集合の処理
リスト構造は、必要に応じてメモリを確保するデータ構造であり、データ件数に依存しないプログラム が記述できる。その応用として、集合処理を考えてみる。
2進数を用いた集合計算
リストによる集合の前に、もっと簡単な集合処理を考える。 データ件数の上限が少ない場合には、2進数を用いるとC言語のビット演算命令で 和集合、積集合が考えられるので、簡単となる。
以下のプログラムは、0〜31の数字を2進数の各ビットに対応付けし、 ba = {1,2,3} , bb = {2,4,6} , bc= {4,6,9} を要素として持つ集合で、ba ∩ bb , bb ∩ bc の計算を行う例である。
void bit_print( unsigned int x ) { for( int i = 0 ; i < 32 ; i++ ) if ( (x & (1 << i)) != 0 ) printf( "%d " , i ) ; printf( "\n" ) ; } void main() { unsigned int ba = (1<<1) | (1<<2) | (1<<3) ; // ba = {1,2,3} unsigned int bb = (1<<2) | (1<<4) | (1<<6) ; // bb = {2,4,6} unsigned int bc = (1<<4) | (1<<6) | (1<<9) ; // bc = {4,6,9} bit_print( ba & bb ) ; // ba ∩ bb bit_print( bb & bc ) ; // bb ∩ bc bit_print( ba | bc ) ; // ba ∪ bc }
このような、2進数を用いた処理で有名なものとして、エラトステネスのふるいによる素数がある。 このアルゴリズムでは、各bitを整数に対応付けし、 素数で無いと判断した2進数の各桁に1の目印をつけていく方式である。
unsigned int prime = 0 ; void filter() { for( int i = 2 ; i < 32 ; i++ ) { if ( (prime & (1 << i)) == 0 ) { for( int j = i + i ; j < 32 ; j += i ) prime |= (1 << j) ; } } for( int i = 2 ; i < 32 ; i++ ) { if ( (prime & (1 << i)) == 0 ) printf( "%d\n" , i ) ; } }
リスト処理による積集合
前述の方法は、リストに含まれる/含まれないを、2進数の0/1で表現する方式である。 しかし、2進数であれば、unsigned int で 32要素、unsigned long long int で 64 要素が上限となってしまう。 (32bitコンピュータ,gccの場合)
しかし、リスト構造であれば、リストの要素として扱うことで、要素件数は自由に扱える。 また、今までの授業で説明してきた cons() などを使って表現すれば、 簡単なプログラムでリストの処理が記述できる。
// 先週までに説明してきたリスト構造と補助関数 struct List { int data ; struct List* next ; } ; struct List* cons( int x , struct List* n ) { struct List* ans ; ans = (struct List*)malloc( sizeof( struct List ) ) ; if ( ans != NULL ) { ans->data = x ; ans->next = n ; } return ans ; } void print( struct List* p ) { for( ; p != NULL ; p = p->next ) { printf( "%d " , p->data ) ; } printf( "\n" ) ; } int find( struct List* p , int key ) { for( ; p != NULL ; p = p->next ) if ( p->data == key ) return 1 ; return 0 ; }
例えば、積集合(a ∩ b)を求めるのであれば、リストa の各要素が、リストb の中に含まれるか find 関数でチェックし、 含まれたものだけを、ans に加えていく…という考えでプログラムを作ると以下のようになる。
struct List* set_prod( struct List* a , struct List* b ) { struct List* ans = NULL ; for( ; a != NULL ; a = a->next ) { if ( find( b , a->data ) ) ans = cons( a->data , ans ) ; } return ans ; } void main() { struct List* a = cons( 1 , cons( 2 , cons( 3 , NULL ) ) ) ; struct List* b = cons( 2 , cons( 4 , cons( 6 , NULL ) ) ) ; struct List* c = cons( 4 , cons( 6 , cons( 9 , NULL ) ) ) ; print( set_prod( a , b ) ) ; print( set_prod( b , c ) ) ; }
