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抽象クラス(純粋仮想基底クラス)

前回説明した仮想関数では、基底クラスから派生させたクラスを作り、そのデータが混在してもクラスに応じた関数(仮想関数)を呼び出すことができる。

この仮想関数の機能を逆手にとったプログラムの記述方法として、抽象クラス(純粋仮想基底クラス)がある。その使い方を説明する。

JavaのGUIにおける派生の使い方

先週の講義では、派生を使ったプログラミングは、GUI で使われていることを紹介したが、例として Java のプログラミングスタイルを少し紹介する。

例えば、Java で アプレット(ブラウザの中で動かすJavaプログラム)を作る場合の、最小のサンプルプログラムは、以下のようになる。

import java.applet.Applet; // C言語でいうところの、Applet 関連の処理を include
import java.awt.Graphics;

public class App1 extends Applet {  // Applet クラスから、App1 クラスを派生
    public void paint(Graphics g) { // 画面にApp1を表示する必要がある時に呼び出される。
        g.drawString("Hello World." , 100 , 100);
    }
}

この例では、ブラウザのGUIを管理する Applet クラスから、App1 というクラスを派生(extendsキーワード)し、App1 固有の処理として、paint() メソッドを定義している。GUI のプログラミングでは、本来ならマウスが押された場合の処理などを記述する必要があるが、このプログラムでは paint() 以外何も書かれていない。これはマウス処理などは、基底クラスのAppletのマウス処理が継承されるので、省略してもうまく動くようになっている。

純粋仮想基底クラス

純粋仮想基底クラスとは、見かけ上はデータを何も持たないクラスであり、本来なら意味がないデータ構造となってしまう。しかし、派生クラスで要素となるデータと仮想関数で機能を与えることで、基底クラスという共通部分から便利な活用ができる。(実際には、型を区別するための型情報を持っている)

例えば、C言語であれば一つの配列に、整数、文字列、実数といった異なる型のデータを記憶させることは本来ならできない。しかし、以下のような処理を記載すれば、可能となる。

C言語では、1つの記憶域を共有するために共用体(union)を使うが、C++では仮想関数が使えるようになり、型の管理をプログラマーが行う必要のある「面倒で危険な」共用体を使う必要はなくなった。

// 純粋仮想基底クラス
class Object {
public:
   virtual void print() const = 0 ;
   // 中身の無い純粋基底クラスで、
   // 仮想関数を記述しない時の書き方。
} ;

// 整数データの派生クラス
class IntObject : public Object {
private:
   int data ;
public:
   IntObject( int x ) {
      data = x ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%d\n" , data ) ;
   }
} ;

// 文字列の派生クラス
class StringObject : public Object {
private:
   char data[ 100 ] ;
public:
   StringObject( const char* s ) {
      strcpy( data , s ) ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%s\n" , data ) ;
   }
} ;

// 実数の派生クラス
class DoubleObject : public Object {
private:
   double data ;
public:
   DoubleObject( double x ) {
      data = x ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%lf\n" , data ) ;
   }
} ;

// 動作確認
int main() {
   Object* data[3] = {
      new IntObject( 123 ) ,
      new StringObject( "abc" ) ,
      new DoubleObject( 1.23 ) ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) { // 123
      data[i]->print() ;            // abc
   }                                // 1.23 と表示
   return 0 ;
} ;

このプログラムでは、純粋仮想基底クラスObjectから、整数IntObject, 文字列StringObject, 実数DoubleObject を派生させ、そのデータを new により生成し、Objectの配列に保存している。

仮想関数を使うと、Object型の中に自動的に型情報が保存されるようになる。一般的な実装では、各派生クラス用の仮想関数のポインタテーブル(vtable)へのポインタが使われる。

Javaなどのオブジェクト指向言語では、全てのクラス階層のスーパークラスとして、Object を持つように作られている。

様々な型に適用できるプログラム

次に、純粋仮想基底クラスの特徴を応用したプログラムの作り方を説明する。

例えば、以下のような最大選択法で配列を並び替えるプログラムがあったとする。

int a[5] = { 11, 55, 22, 44, 33 } ;

void my_sort( int array[] , int size ) {
   for( int i = 0 ; i < size - 1 ; i++ ) {
      int max = i ;
      for( int j = i + 1 ; j < size ; j++ ) {
         if ( array[j] > array[max] )
            max = j ;
      }
      int tmp = array[i] ;
      array[i] = array[max] ;
      array[max] = tmp ;
   }
}
int main() {
   my_sort( a , 5 ) ;
}

しかし、この整数を並び替えるプログラムがあっても、文字列の並び替えや、実数の並び替えがしたい場合には、改めて文字列用並び替えの関数を作らなければいけない。しかも、ほとんどが同じような処理で、改めて指定された型のためのプログラムを作るのは面倒である。

C言語のデータの並び替えを行う、qsort() では、関数ポインタを用いることで、様々なデータの並び替えができる。しかし、1件あたりのデータサイズや、データ実体へのポインタを正しく理解する必要がある。

#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
int a[ 4 ] = { 11, 33, 22, 44 } ;
double b[ 3 ] = { 1.23 , 5.55 , 0.11 } ;
// 並び替えを行いたいデータ専用の比較関数を作る。
// a>bなら+1, a=bなら0, a<bなら-1を返す関数
int cmp_int( int* pa , int* pb ) { // int型用コールバック関数
   return *pa - *pb ;
}
int cmp_double( double* pa , double* pb ) { // double型用コールバック関数
   if ( *pa == *pb )
      return 0 ;
   else if ( *pa > *pb )
      return 1 ;
   else
      return -1 ;
}
int main() {                                   // C言語の怖さ
   qsort( a , 4 , sizeof( int ) ,              //   このあたりの引数を書き間違えると
          (int(*)(void*,void*)) cmp_int ) ;    //   とんでもない目にあう。
   qsort( b , 3 , sizeof( double ) ,
          (int(*)(void*,void*)) cmp_double ) ;
} 

このように、自分が作っておいた関数のポインタを、関数に渡して呼び出してもらう方法は、コールバックと呼ぶ。
JavaScript などの言語では、こういったコールバックを使ったコーディングがよく使われる。

// コールバック関数 f を呼び出す関数
function exec_callback( var f ) {
   f() ;
}
// コールバックされる関数 foo()
function foo() {
   console.log( "foo()" ) ;
}
// foo() を実行する。
exec_callback( foo ) ;
// 無名関数を実行する。
exec_callback( function() {
                  console.log( "anonymous" ) ;
               } ) ;

任意のデータを並び替え

class Object {
public:
   virtual void print() const = 0 ;
   virtual int  cmp( Object* ) = 0 ;
} ;

// 整数データの派生クラス
class IntObject : public Object {
private:
   int data ;
public:
   IntObject( int x ) {
      data = x ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%d\n" , data ) ;
   }
   virtual int cmp( Object* p ) {
      int pdata = ((IntObject*)p)->data ;  // 本当はこのキャストが危険
      return data - pdata ;                //  ↓安全な実装したいなら↓
   }                                       // IntObject* pi = dynamic_cast<IntObject*>(p) ;
} ;                                        // return pi != NULL ? data - pi->data : 0 ;

// 文字列の派生クラス
class StringObject : public Object {
private:
   char data[ 100 ] ;
public:
   StringObject( const char* s ) {
      strcpy( data , s ) ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%s\n" , data ) ;
   }
   virtual int cmp( Object* p ) {
      char* pdata = ((StringObject*)p)->data ;
      return strcmp( data , pdata ) ; // 文字列比較関数
   }
} ;

// 実数の派生クラス
class DoubleObject : public Object {
private:
   double data ;
public:
   DoubleObject( double x ) {
      data = x ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%lf\n" , data ) ;
   }
   virtual int cmp( Object* p ) {
      double pdata = ((DoubleObject*)p)->data ;
      if ( data == pdata )
         return 0 ;
      else if ( data > pdata )
         return 1 ;
      else
         return -1 ;
   }
} ;

// Objectからの派生クラスでcmp()メソッドを
//   持ってさえいれば、どんな型でもソートができる。
void my_sort( Object* array[] , int size ) {
   for( int i = 0 ; i < size - 1 ; i++ ) {
      int max = i ;
      for( int j = i + 1 ; j < size ; j++ ) {
         if ( array[j]->cmp( array[max] ) > 0 )
            max = j ;
      }
      Object* tmp = array[i] ;
      array[i] = array[max] ;
      array[max] = tmp ;
   }
}
// 動作確認
int main() {
   Object* idata[3] = {
      new IntObject( 11 ) ,
      new IntObject( 33 ) ,
      new IntObject( 22 ) ,
   } ;
   Object* sdata[3] = {
      new StringObject( "abc" ) ,
      new StringObject( "defghi" ) ,
      new StringObject( "c" ) ,
   } ;
   my_sort( idata , 3 ) ; // 整数のソート
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ )
      idata[i]->print() ;
   my_sort( sdata , 3 ) ; // 文字列のソート
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ )
      sdata[i]->print() ;
   return 0 ;
} ;

このような方式でプログラムを作っておけば、新しいデータ構造がでてきてもソートのプログラムを作らなくても、比較専用の関数 cmp() を書くだけで良い。

ただし、この並び替えの例では、Object* を IntObject* に強制的に型変換している。

また、このプログラムでは、データを保管するために new でポインタを保管し、データの比較をするために仮想関数の呼び出しを行うことから、メモリの使用効率も処理効率でもあまりよくない。

こういう場合、最近の C++ ではテンプレート機能が使われる。

template <typename T>
void my_sort( T a[] , int size ) {
  for( int i = 0 ; i < size - 1 ; i++ ) {
    int max = i ;
    for( int j = i + 1 ; j < size ; j++ ) { if ( a[j] > a[max] )
        max = j ;
    }
    T  tmp = a[i] ;
    a[i] = a[max] ;
    a[max] = tmp ;
  }
}

int main() {
  int idata[ 5 ] = { 3, 4, 5 , 1 , 2 } ;
  double fdata[ 4 ] = { 1.23 , 0.1 , 3.4 , 5.6 } ;

  // typename T = int で int::mysort() が作られる
  my_sort( idata , 5 ) ;
  for( int i = 0 ; i < 5 ; i++ )
    printf( "%d " , idata[i] ) ;
  printf( "\n" ) ;

  // typename T = double で double::mysort() が作られる
  my_sort( fdata , 4 ) ;
  for( int i = 0 ; i < 4 ; i++ )
    printf( "%lf " , fdata[i] ) ;
  printf( "\n" ) ;
  return 0 ;
}

