない。こういった関数に値だけを渡すメカニズムは「値渡し」と呼ぶ。
値渡しだけが使われれば、関数の処理後に変数に影響が残らない。こういった処理の影響が残らないことは一般的に「副作用がない」という。
大域変数を使ったプログラム
でも、プログラムによっては、124,125 と変化して欲しい場合もある。どのように記述すべきだろうか?
// 大域変数を使う場合 int x ; void foo() { x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } int main() { x = 123 ; foo() ; // 124 foo() ; // 125 return 0 ; }
しかし、このプログラムは大域変数を使うために、間違いを引き起こしやすい。大域変数はどこでも使える変数であり、副作用が発生して間違ったプログラムを作る原因になりやすい。
// 大域変数が原因で予想外の挙動をしめす簡単な例 int i ; void foo() { for( i = 0 ; i < 2 ; i++ ) printf( "A" ) ; } int main() { for( i = 0 ; i < 3 ; i++ ) // このプログラムでは、AA AA AA と foo() ; // 表示されない。 return 0 ; }
ポインタ渡し(Call by pointer)
C言語で引数を通して、呼び出し側の値を変化して欲しい場合は、変更して欲しい変数のアドレスを渡し、関数側では、ポインタ変数を使って受け取った変数のアドレスの示す場所の値を操作する。(副作用の及ぶ範囲を限定する) こういった、値の受け渡し方法は「ポインタ渡し」と呼ぶ。
// ポインタ渡しのプログラム void foo( int* p ) { // p はポインタ (*p)++ ; printf( "%d¥n" , *p ) ; } int main() { int a = 123 ; foo( &a ) ; // 124 // 処理後 main::a は 124 に増えている。 foo( &a ) ; // 124 return 0 ; // さらに125と増える }
ポインタを利用して引数に副作用を与える方法は、ポインタを正しく理解していないプログラマーでは、危険な操作となる。
参照渡し(Call by reference)
C++では、ポインタ渡しを極力使わないようにするために、参照渡しを利用する。ただし、ポインタ渡しも参照渡しも、機械語レベルでは同じ処理にすぎない。
// ポインタ渡しのプログラム void foo( int& x ) { // xは参照 x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } int main() { int a = 123 ; foo( a ) ; // 124 // 処理後 main::a は 124 に増えている。 foo( a ) ; // 124 return 0 ; // さらに125と増える。 }
大きなプログラムを作る場合、副作用のあるプログラムの書き方は、間違ったプログラムの原因となりやすい。そこで関数の呼び出しを中心としてプログラムを書くものとして、関数型プログラミングがある。
専攻科実験・コンパイラと関数電卓プログラム作成
- コンパイラの技術と関数電卓プログラム(1)
- 再帰下降パーサによる構文解析による電卓プログラム作成
- 補助資料:コンパイラの技術と関数電卓プログラム(1-2)
- 課題
- 複数桁の数字が使えること。
- 式中に空白が使えること。
- 何らかの演算子を追加すること。
- (例) %,単項演算子のマイナスなど
- 演算子が左結合か右結合か確認すること。
- オプション課題
- 変数が使えること。
(変数名は1文字のA-Zといったもので良い)
- 変数が使えること。
- レポート内容
- コンパイラ技術の概要、課題(1)の説明・最終的なBNF記法・ソース・動作検証、考察
- コンパイラの技術と関数電卓プログラム(2)
- コンパイラツールを使ったLR構文解析による電卓プログラムの作成
- 補助資料:専攻科実験: unix系 開発環境のインストール
- 課題
- 基本的に、lex+yaccで(1)と同様の課題で参考資料を元に改良を行う。
- レポート内容
- lex,yaccの概要、課題(2)の説明・ソース・動作検証、考察