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演算子と2分木による式の表現

2分木の応用として式の表現の説明を行うけど、その前に計算式の一般論の説明を行う。

逆ポーランド記法

一般的に 1*2 + 3*4 と記載すると、数学的には演算子の優先順位を考慮して、(1*2)+(3*4) のように乗算を先に行う。このような優先順位を表現する時に、()を使わない方法として、逆ポーランド記法がある。

演算子の書き方には、前置記法、中置記法、後置記法があり、後置記法は、「2と3を掛ける、それに1を加える」と捉えると、日本語の処理と似ている。

中置記法 1+2*3
前置記法 +,1,*,2,3
後置記法 1,2,3,*,+  # 1と「2と3をかけた値」をたす。

後置記法は、一般的に逆ポーランド記法(Reverse Polish Notation)とも呼ばれ、式を機械語の命令に置き換える際に役立つ。

演算子の右結合・左結合

例えば、”1/2*3″という式が与えられたとする。この結果は、1/6だろうか?3/2だろうか?

一般的な数学では、優先順位が同じ演算子が並んだ場合、左側から計算を行う。つまり”1/2*3″は、”(1/2)*3″を意味する。こういった左側の優先順位が高い演算子は左結合の演算子という。

ただしC言語では、”a = b = c = 0″ と書くと、”a = (b = (c = 0))” として扱われる。こういった代入演算子は、 右結合の演算子である。

理解度確認

以下の式を指定された書き方で表現せよ。

逆ポーランド記法 1,2,*,3,4,*,+ を中置記法で表現せよ。
中置記法 (1+2)*3-4*5 を逆ポーランド記法で表現せよ。

以前の情報処理技術者試験では、スタックの概念の理解の例題として、逆ポーランド記法への変換アルゴリズムのプログラム作成が出題されることが多かったが、最近は出題されることはなくなってきた。

逆ポーランド記法の式の実行

この逆ポーランド記法で書かれた式から結果を求めるプログラムは以下のように記述できる。このプログラムでは式を簡単にするため、数値は1桁の数字のみとする。

// 単純な配列を用いたスタック
int stack[ 10 ] ;
int sp = 0 ;

void push( int x ) {
   stack[ sp++ ] = x ;
}
int pop() {
   return stack[ --sp ] ;
}

// 逆ポーランド記法の計算
int rpn( char* p ) {
   for( ; *p != '
// 単純な配列を用いたスタック
int stack[ 10 ] ;
int sp = 0 ;

void push( int x ) {
   stack[ sp++ ] = x ;
}
int pop() {
   return stack[ --sp ] ;
}

// 逆ポーランド記法の計算
int rpn( char* p ) {
   for( ; *p != '\0' ; p++ ) {
      if ( isdigit( *p ) ) {
         //         ~~(A)
         // 数字はスタックに積む
         push( *p - '0' ) ;
         //    ~~~~~~~~(B)
      } else if ( *p == '+' ) {
         // 演算子+は上部2つを取出し
         int r = pop() ;
         int l = pop() ;
         // 加算結果をスタックに積む
         push( l + r ) ;
      } else if ( *p == '*' ) {
         // 演算子*は上部2つを取出し
         int r = pop() ;
         int l = pop() ;
         // 乗算結果をスタックに積む
         push( l * r ) ;
      }//~~~~~~~~~~~~~(C)
   }
   // 最終結果がスタックに残る
   return pop() ;
}

void main() {
   printf( "%d\n" , rpn( "123*+" ) ) ;
}
' ; p++ ) { if ( isdigit( *p ) ) { // ~~(A) // 数字はスタックに積む push( *p - '0' ) ; // ~~~~~~~~(B) } else if ( *p == '+' ) { // 演算子+は上部2つを取出し int r = pop() ; int l = pop() ; // 加算結果をスタックに積む push( l + r ) ; } else if ( *p == '*' ) { // 演算子*は上部2つを取出し int r = pop() ; int l = pop() ; // 乗算結果をスタックに積む push( l * r ) ; }//~~~~~~~~~~~~~(C) } // 最終結果がスタックに残る return pop() ; } void main() { printf( "%d\n" , rpn( "123*+" ) ) ; }

逆ポーランド記法の式の実行は、上記のようにスタックを用いると簡単にできる。このようなスタックと簡単な命令で複雑な処理を行う方法はスタックマシンと呼ばれる。Java のバイトコードインタプリタもこのようなスタックマシンである。