C++のテンプレート機能は、my_sort( int[] , int ) で呼び出されると、typename T = int で、整数型用の my_sort() の処理が自動的に作られる。同じく、my_sort( double[] , int ) で呼び出されると、typename = double で 実数型用の my_sort() が作られる。

テンプレート機能では、各型用のコードが自動的に複数生成されるという意味では、出来上がったコードがコンパクトという訳ではない。

派生と継承と仮想関数

前回の派生と継承のイメージを改めて記載する。

// 基底クラス
class Person {
private:
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
public:
   Person( const char s[] , int x )
     : age( x ) {
      strcpy( name , s ) ;
   }
   void print() {
      printf( "%s %d\n" , name , age ) ;
   }
} ;
// 派生クラス(Student は Person から派生)
class Student : public Person {
private:
   char dep[ 20 ] ;
   int  grade ;
public:
   Student( const char s[] , int x ,
            const char d[] , int g )
            : Person( s , x ) // 基底クラスのコンストラクタ
   {  // 追加された処理
      strcpy( dep , d ) ;
      grade = g ;
   }
   void print() {
      Person::print() ;       // 基底クラスPersonで名前と年齢を表示
      printf( "- %s %d\n" , dep , grade ) ;
   }
} ;
int main() {
   Person saitoh( "t-saitoh" , 55 ) ;
   Student yama( "yamada" , 21 , "ES" , 1 ) ;
   Student nomu( "nomura" , 22 , "PS" , 2 ) ; 
   saitoh.print() ; // 表示 t-saitoh 55
   yama.print() ;   // 表示 yamada 21
                    //      - ES 1
   nomu.print() ;   // 表示 nomura 22
   return 0 ;       //      - PS 2
}

このような処理でのデータ構造は、次のようなイメージで表される。

派生クラスでの問題提起

基底クラスのオブジェクトと、派生クラスのオブジェクトを混在してプログラムを記述したらどうなるであろうか?
上記の例では、Person オブジェクトと、Student オブジェクトがあったが、それをひとまとめで扱いたいこともある。

以下の処理では、Person型の saitoh と、Student 型の yama, nomu を、一つの table[] にまとめている。

int main() {
   Person saitoh( "t-saitoh" , 55 ) ;
   Student yama( "yamada" , 21 , "ES" , 1 ) ;
   Student nomu( "nomura" , 22 , "PS" , 2 ) ;

   Person* table[3] = {
      &saitoh , &yama , &nomu ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) {
      table[ i ]->print() ;
   }
   return 0 ;
}

C++では、Personへのポインタの配列に代入する時、Student型ポインタは、その基底クラスへのポインタとしても扱える。ただし、このように記述すると、table[] には、Person クラスのデータして扱われる。

このため、このプログラムを動かすと、以下のように、名前と年齢だけが3人分表示される。

t-saitoh 55
yamada   21
nomura   22

派生した型に応じた処理

上記のプログラムでは、 Person* table[] に、Person*型,Student*型を混在して保存をした。しかし、Person*として呼び出されると、yama のデータを表示しても、所属・学年は表示されない。上記のプログラムで、所属と名前を表示することはできないのだろうか?

// 混在したPersonを表示
for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ )
   table[i]->print() ;
// Student は、所属と名前を表示して欲しい
t-saitoh 55
yamada 21
- ES 1
nomura 22
- PS 2

上記のプログラムでは、Person型では、後でStudent型と区別ができないと困るので、Person型に、Person型(=0)なのか、Student型(=1)なのか区別するための type という型の識別番号を追加し、type=1ならば、Student型として扱うようにしてみた。

// 基底クラス
class Person {
private:
   int  type ; // 型識別情報
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
public:
   Person( int tp , const char s[] , int x )
     : type( tp ) , age( x ) {
      strcpy( name , s ) ;
   }
   int type_person() { return type ; }
   void print() {
      printf( "%s %d\n" , name , age ) ;
   }
} ;
// 派生クラス(Student は Person から派生)
class Student : public Person {
private:
   char dep[ 20 ] ;
   int  grade ;
public:
   Student( int tp , const char s[] , int x ,
            const char d[] , int g )
            : Person( tp , s , x ) // 基底クラスのコンストラクタ
   {  // 追加された処理
      strcpy( dep , d ) ;
      grade = g ;
   }
   void print() {
      Person::print() ;       // 基底クラスPersonで名前と年齢を表示
      printf( "- %s %d\n" , dep , grade ) ;
   }
} ;
int main() {
   // type=0 は Person 型、type=1は Student 型
   Person saitoh( 0 , "t-saitoh" , 55 ) ;
   Student yama( 1 , "yamada" , 21 , "ES" , 1 ) ;
   Student nomu( 1 , "nomura" , 22 , "PS" , 2 ) ;

   Person* table[3] = {
      &saitoh , &yama , &nomu ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) {
      switch( table[i]->type_person() ) {
      case 0 :
         table[i]->print() ;
         break ;
      case 1 :
         // 強制的にStudent*型として print() を呼び出す。
         //   最近のC++なら、(static_cast<Student*>(table[i]))->>print() ;
         ((Student*)table[i])->print() ;
         break ;
      }
   }
   return 0 ;
}

しかし、このプログラムでは、プログラマーがこのデータは、Personなので type=0 で初期化とか、Studentなので type=1 で初期化といったことを記述する必要がある。

また、関数を呼び出す際に、型情報(type)に応じて、その型にふさわしい処理を呼び出すための switch 文が必要になる。

もし、派生したクラスの種類がいくつもあるのなら、(1)型情報の代入は注意深く書かないとバグの元になるし、(2)型に応じた分岐処理は巨大なものになるだろう。実際、オブジェクト指向プログラミングが普及する前の初期の GUI プログラミングでは、巨大な switch 文が問題となっていた。

仮想関数

上記の、型情報の埋め込みと巨大なswitch文の問題の解決策として、C++では仮想関数(Virtual Function)が使える。

型に応じて異なる処理をしたい関数があったら、その関数の前に virtual と書くだけで良い。このような関数を、仮想関数と呼ぶ。

// 基底クラス
class Person {
private:
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
public:
   Person( const char s[] , int x )
     : age( x ) {
      strcpy( name , s ) ;
   }
   virtual void print() {
      printf( "%s %d\n" , name , age ) ;
   }
} ;
// 派生クラス(Student は Person から派生)
class Student : public Person {
private:
   char dep[ 20 ] ;
   int  grade ;
public:
   Student( const char s[] , int x ,
            const char d[] , int g )
            : Person( s , x ) // 基底クラスのコンストラクタ
   {  // 追加された処理
      strcpy( dep , d ) ;
      grade = g ;
   }
   virtual void print() {
      Person::print() ;       // 基底クラスPersonで名前と年齢を表示
      printf( "- %s %d\n" , dep , grade ) ;
   }
} ;
int main() {
   // type=0 は Person 型、type=1は Student 型
   Person saitoh( "t-saitoh" , 55 ) ;
   Student yama( "yamada" , 21 , "ES" , 1 ) ;
   Student nomu( "nomura" , 22 , "PS" , 2 ) ;

   Person* table[3] = {
      &saitoh , &yama , &nomu ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) {
      table[i]->print() ;
   }
   return 0 ;
}

クラスの中に仮想関数が使われると、C++ では、プログラム上で見えないが、何らかの型情報をオブジェクトの中に保存してくれる。

また、仮想関数が呼び出されると、その型情報を元に、ふさわしい関数を自動的に呼び出してくれる。このため、プログラムも table[i]->print() といった極めて簡単に記述できるようになる。

関数ポインタ

仮想関数の仕組みを実現するためには、関数ポインタが使われる。

以下の例では、返り値=int,引数(int,int)の関数( int(*)(int,int) )へのポインタfpに、最初はaddが代入され、(*fp)(3,4) により、7が求まる。

int add( int a , int b ) {
   return a + b ;
}
int mul( int a , int b ) {
   return a * b ;
}
int main() {
   int (*fp)( int , int ) ;
   fp = add ;
   printf( "%d\n" , (*fp)( 3 , 4 ) ) ; // 3+4=7
   fp = mul ;
   printf( "%d\n" , (*fp)( 3 , 4 ) ) ; // 3*4=12

   int (*ftable[2])( int , int ) = {
      add , mul ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 2 ; i++ )
      printf( "%d\n" , (*ftable[i])( 3 , 4 ) ) ;
   return 0 ;
}

仮想関数を使うクラスが宣言されると、一般的にそのコンストラクタでは、各クラス毎の仮想関数へのポインタのテーブルが型情報として保存されるのが一般的。仮想関数の呼び出しでは、仮想関数へのポインタを使って処理を呼び出す。このため効率よく仮想関数を動かすことができる。

仮想関数の実装方法

仮想関数の一般的な実装方法としては、仮想関数を持つオブジェクトには型情報として仮想関数へのポインタテーブルへのポインタを保存する。

再帰処理時間の見積もりとポインタ操作

前回の授業では、再帰処理やソートアルゴリズムの処理時間の見積もりについて説明を行った。

ソート処理の見積もり

この際の練習問題の1つめは、「再帰方程式の理解度確認の回答」にて解説を示す。

最後の練習問題はここで説明を行う。

選択法とクイックソートの処理時間の比較

例として、データ数N=20件で、選択法なら10msec、クイックソートで20msecかかったとする。

これより、選択法の処理時間を、クイックソートの処理時間を、とすると、





よって、

 # ここはlogの底は10の方が計算が楽かな

処理時間が逆転するときのデータ件数は、2つのグラフの交点を求めることになるので、

より、以下の式を解いた答えとなる。これは通常の方程式では解けないが電卓で求めると、N=53.1 ほどかな。(2020/05/26) 真面目に解いたら N=53.017 だった。

実際にも、クイックソートを再帰呼び出しだけでプログラムを書くと、データ件数が少ない場合は選択法などのアルゴリズムの方が処理時間が早い。このため、C言語などの組み込み関数の qsort() などは、データ件数が20とか30とか一定数を下回ったら、再帰を行わずに選択法でソートを行うのが一般的である。

ポインタ処理

ここからは、次のメモリの消費を考慮したプログラムの説明を行うが、ポインタの処理に慣れない人が多いので、ポインタを使ったプログラミングについて説明を行う。

値渡し(call by value)

// 値渡しのプログラム
void foo( int x ) {  // x は局所変数(仮引数は呼出時に
                     // 対応する実引数で初期化される。
   x++ ;
   printf( "%d¥n" , x ) ;
}
void main() {
   int a = 123 ;
   foo( a ) ;  // 124
               // 処理後も main::a は 123 のまま。
   foo( a ) ;  // 124
}

このプログラムでは、aの値は変化せずに、124,124 が表示される。

言い方を変えるなら、呼び出し側main() では、関数の foo() の処理の影響を受けない。このように、関数には仮引数の値を渡すことを、値渡し(call by value)と言う。

でも、プログラムによっては、124,125 と変化して欲しい場合もある。
どのように記述すべきだろうか?

