ホーム » スタッフ » 斉藤徹 » 講義録 » 情報構造論 » 集合とリスト処理

2020年7月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

検索・リンク

集合とリスト処理

リストを用いた待ち行列の補足

# リストによる待ち行列を早速に創造工学演習で応用した人からの質問より…

以前に説明したリストを用いた待ち行列(queue)において、時間的都合から詳しく説明できなかった点の注意点を説明する。

待ち行列の説明では、get() の処理を以下のように示していた。しかし、このままでは、待ち行列が1件の状態で、以下のような get() を実行するとポインタが以下のような図に示される状態となり、tail ポインタがおかしい状態となる。

struct List* queue = NULL ;
struct List** tail = &queue ;
// 待ち行列の先頭から取り出す。
int get() {
   struct List* d = queue ;
   int ans = d->data ;
   queue = queue->next ;
   free( d ) ;
}

このため、待ち行列内のデータ件数が 0 件になる時だけ、tail ポインタが正しくなるような特別処理を加える必要がある。こういった特別処理は、以後の授業で説明する双方向リスト(deque:double-ended queue)などでは、プログラムを複雑化させてしまうので、別途「番兵」というテクニックが使われる。

リスト処理による積集合

前述の方法は、リストに含まれる/含まれないを、2進数の0/1で表現する方式である。しかし、2進数であれば、unsigned int で 32要素、unsigned long long int で 64 要素が上限となってしまう。 (32bitコンピュータ,gccの場合)

しかし、リスト構造であれば、リストの要素として扱うことで、要素件数は自由に扱える。また、今までの授業で説明してきた cons() などを使って表現すれば、簡単なプログラムでリストの処理が記述できる。

// 先週までに説明してきたリスト構造と補助関数
struct List {
   int     data ;
   struct List* next ;
} ;
// リストの入れ物を1つ作る
struct List* cons( int x , struct List* n ) {
   struct List* ans ;
   ans = (struct List*)malloc( sizeof( struct List ) ) ;
   if ( ans != NULL ) {
      ans->data = x ;
      ans->next = n ;
   }
   return ans ;
}
// リストを表示
void print( struct List* p ) {
   for( ; p != NULL ; p = p->next ) {
      printf( "%d " , p->data ) ;
   }
   printf( "\n" ) ;
}
// リストの中に指定要素があるか判定(有れば1,無ければ0)
int find( struct List* p , int key ) {
   for( ; p != NULL ; p = p->next )
      if ( p->data == key )
         return 1 ;
   return 0 ;
}

例えば、積集合(a ∩ b)を求めるのであれば、リストa の各要素が、リストb の中に含まれるか find 関数でチェックし、 両方に含まれたものだけを、ans に加えていく…という考えでプログラムを作ると以下のようになる。

// 集合積の計算
struct List* set_prod( struct List* a , struct List* b ) {
   struct List* ans = NULL ;
   for( ; a != NULL ; a = a->next ) {
      // aの要素がbにも含まれていたら、ansに加える
      if ( find( b , a->data ) )
         ans = cons( a->data , ans ) ;
   }
   return ans ;
}
void main() {
   struct List* a = cons( 1, cons( 2, cons( 3, NULL ) ) ) ;
   struct List* b = cons( 2, cons( 4, cons( 6, NULL ) ) ) ;
   struct List* c = cons( 4, cons( 6, cons( 9, NULL ) ) ) ;
   print( set_prod( a , b ) ) ;
   print( set_prod( b , c ) ) ;
}

例題として、和集合差集合などを考えてみよう。

リストの共有と削除の問題

リスト処理では、mallocを使うが、メモリリークをさせないためには、使用後のリストの廃棄は重要である。リストの全要素を捨てる処理であれば、以下のようになるであろう。

void list_free( struct List* p ) {
   while( p != NULL ) {
      struct List* d = p ;
      p = p->next ;
      free( d ) ; // 順序に注意
   }
}

一方、前説明の和集合(a ∪ b)のプログラムを以下のように作った場合、list_freeの処理は問題となる。

// 集合和
struct List* set_union( struct List*a, struct List*b ) {
   struct List* ans = b ;
   for( ; a != NULL ; a = a->next )
      if ( !find( b , a->data ) )
         ans = cons( a->data , ans ) ;
   return ans ;
}
void main() {
   struct List*a = cons( 1, cons( 2, cons( 3, NULL ) ) ) ;
   struct List*b = cons( 2, cons( 3, cons( 4, NULL ) ) ) ;
   struct List*c = set_union( a , b ) ;
   // a,b,cを使った処理
   // 処理が終わったので、a,b,cを捨てる
   list_free( a ) ;
   list_free( b ) ;
   list_free( c ) ;
   // c = { 1 , (bのリスト) }
   // (b)の部分は先のlist_free(b)で解放済み
}

このような、リストb,リストcで共有されている部分があると、データの廃棄処理をどのように記述すべきなのか、問題となる。

これらの解決方法としては、(1) set_union() の最初で、ans=b となっている部分を別にコピーしておく、(2) 参照カウンタ法を用いる、(3) ガベージコレクタのある言語を用いる…などがある。(2),(3)は後期授業で改めて解説を行う。

// 同じ要素を含む、新しいリストを作る
struct List* copy( struct List*p ) {
   struct List*ans = NULL ;
   for( ; p != NULL ; p = p->next )
      ans = cons( p->data , ans ) ;
   return ans ;
}
struct List* set_union( struct List*a, struct List* b ) {
   struct List* ans = copy( b ) ;
   // この後は自分で考えよう。
}

理解確認

  • 2進数を用いた集合処理は、どのように行うか?
  • リスト構造を用いた集合処理は、どのように行うか?
  • 積集合(A ∩ B)、和集合(A ∪ B)、差集合(A – B) の処理を記述せよ。