Cプログラママニア向けの考察

上記のプログラムでは、int r=pop();…push(l+r); で記載しているが、

push( pop() + pop() ) ;

とは移植性を考慮して書かなかった。理由を述べよ。

最初の関数電卓

初期の関数電卓では複雑な数式を計算する際に、演算子の優先順位を扱うのが困難であった。このため、HP社の関数電卓では、式の入力が RPN を用いていた。(HP-10Cシリーズ)

2項演算と構文木

演算子を含む式が与えられたとして、古いコンパイラではそれを逆ポーランド変換して計算命令を生成していた。しかし最近の複雑な言語では、計算式や命令を処理する場合、その式(または文)の構造を表す2分木(構文木)を生成する。。

   +
  / \
 1   *
    / \
   2   3

演算子の木のノードで、末端は数値であることに注目し、右枝・左枝がNULLなら数値(data部にはその数値)、それ以外は演算子(data部には演算子の文字コード)として扱うとして、上記の構文木のデータを作る処理と、その構文木の値を計算するプログラムを示す。

struct Tree {
   int  data ;
   struct Tree* left ;
   struct Tree* right ;
} ;
struct Tree* tree_int( int x ) // 数値のノード
{
   struct Tree* n ;
   n = (struct Tree*)malloc( sizeof( struct Tree ) ) ;
   if ( n != NULL ) {
      n->data = x ;
      n->left = n->right = NULL ;
   }
   return n ;
}
struct Tree* tree_op( int op , // 演算子のノード
                   struct Tree* l , struct Tree* r ) {
   struct Tree* n ;
   n = (struct Tree*)malloc( sizeof( struct Tree ) ) ;
   if ( n != NULL ) {     // ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(D)
      n->data  = op ;
      n->left  = l ;
      n->right = r ;
   }
   return n ;
}
// 与えられた演算子の木を計算する関数
int eval( struct Tree* p ) {
   if ( p->left == NULL && p->right == NULL ) {
      // 数値のノードは値を返す
      return p->data ;
   } else {
      // 演算子のノードは、左辺値,右辺値を求め
      // その計算結果を返す
      switch( p->data ) {
      case '+' : return eval( p->left ) + eval( p->right ) ;
      case '*' : return eval( p->left ) * eval( p->right ) ;
      }              // ~~~~~~~~~~~~~~~(E)      ~~~~~~~~(F)
   }
}

void main() {
   struct Tree* exp =  // 1+(2*3) の構文木を生成
      tree_op( '+' ,
               tree_int( 1 ) ,
               tree_op( '*' ,
                        tree_int( 2 ) ,
                        tree_int( 3 ) ) ) ;
   printf( "%d¥n" , eval( exp ) ) ;
}

理解度確認

  • push(),pop() のスタックは、保存と取り出しの順序を表す単語の頭文字4つを使って何と呼ばれるか?
  • 上記プログラム中の(A)~(F)の型を答えよ。

GROUP BY HAVINGとビューテーブル

GROUP BY HAVING

GROUP BY-HAVING では、指定されたカラムについて同じ値を持つレコードがグループ化される。SELECT 文に指定される集約関数は、グループごとに適用される。HAVING は、ある条件を満たす特定のグループを選択するための条件で、WHERE と違い、集約関数が使える。

SELECT SG.商品番号, SUM(SG.在庫量)
  FROM SG
  GROUP BY SG.商品番号 HAVING SUM(SG.在庫量) >= 500 ;

このSQLを実行すると、SG のテーブルから、商品番号が同じものだけをあつめてグループ化される。そのグループごとに在庫量のデータの合計SUMを集約し、500以上のデータが出力される。

CREATE VIEW

今までで述べてきたSQLでは、実際のテーブルを対象に、結合・選択・射影を行う命令であり、これは概念スキーマと呼ばれる、対象となるデータベース全体を理解したプログラマによって扱われる。

しかし、プログラムの分業化を行い、例えば結果の表示だけを行うプログラマにしてみれば、全てのデータベースの表を考えながらプログラムを作るのは面倒である。そこで、結合・選択・射影の演算の結果で、わかりやすい単純な表となったものであれば、初心者のデータベースプログラマでも簡単に結果を扱うことができる。このような外部スキーマを構成するための機能が、ビューテーブルである。

-- 優良業者テーブルを作る --
CREATE VIEW 優良業者 ( 業者番号 , 優良度 , 所在 )
    AS SELECT S.業者番号, S.優良度, S.所在
         FROM S
         WHERE S.優良度 >= 15 ;