// 大域変数を使う場合
int x ;
void foo() {
   x++ ;
   printf( "%d¥n" , x ) ;
}
void main() {
   x = 123 ;
   foo() ;  // 124
   foo() ;  // 125
}

しかし、このプログラムは大域変数を使うために、間違いを引き起こしやすい。

// 大域変数が原因で予想外の挙動をしめす簡単な例
int i ;
void foo() {
   for( i = 0 ; i < 2 ; i++ )
      printf( "A" ) ;
}
void main() {
   for( i = 0 ; i < 3 ; i++ )  // このプログラムでは、AA AA AA と
      foo() ;                   // 表示されない。
}

ポインタ渡し(call by pointer)

C言語で引数を通して、呼び出し側の値を変化して欲しい場合は、(引数を経由して関数の副作用を受け取るには)、変更して欲しい変数のアドレスを渡し、関数側では、ポインタ変数を使って受け取った変数のアドレスの示す場所の値を操作する。このような値の受け渡し方法は、ポインタ渡し(call by pointer)と呼ぶ。

// ポインタ渡しのプログラム
void foo( int* p ) {  // p はポインタ
   (*p)++ ;
   printf( "%d¥n" , *p ) ;
}
void main() {
   int a = 123 ;
   foo( &a ) ;  // 124
                // 処理後 main::a は 124 に増えている。
   foo( &a ) ;  // 124
}               // さらに125と増える。

C言語では、関数から結果をもらうには、通常は関数の返り値を使う。しかし、返り値は1つの値しか受け取ることができないので、上記のようにポインタを使って、呼び出し側は:結果を入れてもらう場所を伝え、関数側は:指定されたアドレスに結果を書む。

変数の寿命とスコープ

変数の管理では、変数の寿命スコープの理解が重要。

静的変数:変数は、プログラムの起動時に初期化、プログラムの終了時に廃棄。
動的変数:変数は、関数に入るときに初期化、関数を抜けるときに廃棄。
もしくは、ブロックに入るときに初期化、ブロックを抜けるときに廃棄。

大域変数:大域変数は、プログラム全体で参照できる。
局所変数:関数の中 or そのブロックの中でのみ参照できる。

ブロックの中で変数が宣言されると、そのブロックの外の変数とは別の入れ物となる。そのブロックの中では、新たに宣言された変数が使われる。

int i = 111 ;    // 静的大域変数

void foo() {
   int i = 222 ; // 動的局所変数
   i++ ;
   printf( "%d\n" , i ) ;
}
void bar() {
   static int i = 333 ; // 静的局所変数(プログラム起動時に初期化)
   i++ ;
   printf( "%d\n" , i ) ;
}
void hoge( int x ) {    // x: 動的局所変数(値渡し)
   x++ ;
   printf( "%d\n" , x ) ;
}
void fuga( int* p ) {   // p: 動的局所変数(ポインタ渡し)
   (*p)++ ;
   printf( "%d\n" , (*p) ) ;
}
int main() {
   int i = 444 , j = 555 ;
   foo() ;      // 223 (副作用ナシ)
   bar() ;      // 334
   hoge( i ) ;  // 445 (副作用ナシ)
   fuga( &j ) ; // 556
   printf( "%d\n" , i ) ;
   foo() ;      // 223 (副作用ナシ)
   bar() ;      // 335
   hoge( i ) ;  // 445 (副作用ナシ)
   fuga( &j ) ; // 557

   printf( "%d\n" , i ) ;                     // 444
   for( int i = 0 ; i < 2 ; i++ ) { // (a)    // A:0
      printf( "A:%d\n" , i ) ;                // B:0
      for( int i = 0 ; i < 2 ; i++ ) { // (b) // B:1
         printf( "B:%d\n" , i ) ;             // A:1
      }                                       // B:0
   }                                          // B:1

   printf( "%d\n" , i ) ;  // 333 ← 要注意C言語のバージョンによっては
                           //       2 になる場合あり。(a)の変数iの値
   return 0 ;
}

フローチャートと整数型

学際科目の情報制御基礎において、プログラムの基本としてフローチャートと基本的な処理を説明し、数値型の注意点を説明。

フローチャートの基本

プログラムの処理の順序を理解するには、初心者であればフローチャート(流れ図)を使う。

処理の1つ1つを箱で表し、流れを箱の間の矢印で示すことでアルゴリズム(プログラムの考え方)や処理順序を表現する。処理単位の箱は、命令の種類によって箱の書き方が決まっている。

上図右側のフローチャートの例では、以下の説明のように実行され、0,1,2,…,9 が表示され、最終的に変数 i が10以上になり処理を停止する。

(1) 変数 i に 0 を保存
(2) 変数 i は10未満なら(3)、10以上なら終了
(3) 変数 i を表示
(4) i = i + 1 右辺の計算結果を、左辺に代入iが0から1に変化
(5) 処理(2)から繰り返し。

上記のようなプログラムは、C言語であれば以下のようになる。

#include <stdio.h>                 | 入出力関数を使うための準備

int main() {                       | 最初に main() という関数が呼び出される。
   int i ;                         | 変数 i の入れ物を準備
   for( i = 0 ; i < 10 ; i++ ) {   | 最初に i = 0 を行い、i < 10 の条件を満たす間繰り返し、
                                   |       繰り返しの度に i を1つ増やす
      printf( "%d\n" , i ) ;       |    i の値を表示
   }
   return 0 ;                      | 正しく終わったら0を返す。
}

練習問題1

以下のフローチャートの処理A,処理B,処理C,処理Dの実行結果を答えよ。

  • 電気電子工学科,電子情報工学科の学生は、出席番号が偶数は処理C,奇数は処理Dについて回答せよ。
  • それ以外の学科の学生は、出席番号が偶数は処理A,奇数は処理Bの結果について回答せよ。
  • このプログラムではどういった意味の値を求めようとしているのか答えよ。

情報量の単位

データを覚える最小単位は、0と1の2通りで表される1bit (ビット)と呼ぶ。単位として書く場合には b で表す。さらに、その1bitを8個組み合わせると、256通りの情報を保存できる。256通りあれば一般的な英数字などの記号を1文字保存する入れ物として便利であり、この単位を 1byte (バイト) と呼ぶ。単位として書く場合には B で表す。

通信関係の人は8bit=1byteを1オクテットと呼ぶことも多い。日本語を表現するには、かなや漢字を使うため16bit = 2byte = 1word(ワード) で表現することが多い。(ただしワードは32bitを意味することもあるので要注意, double word=32bit, quad word=64bit という呼び方もある。)

物理では単位が大きくなると、103=kキロ,106=Mメガ,109=Gギガ,1012=Tテラ を使うが、コンピュータの世界では、103≒210=1024 なので、1kB(キロバイト)というと1024Bを意味することが多い。明確に区別する時は、1024B(バイト)=1KiB(キビバイト), 10242B=1MiB, 10243B=1GiB などと記載する。

2進数,8進数,16進数

プログラムの中で整数値を覚える場合は、2進数の複数桁で記憶する。例えば、2進数3桁(3bit)であれば、000, 001, 010, 011, 100, 101, 110, 111 で、10進数であれば 0~7 の8通りの値が扱える。(8進数)

2進数4桁(4bit)であれば、0000, 0001, 0010, 0011, 0100, 0101, 0110, 0111, 1000, 1001, 1010, 1011, 1100, 1101, 1110, 1111 の16通りを表現できる(16進数)。これを1桁で表現するために、0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,A,B,C,D,E,F を使って表現する。

例  8進数    16進数
    0123    0x123     ※C言語では、
  +  026   + 0xEA      8進数を表す場合、先頭に0をつけて表す。
 -------- --------     16進数を表す場合、先頭に0xをつけて表す。
    0151    0x20D      0x3+0xA = 0xD
                       0x2+0xE = 2+14 = 16 = 0x0 + 桁上がり
                       0x1+桁上がり = 0x2

整数型と扱える値の範囲

コンピュータの開発が進むにつれ計算の単位となるデータ幅は、8bit, 16bit, 32bit, 64bit と増えていった。整数型データには、正の値しか覚えられない符号無し整数と、2の補数で負の数を覚える符号付き整数に分けられる。

プログラムを作るためのC言語では、それぞれ 8bitの文字型(char)、16bitの short int型、32bitの int 型、64bitの long int 型(C言語では long int で宣言すると32bitの場合も多いので要注意)があり、それぞれに符号なし整数(unsigned), 符号あり整数(signed: C言語の宣言では書かない)がある。

精度 符号あり 符号なし
8bit(1byte) char (int8_t) unsigned char (uint8_t)
16bit(2byte) short int (int16_t) unsigned short int (uint16_t)
32bit(4byte) int (int32_t) unsigned int (uint32_t)
64bit(8byte) long int (int64_t) unsigned long int (uint64_t)

符号付きのデータは、負の数は2の補数によって保存され、2進数の最上位bit(符号ビット)負の数であれば1、正の数であれば0となる。

整数型で扱える数

(例) 符号なしの1byte(8bit)であれば、いくつの数を扱えるであろうか?

符号なしの N bit の整数であれば2N通りの値を表現でき、0(2N-1) までの値が扱える。

bit数 符号なし(unsigned)
8 unsigned char 0~28-1 0~255
16 unsigned short int 0~216-1 0~65535
32 unsigned int 0~232-1 0~4294967295

符号付きの N bit の整数であれば、最上位ビットが符号に使われるので、正の数なら残りの(N-1)bitで扱うため 0〜2N-1-1を表現できる。負の数は2N-1通りを表現できるので、N bit の符号つき整数は、-2N-1 〜0〜 2N-1-1の範囲の値を覚えられる。

bit数 符号あり(signed)
8 char -27~0~27-1 -128~127
16 short int -215~0~215-1 -32768~32767
32 int -231~0~231-1 -2147483648~2147483647

2の冪乗の概算

プログラムを作る場合、2のべき乗がだいたいどの位の値なのか知りたいことが多い。この場合の計算方法として、2つの方法を紹介する。

  • 232 = (210)3 × 22 = 10243 × 4 ≒ 4,000,000,000
  • 232をN桁10進数で表すとすれば なので、両辺のlog10を求める。

      (つまり、bit数に0.3をかければ10進数の桁数が求まる。)

数値の範囲の問題で動かないプログラム

この話だけだと、扱える数値の上限について実感がわかないかもしれないので、以下のプログラムをみてみよう。(C言語の詳細は説明していないので、問題点がイメージできるだけでいい。)

組み込み系のコンピュータでは、int 型で宣言される変数でも、16bitの場合もある。以下のプログラムは期待した値が計算できない例である。以下の例では、16bit int型として short int で示す。

// ✳️コード1
#include <stdio.h>
#include <math.h>

int main() { // 原点から座標(x,y)までの距離を求める
   short int x  = 200 ;
   short int y  = 200 ;
   short int r2 = x*x + y*y ;  // (x,y)までの距離の2乗
   short int r  = sqrt( r2 ) ; // sqrt() 平方根
   printf( "%d\n" , r ) ;      // 何が求まるか?
   return 0 ;                  // (例) 282ではなく、120が表示された。
}

コンピュータで一定時間かかる処理を考えてみる。

// コード2.1
// 1 [msec] かかる処理が以下のように書いてあったとする。
short int i ;
for( i = 0 ; i < 1000 ; i++ )
   NOP() ; // NOP() = 約1μsecかかる処理とする。

// ✳️コード2.2
// 0.5 [sec]かかる処理を以下のようにかいた。
short int i ;
for( i = 0 ; i < 500000 ; i++ )
   NOP() ;
// でもこの処理は16bitコンピュータでは、1μsecもかからずに終了する。なぜか?