例題として、和集合、差集合などを考えてみよう。
リストの共有と削除の問題
リスト処理では、mallocを使うが、メモリリークをさせないためには、使用後のリストの廃棄は重要である。 リストの全要素を捨てる処理であれば、以下のようになるであろう。
void list_free( struct List* p ) { while( p != NULL ) { struct List* d = p ; p = p->next ; free( d ) ; // 順序に注意 } }
一方、前説明の和集合のプログラムを以下のように作った場合、list_freeの処理は問題となる。
struct List* set_union( struct List*a , struct List*b ) { struct List* ans = b ; for( ; a != NULL ; a = a->next ) if ( !find( b , a->data ) ) ans = cons( a->data , ans ) ; return ans ; } void main() { struct List*a = cons( 1 , cons( 2 , cons( 3 , NULL ) ) ) ; struct List*b = cons( 2 , cons( 3 , cons( 4 , NULL ) ) ) ; struct List*c = set_union( a , b ) ; // a,b,cを使った処理 // 処理が終わったので、a,b,cを捨てる list_free( a ) ; list_free( b ) ; list_free( c ) ; // c = { 1 , (bのリスト) } // (b)の部分は先のlist_free(b)で解放済み }
UML構造図
UMLの構造図の書き方の説明。 詳しくは、参考ページのUML入門などが、分かりやすい。
クラス図
クラス図は、構造図の中の基本的な図で、 枠の中に、上段:クラス名、中段:属性(要素)、下段:メソッド(関数)を記載する。 属性やメソッドの可視性を示す場合は、"-":private、"+":public、"#":protected 可視性に応じて、"+-#"などを記載する。
関連
クラスが他のクラスと関係がある場合には、その関係の意味に応じて、直線や矢印で結ぶ。
(a)関連:単純に関係がある場合、
(b)集約:部品として持つが弱い結びつき。関係先が消滅しても別に存在可能。
(c)コンポジション:部品として持つが強い結びつき。関係先と一緒に消滅。
(d)依存:依存関係にあるだけ
(e)派生:派生・継承した関係
(f)実現: Javaでのinterfaceによる多重継承
上図の例では、乗り物クラスVehicleから自動車がCarが派生し、 自動車は、エンジン(Engine)を部品として持つ。エンジンは車体と一緒に廃棄なら、コンポジションで実装する。
自動車は、同じく車輪(Wheel)を4つ持つが、自動車を廃棄してもタイヤは別に使うかもしれないので、集約で実装する。 集約で実装する場合は、C++などであれば、ポインタで部品を持ち、部品の廃棄(delete)は、別に行うことになる。
is-a 、has-a の関係
前の課題でのFigureクラスで、Color 情報をどう扱うべきかで、悩んだ場合と同じように、 クラスの設計を行う場合には、部品として持つのか、継承として機能を持つのか悩む場合がある。 この場合には、"is-a"の関係、"has-a"の関係で考えると、部品なのか継承なのか判断しやすい。
たとえば、上の乗り物(Vehicle)クラスと、車(Car)のクラスは、"Car is-a Vehicle" といえるので、is-a の関係。 "Car is-a Engine"と表現すると、おかしいことが判る。 車(Car)とエンジン(Engine)のクラスは、"Car has-a Engine"といえるので、has-a の関係となる。 このことから、CarはVehicleからの派生であり、Carの属性としてEngineを部品として持つ設計となる。
オブジェクト図
クラス図だけで表現すると、複雑なクラス関係では、イメージが分かりづらい場合がでてくる。 この場合、具体的な値を図に書き込んだオブジェクトで表現すると、説明がしやすい場合がある。 このように具体的な値で記述するクラス図は、オブジェクト図と言う。 書き方としては、クラス名の下に下線を引き、中段の属性の所には具体的な値を書き込んで示す。
その他の構成図
その他の構成図としては、コンポーネント図(物理的な構成要素から、システムの構造を表現する図)、 配置図(ハードウェアとアプリケーションの関係を図示したもの)、パッケージ図(パッケージ同士の関係をグループ化した図) なども用いる。