-- 優良業者テーブルから情報を探す --
SELECT *
  FROM 優良業者
  WHERE 優良業者.所在 = '福井' ;

ビューテーブルに対する SQL を実行すると、システムによっては予め実行しておいた CREATE VIEW の AS 以下の SQL の実行結果をキャッシュしておいて処理を行うかもしれない。システムによっては SQL の命令を 副クエリを組合せた SQL に変換し、処理を行うかもしれない。しかし、応用プログラマであれば、その SQL がどのように実行されるかは意識する必要はほとんど無いであろう。

ただし、ビューテーブルに対する 挿入・更新・削除といった演算を行うと、データによっては不整合が発生することもあるので注意が必要である。

SQL言語

教科書の流れに沿ってSQLの言語について、再掲

  • スキーマ定義
    • CREATE – 実テーブル、ビューテーブルの定義
    • GRANT – 権限の定義
  • スキーマ操作
    • DROP – 実テーブル、ビューテーブルの削除
    • REVOKE – 権限の削除
    • ALTER – テーブルの変更
    • ADD – カラムの追加
  • データ操作
    • SELECT, INSERT, DELETE, UPDATE – レコードの検索、追加・削除・更新
    • トランザクション処理
      • データベースでは、原子性などを満たすためにデータベースへの更新履歴を保持している。これらの更新履歴をデータベースに反映させ確定する処理がトランザクション処理。
      • COMMIT – データベースの更新処理を確定
      • ROLLBACK – データベースの更新処理を取り消す

ホスト言語とのインタフェースとSQLインジェクション

プログラミング言語によっては、その言語の中でSQLを使うために「組み込み型のSQL」が使えるものがある。
(COBOL,PL/Iなど)

動的メモリ管理が得意な最近のPythonやPHPなどの言語であれば、データベース参照の関数が利用できる。

SQLインジェクション

例えば、PHPでは、SQLからデータを取り出す処理は、以下のようになる。

// 検索するユーザID
$id = "t-saitoh" ;
$pdo = new PDO( '...' ) ; // データベースに接続する関数
$sql = "select name from usertable where id='$id'" ;
$query = $pdo->prepare( $sql ) ;

// 取り出せたデータに関する処理 id がプライマリキーならforeachは1回ループのはず
foreach( $query->fetcAll() as $name ) {
   // $name に取り出した名前が入っている
} 

しかし、$id の部分を、Web の入力フォームなどの値であれば、名前以外の情報が入力される場合もある。

この際に、「 $id = ” ‘ or 1==1 — ‘ ” 」といった値が入っていた場合、SQLで実行される命令は、

$id = "' or 1==1 --'" の場合
$sql = "select name from usertable where id='' or 1==1 -- ''" ;

となってしまい、本来なら1人のデータを抽出する select 命令が、全テーブルに対して該当してしまい、情報漏洩が発生するかもしれない。

「 $id = “‘; drop usertable ; — ‘” 」であれば、usertable が消されてしまい、システムが動かなくなる(サービスを提供できなくする攻撃 = DoS攻撃 – Denial-of-service attack)ことも考えられる。

こういった攻撃手法は、SQLに本来の意図ではないSQL命令を紛れ込ませる攻撃ということで、SQLインジェクションという。

SQLインジェクションで発生した有名な事件では、以下のようなものがある。

対策としては、ユーザが入力したデータを用いて SQL 命令を実行する場合は、ユーザ入力をSQLとして悪用されないように、シングルクオートなどをエスケープするなどの処理が必要となる。さまざまな手法があるので、SQL無効化の専用関数を用いるべき。

また、データベースシステムは、ネットワーク経由でSQLによる処理を行うが、データベースサーバ自体がインターネットに接続されていて、パスワード攻撃によりデータベース本体に不正アクセスが行われる場合もある。一般的なデータベースを用いたシステムは、フロントエンドのWebサーバ、スレーブDBサーバ、マスタDBサーバの三層構成をとることが多いが、バックエンドのデータベースは、インターネットから隔離しフロントエンドのWebサーバのみ接続できるようにするのが一般的である。

データベースに接続する場合はパスワードにより利用者を限定することができるが、データベースシステム自体がインターネットに接続されていると、パスワード総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)や、パスワードスプレー攻撃(総当たり攻撃は、短時間でパスワード失敗が多発するのでシステムで接続拒否するのが一般的。これを回避するために時間をかけて総当たり攻撃をする手法)により、情報漏洩が発生する。

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