上記の例は、性能の低い16bit コンピュータの問題で、最近は32bit 整数型のコンピュータが普通だし、特に問題ないと思うかもしれない。でも、32bit でも扱える数の範囲で動かなくなるプログラムを示す。

OS(unix) では、1970年1月1日からの経過秒数で時間(unix時間)を扱う。ここで、以下のプログラムは、正しい値が計算できなかった有名な例である。(2004年1月11日にATMが動かなくなるトラブルの原因だった)

// ✳️コード3.1
int t1 = 1554735600 ; // 2019年4月09日,00:00
int t2 = 1555340400 ; // 2019年4月16日,00:00

// この2日の真ん中の日を求める。
//  t1       |        t2
//  |--------+--------|
//  |      t_mid      |
//  以下のプログラムは、正しい 2019年4月12日12:00 が求まらない。なぜか?
int t_mid = (t1 + t2) / 2;  // (例) 1951年03月25日 08:45 になった。

// コード3.2
//  以下のプログラムは正しく動く。 time_t 型(時間処理用の64bit整数)を使えば問題ない。
time_t t1 = 1554735600 ; // 2019年4月09日,00:00
time_t t2 = 1555340400 ; // 2019年4月16日,00:00

// time_t型が32bitであったとしても桁溢れない式
time_t t_mid = t1 + (t2 - t1) / 2 ;

練習問題2

以下の整数の範囲を具体的な値で答えよ。
出席番号・自分の誕生日(の日にち)に合わせて該当する2問について答えること。

  1. 7bitの符号なし整数で扱える数値の範囲 (出席番号が偶数)
  2. 12bitの符号あり整数で扱える数値の範囲 (出席番号が奇数)
  3. 20bitの符号なし整数で扱える数値の範囲 (誕生日の日づけが偶数)
  4. 24bitの符号あり整数で扱える数値の範囲 (誕生日の日づけが奇数)

練習問題3

先に示した数値の範囲が原因で動かないプログラム(コード1,コード2.2,コード3.1)の中から1つを選んで、計算結果が正しく求まらない原因を、具体的な値を示しながら説明せよ。

練習問題1,練習問題2,練習問題3について、レポートとして提出せよ。

Teamsのこちらの共有フォルダに、回答記入用のひな型がおいてあるので、この書式を参考に各自レポートにまとめ、同フォルダに提出してください。

派生と継承

隠ぺい化の次のステップとして、派生・継承を説明する。オブジェクト指向プログラミングでは、一番基本となるデータ構造を宣言し、その基本構造に様々な機能を追加した派生クラスを記述することでプログラムを作成する。今回は、その派生を理解するためにC言語で発生する問題点を考える。

説明が中途半端になるので、講義後半は先週のレポート課題の時間とする。

派生を使わずに書くと…

元となるデータ構造(例えばPersonが名前と年齢)でプログラムを作っていて、 途中でその特殊パターンとして、所属と学年を加えた学生(Student)という データ構造を作るとする。

// 元となる構造体(Person) / 基底クラス
struct Person {
   char name[ 20 ] ; // 名前
   int  age ;        // 年齢
} ;
// 初期化関数
void set_Person( struct Person* p ,
                 char s[] , int x ) {
   strcpy( p->name , s ) ;
   p->age = x ;
}
// 表示関数
void print_Person( struct Person* p ) {
   printf( "%s %d\n" , p->name , p->age ) ;
}
int main() {
   struct Person saitoh ;
   set_Person( &saitoh , "t-saitoh" , 50 ) ;
   print_Person( &saitoh ) ;
   return 0 ;
}

パターン1(そのまんま…)

上記のPersonに、所属と学年を加えるのであれば、以下の方法がある。 しかし以下パターン1は、要素名がname,ageという共通な部分があるようにみえるが、 プログラム上は、PersonとPersonStudent1は、まるっきり関係のない別の型にすぎない。

このため、元データと共通部分があっても、同じ処理を改めて書き直しになる。

// 元のデータに追加要素(パターン1)
struct PersonStudent1 {
   // Personと同じ部分
   char name[ 20 ] ; // 名前
   int  age ;        // 年齢

   // 追加部分
   char dep[ 20 ] ;  // 所属
   int  grade ;      // 学年
} ;
void set_PersonStudent1( struct PersonStudent1* p ,
                         char s[] , int x ,
                         char d[] , int g ) {
   // set_Personと同じ処理を書いている。
   strcpy( p->name , s ) ;
   p->age = x ;

   // 追加された処理
   strcpy( p->dep , d ) ;
   p->grade = g ;
}

// 名前と年齢 / 所属と学年を表示
void print_PersonStudent1( struct PersonStudent1* p ) {
   // print_Personと同じ処理を書いている。
   printf( "%s %d\n" , p->name , p->age ) ;
   printf( "- %s %d¥n" , p->dep , p->grade ) ;
}

int main() {
   struct PersonStudent1 yama1 ;
   set_PersonStudent1( &yama1 ,
                       "yama" , 22 , "PS" , 2 ) ;
   print_PersonStudent1( &yama1 ) ;
   return 0 ;
}

パターン2(元データの処理を少し使って…)

パターン1では、機能が追加された新しいデータ構造のために、同じような処理を改めて書くことになりプログラムの記述量を減らせない。面倒なので、 元データ用の関数をうまく使うように書いてみる。

// 元のデータに追加要素(パターン2)
struct PersonStudent2 {
   // 元のデータPerson
   struct Person person ;

   // 追加部分
   char          dep[ 20 ] ;
   int           grade ;
} ;

void set_PersonStudent2( struct PersonStudent2* p ,
                         char s[] , int x ,
                         char d[] , int g ) {
   // Personの関数を部分的に使う
   set_Person( &(p->person) , s , x ) ;

   // 追加分はしかたない
   strcpy( p->dep , d ) ;
   p->grade = g ;
}

void print_PersonStudent2( struct PersonStudent2* p ) {
   // Personの関数を使う。
   print_Person( &p->person ) ;
   printf( "- %s %d¥n" , p->dep , p->grade ) ; 
}

int main() {
   struct PersonStudent2 yama2 ;
   set_PersonStudent2( &yama2 ,
                       "yama" , 22 , "PS" , 2 ) ;
   print_PersonStudent2( &yama2 ) ;
   return 0 ;
}

このパターン2であれば、元データ Person の処理をうまく使っているので、 プログラムの記述量を減らすことはできるようになった。

しかし、print_PersonStudent2() のような処理は、名前と年齢だけ表示すればいいという場合、元データ構造が同じなのに、 いちいちプログラムを記述するのは面倒ではないか?

そこで、元データの処理を拡張し、処理の流用ができないであろうか?

基底クラスから派生クラスを作る

オブジェクト指向では、元データ(基底クラス)に新たな要素を加えたクラス(派生クラス)を 作ることを「派生」と呼ぶ。派生クラスを定義するときは、クラス名の後ろに、 「:」「public/protected/private」基底クラス名を書く。

// 基底クラス
class Person {
private:
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
public:
   Person( const char s[] , int x )
     : age( x ) {
      strcpy( name , s ) ;
   }
   void print() {
      printf( "%s %d\n" , name , age ) ;
   }
} ;
// 派生クラス(Student は Person から派生)
class Student : public Person {
private:
   // 追加部分
   char dep[ 20 ] ;
   int  grade ;
public:
   Student( const char s[] , int x ,
            const char d[] , int g )
     : Person( s , x ) // 基底クラスのコンストラクタ
   {  // 追加された処理
      strcpy( dep , d ) ;
      grade = g ;
   }
} ;

int main() {
   Person saitoh( "t-saitoh" , 50 ) ;
   saitoh.print() ;
   Student yama( "yama" , 22 , "PS" , 2 ) ;
   yama.print() ;  // "yama 22"が表示される
   return 0 ;
}

ここで注目すべき点は、main()の中で、Studentクラス”yama”に対し、yama.print() を呼び出しているが、パターン2であれば、print_PersonStudent2()に相当するプログラムを 記述していない。 しかし、この派生を使うと Person の print() が自動的に流用することができる。 これは、基底クラスのメソッドを「継承」しているから、 このように書け、名前と年齢「yama 22」が表示される。

さらに、Student の中に、以下のような Student 専用の新しい print()を記述してもよい。

class Student ...略... {
   ...略...

   // Student クラス専用の print() 
   void print() {
      // 親クラス Person の print() を呼び出す
      Person::print() ;
      // Student クラス用の処理
      printf( "%s %d\n" , dep , grade ) ;
   }
} ;
void main() {
   ...略...
   Student yama( "yama" , 22 , "PS" , 2 ) ;
   yama.print() ;
}

この場合は、継承ではなく機能が上書き(オーバーライト)されるので、 「yama 22 / PS 2」が表示される。

派生クラスを作る際の後ろに記述した、public は、他にも protected , private を 記述できる。

public    だれもがアクセス可能。
protected であれば、派生クラスからアクセスが可能。
          派生クラスであれば、通常は protected で使うのが一般的。
private   派生クラスでもアクセス不可。

C言語で無理やりの派生

C言語でこのような派生と継承を実装する場合には、共用体を使う以下のようなテクニックが使われていた。
unix の GUI である X11 でも共用体を用いて派生を実装していた。

// 基底クラス
struct PersonBase {     // 基底クラス
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
} ;

struct PersonStudent {  // 派生クラス
   struct PersonBase base ;
   char dep[ 20 ] ;
   int  grade ;
} ;
                                   //(base) //(student)
union Person {                     // name  //[name]
   struct PersonBase    base ;     // age   //[age ]
   struct PersonStudent student ;           // dep
} ;                                         // grade

void person_Print( struct PersonBase* p ) {
   printf( "%s %d\n" , p->name , p->age ) ;   
}

int main() {
   struct PersonBase    tsaitoh = { "tsaitoh" , 55 } ;
   struct PersonStudent mitsuki = { { "mitsuki" , 21 } , "KIT" , 4 } ;
   print_Person( &tsaitoh ) ;
   print_Person( (struct Person*)&mitsuki ) ;  // 無理やり print_Person を呼び出す
   return 0 ;
}

仮想関数への伏線

上記のような派生したプログラムを記述した場合、以下のようなプログラムでは何が起こるであろうか?

class Student ... {
   :
   void print() {
      Person::print() ;                    // 名前と年齢を表示
      printf( " %s %d¥n" , dep , grade ) ; // 所属と学年を表示
   }
} ;
int main() {
   Person saitoh( "t-saitoh" , 55 ) ;
   saitoh.print() ;                // t-saitoh 55 名前と年齢を表示

   Student mitsu( "mitsuki" , 20 , "KIT" ,  3 ) ;
   Student ayuka( "ayuka" ,   18 , "EI" ,   4 ) ;
   mitsu.print() ;                 // mitsuki 20 / KIT 3  名前,年齢,所属,学年を表示
   ayuka.print() ;                 // ayuka 18   / EI  4  名前,年齢,所属,学年を表示

   Person* family[] = {
      &saitoh , &mitsu , &ayuka ,  // 配列の中に、Personへのポインタと
   } ;                             // Studentへのポインタが混在している
                                   // 派生クラスのポインタは、
                                   // 基底クラスのポインタとしても扱える
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ )
      family[ i ]->print() ;       // t-saitoh 55/mitsuki 20/ayuka 18
   return 0 ;                      // が表示される。 
}                                  // # "mitsuki 20/KIT 3" とか "ayuka 18/EI 4"
                                   // # が表示されてほしい?

コンピュータとN進数

3年の情報制御基礎の授業の一回目。この授業では、情報系以外の学生も受講することから、基礎的な共通的な話題を中心に説明を行う。参考:2020年度の講義資料

情報制御基礎のシラバス

情報制御基礎では、ここに上げたシラバスに沿って授業を行う。

基本的に、センサーから読み取ったデータを使って動く制御系システムを作る場合の基礎知識ということで、アナログ量・デジタル量の話から、移動平均やデータ差分といった数値処理や、そこで求まった値を制御に用いるための基礎的な話を行う。

コンピュータと組み込み系

最近では、コンピュータといっても様々な所で使われている。

  1. 科学技術計算用の大型コンピュータ(最近なら富岳が有名)や
  2. インターネットの処理を行うサーバ群
    (必要に応じてサービスとして提供されるものはクラウドコンピューティングと呼ぶ)、
  3. デスクトップパソコン、
  4. タブレットPCやスマートフォンのような端末、
  5. 電化製品の中に収まるようなワンチップコンピュータなどがある。

(1) サーバ:ブレードサーバ

(5) ワンチップコンピュータ:PIC

身近で使われている情報制御という点では、(5)のような小型のコンピュータも多く、こういったものは組み込み型コンピュータとも呼ばれる。しかし、こういったコンピュータは、小さく機能も限られているので、

  • 組み込み系では、扱える数値が整数で 8bit や 16bit といった精度しかなかったり、
  • 実数を伴う複雑な計算をするには、処理時間がかかったりする

ため、注意が必要である。

この情報制御基礎の授業では、組み込み系のコンピュータでも数値を正しく扱うための知識や、こういった小さいコンピュータで制御を行うことを踏まえた知識を中心に説明を行う。

2進数と10進数

コンピュータの中では、電圧が高い/低いといった状態で0と1の2通りの状態を表し、その 0/1 を組み合わせて、大きな数字を表す(2進数)。

練習として、2進数を10進数で表したり、10進数を2進数に直してみよう。

N進数を10進数に変換

N進数で “abcde” があったとする。(2進数で”10101)2“とか、10進数で”12345)10“とか)

この値は、以下のような式で表せる。

(例1)

(例2)

10進数をN進数に変換

N進数のは、前式を変形すると、以下のような式で表せることから、

値をNで割った余りを求めると、N進数の最下位桁eを取り出せる。

このため、10進数で与えられた35を2進数に変換するのであれば、35を2で次々と割った余りを、下の桁から書きならべれば2進数100011)2が得られる。

実数の場合

途中に小数点を含むN進数のab.cde)Nであれば、以下の値を意味する。

ここで、小数点以下だけを取り出した、0.cde)Nを考えると、

の値に、Nをかけると、次のように変形できる。

この式を見ると、小数部にNをかけると、整数部分に小数点以下1桁目が取り出せる

このため、10進数で与えられた、0.625を2進数に変換するのであれば、0.625に次々と2をかけて、その整数部を上の桁から書きならべれば、2進数0.101)2が得られる。

ただし、10進数で0.1という値で、上記の計算を行うと、延々と繰り返しが発生する。つまり、無限小数になるので注意せよ。

2の補数と負の数

コンピュータの中で引き算を行う場合には、2の補数がよく使われる。2の補数とは、2進数の0と1を入替えた結果(1の補数)に、1を加えた数である。

元の数に2の補数を加えると(2進数が8bitの数であれば)、どのような数でも1,0000,0000という値になる。この先頭の9bit目が必ずはみ出し、この値を覚えないのであれば、元の数+2の補数=0とみなすことができる。このことから、2の補数= (-元の数) であり、負の数を扱うのに都合が良い。

練習問題

(1) 自分の誕生日で、整数部を誕生日の日、小数点以下を誕生日の月とした値について、2進数に変換せよ。(例えば、2月7日の場合は、”7.02″という小数点を含む10進数とする。)

変換の際には、上の説明の中にあるような計算手順を示すこと。また、その2進数を10進数に直し、元の値と同じか確認すること。(ただし、結果の2進数が無限小数になる場合最大7桁まで求めれば良い。同じ値か確認する際には無限少数の場合は近い値になるか確認すること)

(2) 自分の誕生日の日と、自分の学籍番号の下2桁の値を加えた値について、8bitの2進数で表わせ。(2月7日生まれの出席番号13番なら7+13=21)

その後、8bitの2進数として、2の補数を求めよ。また、元の数と2の補数を加えた値についても検証すること。

レポートの提出先は、こちらのリンクを参照(この中にレポート書式のひな型を置いてあります)

複素数クラスによる演習

複素数クラスの例

隠蔽化と基本的なオブジェクト指向の練習課題として、前回の授業では、直交座標系による複素数クラスを示した。今回の授業では、演習を行うとともに直交座標系を極座標系にクラス内部を変更したことにより、隠蔽化の効果について考えてもらい、第1回レポートとする。

直交座標系

#include <stdio.h>
#include <math.h>

// 直交座標系の複素数クラス
class Complex {
private:
   double re ; // 実部
   double im ; // 虚部
public:
   void print() {
      printf( "%lf + j%lf¥n" , re , im ) ;
   }
   Complex( double r , double i ) // 実部虚部のコンストラクタ
     : re( r ) , im( i ) {}
   Complex()                      // デフォルトコンストラクタ
     : re( 0.0 ) , im( 0.0 ) {} 
   void add( Complex z ) {
      // 加算は、直交座標系だと極めてシンプル
      re = re + z.re ;
      im = im + z.im ;
   }
   void mul( Complex z ) {
      // 乗算は、直交座標系だと、ちょっと煩雑
      double r = re * z.re - im * z.im ;
      double i = re * z.im + im * z.re ;
      re = r ;
      im = i ;
   }
   double get_re() {
      return re ;
   }
   double get_im() {
      return im ;
   }
   double get_abs() { // 絶対値
      return sqrt( re*re + im*im ) ;
   }
   double get_arg() { // 偏角
      return atan2( im , re ) ;
   }
} ; // ←何度も繰り返すけど、ここのセミコロン忘れないでね
int main() {
   // 複素数を作る
   Complex a( 1.0 , 2.0 ) ;
   Complex b( 2.0 , 3.0 ) ;

   // 複素数の計算
   a.print() ;
   a.add( b ) ;
   a.print() ;
   a.mul( b ) ;
   a.print() ;

   return 0 ;
}

極座標系

上記の直交座標系の Complex クラスは、加減算の関数は単純だけど、乗除算の関数を書く時には面倒になってくる。この場合、極座標系でプログラムを書いたほうが判りやすいかもしれない。

// 局座標系の複素数クラス
class Complex {
private:
   double r ;  // 絶対値 r
   double th ; // 偏角   θ
public:
   void print() {
      printf( "%lf ∠ %lf¥n" , r , th / 3.14159265 * 180.0 ) ;
   }
   Complex()
     : r( 0.0 ) , th( 0.0 ) {}

   // 表面的には、同じ使い方ができるように
   //  直交座標系でのコンストラクタ
   Complex( double x , double y ) {
      r  = sqrt( x*x + y*y ) ;
      th = atan2( y , x ) ;    // 象限を考慮したatan()
   }
   // 極座標系だと、わかりやすい処理
   void mul( Complex z ) {
      // 極座標系での乗算は
      r = r * z.r ;    // 絶対値の積
      th = th + z.th ; // 偏角の和
   } 
   // 反対に、加算は面倒な処理になってしまう。
   void add( Complex z ) {
      ; // 自分で考えて
   }
   // 
   double get_abs() {
      return r ;
   }
   double get_arg() {
      return th ;
   }
   double get_re() {
      return r * cos( th ) ;
   }
   double get_im() {
      return r * sin( th ) ;
   }
} ; // ←しつこく繰り返すけど、セミコロン忘れないでね(^_^;

このように、プログラムを開発していると、当初は直交座標系でプログラムを記述していたが、途中で極座標系の方がプログラムが書きやすいという局面となるかもしれない。しかし、オブジェクト指向による隠蔽化を正しく行っていれば、利用者に影響なく「データ構造」や「その手続き(メソッド)」を書換えることも可能となる。

このように、プログラムをさらに良いものとなるべく書換えることは、オブジェクト指向ではリファクタリングと呼ぶ。
正しくクラスを作っていれば、クラス利用者への影響が最小にしながらリファクタリングが可能となる。

const 指定 (経験者向け解説)

C++ では、間違って値を書き換えるような処理を書けないようにするための、const 指定の機能がある。

void bar( char* s ) {       // void bar( const char* s ) {...}
   printf( "%s\n" , s ) ;   //  で宣言すべき。
}

void foo( const int x ) {
   //     ~~~~~~~~~~~
   x++ ; // 定数を書き換えることはできない。
   printf( "%d\n" , x ) ;
}
int main() {
   const double pi = 3.141592 ;
   // C言語で #define PI 3.141592 と同等

   bar( "This is a pen" ) ; // Warning: string constant to 'char*' の警告
   int a = 123 ;
   foo( a ) ;

   return 0 ;
}

前述の、getter メソッドの例では要素を参照するだけで、オブジェクトの中身が変化しない。逆に言えば、getter のメソッド内にはオブジェクトに副作用のある処理を書いてはいけない。こういった用途に、オブジェクトを変化させないメソッド宣言がある。先の、get_re() は、

class ... {
   :
   inline double get_re() const {
               //         ~~~~~
      re = 0 ; // 文法エラー
      return re ;
   }
} ;

クラスオブジェクトを引数にする場合

前述の add() メソッドでは、”void add( Complex z ) { … }” にて宣言をしていた。しかし、引数となる変数 z の実体が巨大な場合、この書き方では値渡しになるため、データの複製の処理時間が問題となる場合がある。この場合は、(書き方1)のように、z の参照渡しにすることで、データ複製の時間を軽減する。また、この例では、引数 z の中身を間違って add() の中で変化させる処理を書いてしまうかもしれない。そこで、この事例では(書き方2)のように const 指定もすべきである。

// (書き方1)
class Complex {
   :
   void add( Complex& z ) {
      re += z.re ;
      im += z.im ;
   }
} ;
// (書き方2)
class Complex {
   :
   void add( const Complex& z )
   {  //     ~~~~~~~~~~~~~~~~
      re += z.re ;
      im += z.im ;
   }
} ;

レポート1(複素数の加減乗除)

授業中に示した、直交座標系・極座標系の複素数のプログラムをベースに、記載されていない減算・除算のプログラムを作成し、レポートを作成する。 レポートには、下記のものを記載すること。

  • プログラムリスト
  • プログラムへの説明
  • 動作確認の結果
  • プログラムより理解できること。
  • 実際にプログラムを書いてみて分かった問題点など…

再帰呼び出しと再帰方程式

前回までの授業では、for ループの処理時間の分析や見積もりについて説明をしてきた。
次のテーマとして、再帰呼び出しを含む処理の処理時間の分析について説明する。

再帰関数と再帰方程式

再帰関数は、自分自身の処理の中に「問題を小さくした」自分自身の呼び出しを含む関数。プログラムには問題が最小となった時の処理があることで、再帰の繰り返しが止まる。

// 階乗 (末尾再帰)
int fact( int x ) {
   if ( x <= 1 )
      return 1 ;
   else
      return x * fact( x-1 ) ;
}
// ピラミッド体積 (末尾再帰)
int pyra( int x ) {
   if ( x <= 1 )
      return 1 ;
   else
      return x*x + pyra( x-1 ) ;
}
// フィボナッチ数列 (非末尾再帰)
int fib( int x ) {
   if ( x <= 2 )
      return 1 ;
   else
      return fib( x-1 ) + fib( x-2 ) ;
}

これらの関数の結果について考えるとともに、この計算の処理時間を説明する。 最初のfact(),pyra()については、 x=1の時は、関数呼び出し,x<=1,return といった一定の処理時間を要し、T(1)=Ta で表せる。 x>1の時は、関数呼び出し,x<=1,*,x-1,returnの処理(Tb)に加え、x-1の値で再帰を実行する処理時間T(N-1)がかかる。 このことから、 T(N)=Tb=T(N-1)で表せる。

} 再帰方程式

このような、式の定義自体を再帰を使って表した式は再帰方程式と呼ばれる。これを以下のような代入の繰り返しによって解けば、一般式  が得られる。

T(1)=Ta
T(2)=Tb+T(1)=Tb+Ta
T(3)=Tb+T(2)=2×Tb+Ta
:
T(N)=Tb+T(N-1)=Tb + (N-2)×Tb+Ta

一般的に、再帰呼び出しプログラムは(考え方に慣れれば)分かりやすくプログラムが書けるが、プログラムを実行する時には、局所変数や関数の戻り先を覚える必要があり、深い再帰ではメモリ使用量が多くなる
ただし、fact() や pyra() のような関数は、プログラムの末端で再帰が行われている。(fib()は、再帰の一方が末尾ではない)
このような再帰は、末尾再帰(tail recursion) と呼ばれ、関数呼び出しの return を、再帰処理の先頭への goto 文に書き換えるといった最適化が可能である。言い換えるならば、末尾再帰の処理は繰り返し処理に書き換えが可能である。このため、末尾再帰の処理をループにすれば再帰のメモリ使用量の問題を克服できる。

再帰を含む一般的なプログラム例

ここまでのfact()やpyra()のような処理の再帰方程式は、再帰の度にNの値が1減るものばかりであった。もう少し一般的な再帰呼び出しのプログラムを、再帰方程式で表現し、処理時間を分析してみよう。
以下のプログラムを実行したらどんな値になるであろうか?それを踏まえ、処理時間はどのように表現できるであろうか?

int array[ 8 ] = {
  3 , 6 , 9 , 1 , 8 , 2 , 4 , 5 ,
} ;

int sum( int a[] , int L , int R ) { // 非末尾再帰
    if ( R - L == 1 ) {
        return a[ L ] ;
    } else {
        int M = (L + R) / 2 ;
        return sum( a , L , M ) + sum( a , M , R ) ;
    }
}
int main() {
    printf( "%d¥n" , sum( array , 0 , 8 ) ) ;
    return 0 ;
}

このプログラムでは、配列の合計を計算しているが、引数の L,R は、合計範囲の 左端(左端のデータのある場所)・右端(右端のデータのある場所+1)を表している。そして、再帰のたびに2つに分割して解いている。

このような、処理を(この例では半分に)分割し、分割したそれぞれを再帰で計算し、その処理結果を組み合わせて最終的な結果を求めるような処理方法を、分割統治法と呼ぶ。

このプログラムでは、対象となるデータ件数(R-L)をNとおいた場合、実行される命令からsum()の処理時間Ts(N)は次の再帰方程式で表せる。

   ← Tβ + (L〜M)の処理時間 + (M〜R)の処理時間

これを代入の繰り返しで解いていくと、

ということで、このプログラムの処理時間は、 で表せる。


次に、再帰方程式の事例として、ハノイの塔の処理時間について説明し、 数学的帰納法での証明を示す。

ハノイの塔


ハノイの塔は、3本の塔にN枚のディスクを積み、(1)1回の移動ではディスクを1枚しか動かせない、(2)ディスクの上により大きいディスクを積まない…という条件で、山積みのディスクを目的の山に移動させるパズル。

一般解の予想

ハノイの塔の移動回数を とした場合、 少ない枚数での回数の考察から、 以下の一般式で表せることが予想できる。

 … ①

この予想が常に正しいことを証明するために、ハノイの塔の処理を、 最も下のディスク1枚への操作と、その上の(N-1)枚のディスクへの操作に分けて考える。

再帰方程式

上記右の図より、N枚の移動をするためには、上に重なるN-1枚を移動させる必要があるので、

 … ②
 … ③

ということが言える。(これがハノイの塔の移動回数の再帰方程式)
ディスクが枚の時、予想が正しいのは明らか①,②。
ディスクが 枚で、予想が正しいと仮定すると、 枚では、

 … ③より
 … ①を代入

となり、 枚でも、予想が正しいことが証明された。 よって数学的帰納法により、1枚以上で予想が常に成り立つことが証明できた。

理解度確認

  • 前再帰の「ピラミッドの体積」pyra() を、ループにより計算するプログラムを記述せよ。
  • 前講義での2分探索法のプログラムを、再帰によって記述せよ。(以下のプログラムを参考に)。また、このプログラムの処理時間にふさわしい再帰方程式を示せ。
  • 再帰のフィボナッチ関数 fib() の処理時間にふさわしい再帰方程式を示せ。
int a[ 10 ] = {
   7 , 12 , 22 , 34 , 41 , 56 , 62 , 78 , 81 , 98
} ;
int find( int array[] , int L , int R , int key ) { // 末尾再帰
   // 目的のデータが見つかったら 1,見つからなかったら 0 を返す。
   if ( __________ ) {
      return ____ ; // 見つからなかった
   } else {
      int M = _________ ;
      if ( array[ M ] == key )
         return ____ ;
      else if ( array[ M ] > key )
         return find( array , ___ , ___ , key ) ;
      else
         return find( _____ , ___ , ___ , ___ ) ;
   }
}
int main() {
   if ( find( a , 0 , 10 , 56 ) )
      printf( "みつけた¥n" ) ;
}

再帰を使ったソートアルゴリズム

データを並び替える有名なアルゴリズムの処理時間のオーダは、以下の様になる。

この中で、高速なソートアルゴリズムは、クイックソート(最速のアルゴリズム)とマージソート(オーダでは同程度だが若干効率が悪い)であるが、ここでは、再帰方程式で処理時間をイメージしやすい、マージソートにて説明を行う。

マージソートの分析

マージソートは、与えられたデータを2分割し、 その2つの山をそれぞれマージソートを行う。 この結果の2つの山の頂上から、大きい方を取り出す…という処理を繰り返すことで、 ソートを行う。

このことから、再帰方程式は、以下のようになる。

  • Tm(1)=Ta

この再帰方程式を、N=1,2,4,8…と代入を繰り返していくと、 最終的に処理時間のオーダが となる。






よって、処理時間のオーダは  となる。

選択法とクイックソートの処理時間の比較

データ数 N = 20 件でソート処理の時間を計測したら、選択法で 10msec 、クイックソートで 20msec であった。

  1. データ件数 = 100 件では、選択法,クイックソートは、それぞれどの程度の時間がかかるか答えよ。
  2. データ件数何件以上なら、クイックソートの方が高速になるか答えよ。

設問2 は、通常の関数電卓では求まらないので、数値的に方程式を解く機能を持った電卓などが必要。

オブジェクト指向の基本プログラム

C++のクラスで表現

前回の講義での、構造体のポインタ渡しをC++の基本的なクラスで記述した場合のプログラムを再掲する。

#include <stdio.h>
#include <string.h>

// この部分はクラス設計者が書く
class Person {
private: // クラス外からアクセスできない部分
   // データ構造を記述
   char name[10] ; // メンバーの宣言
   int  age ;
public: // クラス外から使える部分
   // データに対する処理を記述
   void set( char s[] , int a ) { // メソッドの宣言
      // pのように対象のオブジェクトを明記する必要はない。
      strcpy( name , s ) ;
      age = a ;
   }
   void print() {
      printf( "%s %d¥n" , name , age ) ;
   }
} ; // ← 注意ここのセミコロンを書き忘れないこと。

// この部分はクラス利用者が書く
int main() {
   Person saitoh ;
   saitoh.set( "saitoh" , 55 ) ;
   saitoh.print() ;

   // 文法エラーの例
   printf( "%d¥n" , saitoh.age ) ; // phoneはprivateなので参照できない。
   return 0 ;
}

この様にC++のプログラムに書き換えたが、内部の処理は元のC言語と同じであり、オブジェクトへの関数呼び出し saitoh.set(…) などが呼び出されても、set() は、オブジェクトのポインタを引数して持つ関数として、機械語が生成されるだけである。

用語の解説:C++のプログラムでは、データ構造とデータの処理を、並行しながら記述する。 データ構造に対する処理は、メソッド(method)と呼ばれる。 データ構造とメソッドを同時に記載したものは、クラス(class)と呼ぶ。 そのデータに対し具体的な値や記憶域が割り当てられたものオブジェクト(object)と呼ぶ。

C++では隠蔽化をさらに明確にするために、private:public: を指定できる。private: は、そのメソッドの中でしか使うことができない要素や関数であり、public: は、メソッド以外からでも参照したり呼出したりできる。オブジェクト指向でプログラムを書くとき、データ構造や関数の処理方法は、クラス内部の設計者しか触れないようにしておけば、その内部を改良することができる。しかし、クラスの利用者が勝手に内部データを触っていると、内部設計者が改良するとそのプログラムは動かないものになってしまう。

隠蔽化を的確に行うことで、クラスの利用者はクラスの内部構造を触ることができなくなる。一方でクラス設計者はクラスの外部への挙動が変化しないようにクラス内部を修正することに心がければ、クラス利用者への影響がないままクラスの内部を改良できる。このように利用者への影響を最小に、常にプログラムを修正することリファクタリングと呼ぶ。

クラス限定子

前述のプログラムでは、class 宣言の中に関数内部の処理を記述していた。しかし関数の記述が長い場合は、書ききれないこういう場合はクラス限定子を使って、メソッドの具体的な処理をクラス宣言の外に記載する。

class Person {
private:
   char name[10] ;
   int  age ;
public:
   // メソッドのプロトタイプ宣言
   void set( char s[] , int a) ;
   void print() ;
} ;

// メソッドの実体をクラス宣言の外に記載する。
void Person::set( char s[] , int a ) {  // Person::set() 
   strcpy( name , s ) ;
   age = a ;
}
void Person::print() {                  // Person::print()
   printf( "%s %d¥n" , name , age ) ;
}

inline 関数と開いたサブルーチン

オブジェクト指向では、きわめて簡単な処理な関数を使うことも多い。
例えば、上記のプログラム例で、クラス利用者に年齢を読み出すことは許しても書き込みをさせたくない場合、以下のような、関数を定義する。(getterメソッド)

# 逆に、値の代入専用のメソッドは、setterメソッドと呼ぶ

class Person {
private:
   char name[10] ;
   int  age ;
public:
   // メソッドのプロトタイプ宣言
   inline int get_age() { return age ; } // getter
   inline void set_age( int a ) { age = a ; } // setter
} ;

ここで inline とは、開いた関数(開いたサブルーチン)を作る指定子である。通常、機械語を生成するとき中身を参照するだけの機械語と、get_age() を呼出したときに関数呼び出しを行う機械語が作られる(閉じたサブルーチン)が、age を参照するだけのために関数呼び出しの機械語はムダが多い。inline を指定すると、入り口出口のある関数は生成されず、get_age() の処理にふさわしい age を参照するだけの機械語が生成される。

# 質問:C言語で開いたサブルーチンを使うためにはどういった機能があるか?

コンストラクタとデストラクタ

プログラムを記述する際、データの初期化忘れや終了処理忘れで、プログラムの誤動作の原因になることが多い。

このための機能がコンストラクタ(構築子)とデストラクタ(破壊子)という。

コンストラクタは、返り値を記載しない関数でクラス名(仮引数…)の形式で宣言し、オブジェクトの宣言時に初期化を行う処理として呼び出される。デストラクタは、~クラス名() の形式で宣言し、オブジェクトが不要となる際に、自動的に呼び出し処理が埋め込まれる。

class Person {
private:
   // データ構造を記述
   char name[10] ;
   int  age ;
public:
   Person() { // (A) 引数なしのコンストラクタ
      name[0] = '
class Person {
private:
   // データ構造を記述
   char name[10] ;
   int  age ;
public:
   Person() { // (A) 引数なしのコンストラクタ
      name[0] = '\0' ;
      age = 0 ;
   }
   Person( char s[] , int a ) { // (B) 引数ありのコンストラクタ
      strcpy( name , s ) ;
      age = a ;
   }
   ~Person() { // デストラクタ
      print() ;
   }
   void print() {
      printf( "'%s' = %d¥n" , name , age ) ;
   }
} ;

int main() {
   Person saitoh( "saitoh" , 55 ) ; // オブジェクトsaitohを"saitoh"と55で初期化
   Person tomoko ;  // 引数なしのコンストラクタで初期化される。
   return 0 ;
   // main を抜ける時にオブジェクトsaitohは不要になるので、
   // デストラクタが自動的に呼び出され、'saitoh' = 55 が表示。
   // 同様に tomoko のデストラクタでは、'' = 0 を表示。
}
' ; age = 0 ; } Person( char s[] , int a ) { // (B) 引数ありのコンストラクタ strcpy( name , s ) ; age = a ; } ~Person() { // デストラクタ print() ; } void print() { printf( "'%s' = %d¥n" , name , age ) ; } } ; int main() { Person saitoh( "saitoh" , 55 ) ; // オブジェクトsaitohを"saitoh"と55で初期化 Person tomoko ; // 引数なしのコンストラクタで初期化される。 return 0 ; // main を抜ける時にオブジェクトsaitohは不要になるので、 // デストラクタが自動的に呼び出され、'saitoh' = 55 が表示。 // 同様に tomoko のデストラクタでは、'' = 0 を表示。 }

このクラスの中には、(A)引数無しのコンストラクタと、(B)引数ありのコンストラクタが出てくる。C++では、同じ名前の関数でも引数の数や型に応じて呼出す関数を適切に選んでくれる。(関数のオーバーロード)

デストラクタは、データが不要となった時に自動的に呼び出してくれる関数で、一般的にはC言語でのファイルの fopen() , fclose() のようなものを使う処理で、コンストラクタで fopen() , デストラクタで fclose() を呼出すように使うことが多いだろう。同じように、コンストラクタで malloc() を呼出し、デストラクタで free() を呼出すというのが定番の使い方だろう。

複素数クラスの例

隠蔽化と基本的なオブジェクト指向の練習課題として、複素数クラスをあげる。ここでは、複素数の加算・乗算を例に説明をするので、減算・除算などの処理を記述することで、クラスの扱いに慣れてもらう。

直交座標系の複素数クラス

#include <stdio.h>
#include <math.h>

// 直交座標系の複素数クラス
class Complex {
private:
   double re ; // 実部
   double im ; // 虚部
public:
   void print() {
      printf( "%lf + j%lf¥n" , re , im ) ;
   }
   Complex( double r , double i )  // コンストラクタで要素の
     : re( r ) , im( i ) {         //  初期化はこのように書いてもいい
   }                               // re = r ; im = i ; の意味
   Complex()      // デフォルトコンストラクタ
     : re( 0.0 ) , im( 0.0 ) {
   }

   void add( Complex z ) {
      // 加算は、直交座標系だと極めてシンプル
      re = re + z.re ;
      im = im + z.im ;
   }
   void mul( Complex z ) {
      // 乗算は、直交座標系だと、ちょっと煩雑
      double r = re * z.re - im * z.im ;
      double i = re * z.im + im * z.re ;
      re = r ;
      im = i ;
   }
   double get_re() {
      return re ;
   }
   double get_im() {
      return im ;
   }
   double get_abs() { // 絶対値
      return sqrt( re*re + im*im ) ;
   }
   double get_arg() { // 偏角
      return atan2( im , re ) ;
   }
} ; // ←何度も繰り返すけど、ここのセミコロン忘れないでね
int main() {
   // 複素数を作る
   Complex a( 1.0 , 2.0 ) ;
   Complex b( 2.0 , 3.0 ) ;

   // 複素数の計算
   a.print() ;
   a.add( b ) ;
   a.print() ;
   a.mul( b ) ;
   a.print() ;

   return 0 ;
}

練習課題

  • 上記の直交座標系の複素数のクラスのプログラムを入力し、動作を確認せよ。
  • このプログラムに減算や除算の処理を追加せよ。

この練習課題は、次週に予定している「曲座標系の複素数クラス」に変更となった場合のプログラムを加え、第1回のレポート課題となります。

創造工学演習・PHPとDB(予備実験)

インターネットを活用したプログラムを作成する場合、データを保存管理するためのデータベースと、データベースのデータを処理するためのプログラム言語が必要となってくる。今回の予備実験では、そのためにリレーショナルデータベースと、Webの動的なプログラム言語である PHP について説明する。

リレーショナル・データベース

データベースは、データを保存し、矛盾が発生しない様に管理してくれるシステムであり、インターネットで活用されている。

データを確実に保存し、矛盾なく扱うためには、本来複雑なプログラムが必要となる。この中で、データを表形式のテーブルを組み合わせて管理するシステムはリレーショナルデータベースと呼ばれる。リレーショナルデータベースでは、データの問い合わせなどの処理が簡単にできるように、SQL と呼ばれる言語を使って処理を行う。

大量のデータをインターネットの中で利用するためには、ネットワークを経由してデータの問い合わせが求められ、有名なデータベースシステムには、Oracle, MySQL などがある。今回の実験では、ネットワーク機能は持たないが簡単な手続きで使うことができる SQLite を使って説明する。

また、今回の予備実験では時間も限られることから、複数の表を組み合わせた SQL の処理については割愛する。

SQLの基本

リレーショナルデータベースでは、データの基本は表形式データであり、1つの表に相当するデータはテーブルと呼ぶ。

以下の様な名前・住所・年齢のデータがあったとすると、1人前のデータをレコードと呼び、name, addr, age といった属性はカラムと呼ぶ。

name addr age
t-saitoh 越前市 55 ←レコード
sakamoto 福井市 50
murata 福井市 35
↑カラム

データの型には、文字列型(char型,varchar型,text型)や、数値型(integer型,decimal型,real型)などがあり、create table 文にてカラムの型を定義する。

create table テーブルを作る

データベースの表を使う最初には、create table 文を実行する。C言語での struct 文をイメージすると解り易いかもしれないが、データはデータベースの中に永続的に保存されるので、システムを動かす最初に一度実行するだけで良い。

上記のような名前・住所・年齢のデータ構造であれば、次の様な create table 文を使う。

create table テーブル名 (
    カラム名1  型1 ,
    カラム名2  型2 
    ) ;
-- 例 --
create table PERSON (        -- テーブル名:PERSON
    name  varchar( 20 ) ,    -- 名前
    addr  varchar( 20 ) ,    -- 住所
    age   integer ,          -- 年齢
    primary key( name )      -- name はデータ検索のキーであり重複は許されない
    ) ;

これと同じ様な処理をC言語で書くのであれば、以下の様な構造体宣言と同じであろう。

struct PERSON {
    char name[ 20 ] ;    // 名前
    char addr[ 20 ] ;    // 住所
    int  age ;           // 年齢
} ;

drop table テーブルを消す

データベースは永続的に保存されるので、テーブル全体のデータが不要であれば、drop table 命令で、テーブル全体を消す。

drop table テーブル名 ;
-- 例 --
drop table PERSON ;

insert into レコードを追加

データベースに1レコードを保存するには、insert文を用いる。

insert into テーブル名 ( カラム名... ) values( 値... ) ;
-- 例 --
insert into PERSON ( name ,       addr ,    age )
            values ( 't-saitoh' , '越前市' , 55  ) ;
insert into PERSON ( name ,       addr ,    age )
            values ( 'sakamoto' , '福井市' , 50  ) ;
insert into PERSON ( name ,       addr ,    age )
            values ( 'murata' ,   '福井市' , 35  ) ;

delete レコードを消す

データベースのレコードを消すには、delete 文を用いる。条件を満たす複数のデータをまとめて消すことができる。

delete from テーブル名 where 条件 ;
-- 例 --
-- 40歳未満のデータを全て消す。 murata,福井市,35 が消える。
delete from PERSON
       where age < 40 ;

update レコードを更新

データベースのレコードを修正するには、update 文を用いる。条件を満たす複数のデータをまとめて修正することもできる。

update テーブル名 set カラム = 値 where 条件 ;
-- 例 --
-- 住所が越前市のレコードの年齢を 0 にする。
update PERSON set age = 0
       where addr == '越前市' ;

select データを探す

データベースの内容を参照するための命令が select 文。where を記載することで、特定の条件のデータだけを選択したり、特定のカラムだけを抽出することができる。

select カラム名 from テーブル名 where 条件 ;
-- 例 --
-- PERSON の全データを出力
select * from PERSON ;

-- PERSON の住所が福井市だけを選別し、名前と住所を抽出
select name,addr from PERSON
       where addr = '福井市' ;

-- PERSON の年齢の最高値を出力 (集約関数)
select max(age) from PERSON
       where addr = '福井市' ;

-- PERSON の年齢条件を満たす人数を数える (集約関数)
select count(name) from PERSON
       where age >= 50 ;

動的なプログラム言語とPHP

本来、Webサーバが作られた頃は、論文や研究用のデータを公開する物であったが、扱うデータが増えるにつれ、特定の論文や研究データの一覧を表示したり探したりという処理が求められた。こういった処理のためにWebページのアクセスを受けた時に処理を実行する CGI という機能があったが、これを発展させてできたプログラム言語が PHP である。

PHPでは、ページを表示するための HTML の中に <?php?> のといった開始タグ・終了タグの中に、ブラウザから送られてきたデータに合わせて、処理を行うPHPの命令を記述し、データを(一般的にはHTML形式で)表示することができる。基本文法は C 言語に似ているが、様々なデータを扱うために変数にはどのような型でも保存できるようになっている。

ブラウザからデータを送るためのform文

ブラウザで入力欄を作ったり選択肢を表示し、その結果を送るための HTML は、入力フォーム(form)と呼ぶ。

<form method="get" action="処理ページ" >

  <input type="text" name="変数名" />

  <input type="radio" name="変数名" value="値" />
  <input type="checkbox" name="変数名" value="値" />

  <textarea cols="横文字数" rows="行数"></textarea>

  <select name="変数名">
    <option value="値1">表示1</option>
    <option value="値2">表示2</option>
  </select>
  <input type="submit" value="実行ボタンに表示する内容" />
</form>

formでは、入力する項目に変数名の名前を付け、action=”” で示したページにデータを送る。

PHPのプログラムの基本

PHPのプログラムは、外見は一般的に HTML ファイルであり、途中で <?php のタグからは、?> までの範囲が、PHP で処理が行われる。PHP のプログラムで print が実行されると、その場所に print 内容が書かれているような HTML ファイルが生成され、ブラウザで表示される。

PHP の中で変数は、$ で始まり、型宣言は基本的に不要である。

文字データを連結する場合は、”.” 演算子を使う。ダブルクオテーション”…”で囲まれた文字列の中の $名前 の部分は、変数名として扱われ、変数名の内容に置き換えられる。

HTMLのform文の action 属性で示された php であれば、PHPの中で送られてきた値を $_GET[‘変数名’] (method=”get”の場合)、 $_POST[‘変数名’] (method=”post”の場合)、または $_REQUEST[‘変数名’] (method=”get” or “post”) で参照できる。

((( sample.php )))
<html>
   <head>
      <title>sample.php</title>
      <meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=utf-8" />
   </head>
   <body>
      <form action="sample.php" method="POST">
         <input name="A" type="text" />     <!-- 変数 $A -->
         +
         <input name="B" type="text" />     <!-- 変数 $B -->
         =
         <?php 
            ini_set( 'error_reporting' , E_WARNING ) ;
            if ( $_REQUEST[ "A" ] != "" && $_REQUEST[ "B" ] != "" ) {
               print $_REQUEST[ "A" ] + $_REQUEST[ "B" ] ;
            } else {
               print "<INPUT TYPE=submit>" ;
            }
         ?>
      </form>
   </body>
</html>

PHPでデータベースを扱う

SQLのデータベースを、プログラム言語の中で扱う場合は、その記述も色々である。PHPでは以下の様にSQLを扱う。

((( survey-init.php )))
<html>
   <head>
      <title>survey_init.php</title>
      <meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=utf-8" />
   </head>
   <body>
      <?php
         // デバッグ用にエラー警告を表示する
         ini_set( 'error_reporting' , E_WARNING ) ;
         // データベースに接続する
         $data_dir = "../public_data" ;
         $dbh = new PDO( "sqlite:$data_dir/sqlite.db" ) ;
         // データベースを初期化する
         $init_sql = "drop table if exists Survey ;"
                   . "create table Survey ("
                   . "  uid  varchar( 20 ) ,"
                   . "  item varchar( 10 )"
                   . ") ;"
                   . "insert into Survey ( uid , item ) values ( 't-saitoh' , '猫'        ) ;"
                   . "insert into Survey ( uid , item ) values ( 'tomoko' ,   'ケーキ'     ) ;"
                   . "insert into Survey ( uid , item ) values ( 'mitsuki' ,  'ボードゲーム' ) ;"
                   ;
         if ( $dbh->exec( $init_sql ) < 0 ) {
            print "Error: $init_sql" ;
         }
         // データベースの表形式を読み出し、表形式で出力する。
         print "<table border='1'>\n" ;
         print "<tr><td align='center'>uid</td><td align='center'>item</td></tr>\n" ;
         $select_sql = "select uid,item from Survey ;" ;
         foreach( $dbh->query( $select_sql ) as list( $uid , $item ) ) {
            print "<tr><td>$uid</td><td>$item</td></tr>\n" ;
         }
         print "<table>\n" ;

         // データベースの単一データを取り出す
         $count_sql = "select count(item) from Survey where item = 'ケーキ' ;" ;
         print $dbh->query( $count_sql )->fetchColumn() ;
      ?>
   </body>
</html>

PHPの主要なSQL関数(PDO)

$dbh = new PDO(…) ; データベースに接続するハンドラを取得。
$dbh->exec( “create…” ) ; データベースでSQLを実行。
$dbh->query( “select…” ) ; データベースに問い合わせ。「1レコードに対応した配列」が全データだけ繰り返す、2次元配列を返す。
$dbh->query( “…” )->fetchColumn() 結果が1つだけの問い合わせ。集約関数の結果を参照する場合に用いる。

練習問題(1)

  • 上記の survey-init.php の select 文の部分を編集し、色々なデータ検索を試してみよ。

入力フォームのデータをデータベースに書き込む

((( survey-vote.php )))
<?php
    // エラー警告を表示                                                                                                     
    ini_set( 'error_reporting' , E_WARNING ) ;

    // form から送られてきた変数を保存                                                                                      
    $uid  = $_REQUEST[ "uid" ] ;
    $item = $_REQUEST[ "item" ] ;

    // データベースに接続する                                                                                               
    $data_dir = "../public_data" ;
    $dbh = new PDO( "sqlite:$data_dir/sqlite.db" ) ;

    // データベースに項目を追加する                                                                                         
    if ( $uid != "" && $item != "" ) {
        $insert_sql = sprintf( "insert into Survey( uid , item ) values ( %s , %s ) ;" ,
                               $dbh->quote( $uid ) , $dbh->quote( $item ) ) ;
        $dbh->exec( $insert_sql ) ;

        // reload処理で追記しないためページを強制的に再表示させる                                                           
        header( "Location: survey-vote.php" ) ;
    }
?>
<html>
  <head>
    <title>survey_vote.php</title>
    <meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=utf-8" />
  </head>
  <body>
    <form method="get" action="survey-vote.php">
       名前:   <input type="text" name="uid" />
       好きな物:<input type="text" name="item" />
       <input type="submit" value="投票" />
    </form>
    <?php
      // データベースの表形式を読み出し、表形式で出力する。                                                                   
      print "<table border='1'>\n" ;
      print "  <tr><td align='center'>uid</td><td align='center'>item</td></tr>\n" ;

      $select_sql = "select uid,item from Survey ;" ;
      foreach( $dbh->query( $select_sql ) as list( $t_uid , $t_item ) ) {
          print "  <tr><td>$t_uid</td><td>$t_item</td></tr>\n" ;
      }
      print "</table>\n" ;
    ?>
  </body>
</html>

練習問題(2)

  • 上記の survey-vote.php のプログラムを編集し色々な入力方法・出力方法を試してみよ。
    • 例えば、入力の item 選択に select や ラジオボタン フォームを使う。
    • 例えば、出力結果で、item の投票結果を、棒グラフで出力する。

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