値渡し,ポインタ渡し,参照渡し
C言語をあまりやっていない学科の人向けのC言語の基礎として、関数との値渡し, ポインタ渡しについて説明する。ただし、参照渡しについては電子情報の授業でも細かく扱っていない内容なので電子情報系学生も要注意。
オブジェクト指向のプログラムでは、構造体のポインタ渡し(というよりは参照渡し)を多用するが、その基本となる関数との値の受け渡しの理解のため、以下に値渡し・ポインタ渡し・参照渡しについて説明する。
ポインタと引数
値渡し(call by value, pass by value)
// 値渡しのプログラム
void foo( int x ) { // x は局所変数(仮引数は呼出時に
// 対応する実引数で初期化される。
x++ ;
printf( "%d¥n" , x ) ;
}
int main() {
int a = 123 ;
foo( a ) ; // 124
// 処理後も main::a は 123 のまま。
foo( a ) ; // 124
return 0 ;
}
このプログラムでは、aの値は変化せずに、124,124 が表示される。ここで、関数 foo() を呼び出しても、関数に「値」が渡されるだけで、foo() を呼び出す際の実引数 a の値は変化しない。こういった関数に値だけを渡すメカニズムは「値渡し」と呼ぶ。
値渡しだけが使われれば、関数の処理後に変数に影響が残らない。こういった処理の影響が残らないことは一般的に「副作用がない」という。
大域変数を使ったプログラム
でも、プログラムによっては、124,125 と変化して欲しい場合もある。どのように記述すべきだろうか?
// 大域変数を使う場合
int x ;
void foo() {
x++ ;
printf( "%d¥n" , x ) ;
}
int main() {
x = 123 ;
foo() ; // 124
foo() ; // 125
return 0 ;
}
しかし、このプログラムは大域変数を使うために、間違いを引き起こしやすい。大域変数はどこでも使える変数であり、副作用が発生して間違ったプログラムを作る原因になりやすい。
// 大域変数が原因で予想外の挙動をしめす簡単な例
int i ;
void foo() {
for( i = 0 ; i < 2 ; i++ )
printf( "A" ) ;
}
int main() {
for( i = 0 ; i < 3 ; i++ ) // このプログラムでは、AA AA AA と
foo() ; // 表示されない。
return 0 ;
}
ポインタ渡し(call by pointer, pass by pointer)
C言語で引数を通して、呼び出し側の値を変化して欲しい場合は、変更して欲しい変数のアドレスを渡し、関数側では、ポインタ変数を使って受け取った変数のアドレスの示す場所の値を操作する。(副作用の及ぶ範囲を限定する) こういった、値の受け渡し方法は「ポインタ渡し」と呼ぶ。
// ポインタ渡しのプログラム
void foo( int* p ) { // p はポインタ
(*p)++ ;
printf( "%d¥n" , *p ) ;
}
int main() {
int a = 123 ;
foo( &a ) ; // 124
// 処理後 main::a は 124 に増えている。
foo( &a ) ; // 124
return 0 ; // さらに125と増える
}
ポインタを利用して引数に副作用を与える方法は、ポインタを正しく理解していないプログラマーでは、危険な操作となる。
参照渡し(call by reference, pass by reference)
C++では、ポインタ渡しを極力使わないようにするために、参照渡しを利用する。ただし、ポインタ渡しも参照渡しも、機械語レベルでは同じ処理にすぎない。
// ポインタ渡しのプログラム void foo( int& x ) { // xは参照 x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } int main() { int a = 123 ; foo( a ) ; // 124 // 処理後 main::a は 124 に増えている。 foo( a ) ; // 124 return 0 ; // さらに125と増える。 }
大きなプログラムを作る場合、副作用のあるプログラムの書き方は、間違ったプログラムの原因となりやすい。そこで関数の呼び出しを中心としてプログラムを書くものとして、関数型プログラミングがある。
構造体の参照渡し
構造体のデータを関数で受け渡しをする場合は、参照渡しを利用する。
struct Person {
char name[ 20 ] ;
int age ;
} ;
void print( struct Person* p ) {
printf( "%s %d¥n" , p->name , p->age ) ;
}
void main() {
struct Person saitoh ;
strcpy( saitoh.name , "t-saitoh" ) ;
saitoh.age = 50 ;
print( &saitoh ) ; // ポインタによる参照渡し
}
このようなプログラムの書き方をすると、「データ saitoh に、print() せよ…」 といった処理を記述したようになる。 これを発展して、データ saitoh に、print という命令をするイメージにも見える。
この考え方を、そのままプログラムに反映させ、Personというデータは、 名前と年齢、データを表示するprintは…といったように、 データ構造と、そのデータ構造への処理をペアで記述すると分かりやすい。
オブジェクト指向の導入
構造体でオブジェクト指向もどき
例えば、名前と年齢の構造体で処理を記述する場合、 以下の様な記載を行うことで、データ設計者とデータ利用者で分けて 仕事ができることを説明。
// この部分はデータ構造の設計者が書く
// データ構造を記述
struct Person {
char name[10] ;
int age ;
} ;
// データに対する処理を記述
void setPerson( struct Person* p , char s[] , int a ) {
// ポインタの参照で表記
strcpy( (*p).name , s ) ;
(*p).age = a ;
}
void printPerson( struct Person* p ) {
// アロー演算子で表記 "(*p).name" は "p->name" で書ける
printf( "%s %d¥n" ,
p->name , p->age ) ;
}
// この部分は、データ利用者が書く
int main() {
// Personの中身を知らなくてもいいから配列を定義(データ隠蔽)
struct Person saitoh ;
setPerson( &saitoh , "saitoh" , 55 ) ;
struct Person table[ 10 ] ; // 初期化は記述を省略
for( int i = 0 ; i < 10 ; i++ ) {
// 出力する...という雰囲気で書ける(手続き隠蔽)
printPerson( &table[i] ) ;
}
return 0 ;
}
このプログラムの書き方では、mainの中を読むだけもで、 データ初期化とデータ出力を行うことはある程度理解できる。 この時、データ構造の中身を知らなくてもプログラムが理解でき、 データ実装者はプログラムを記述できる。これをデータ構造の隠蔽化という。 一方、setPerson()や、printPerson()という関数の中身についても、 初期化・出力の方法をどうするのか知らなくても、 関数名から動作は推測できプログラムも書ける。 これを手続きの隠蔽化という。
C++のクラスで表現
上記のプログラムをそのままC++に書き直すと以下のようになる。
#include <stdio.h>
#include <string.h>
// この部分はクラス設計者が書く
class Person {
private: // クラス外からアクセスできない部分
// データ構造を記述
char name[10] ; // メンバーの宣言
int age ;
public: // クラス外から使える部分
// データに対する処理を記述
void set( char s[] , int a ) { // メソッドの宣言
// pのように対象のオブジェクトを明記する必要はない。
strcpy( name , s ) ;
age = a ;
}
void print() {
printf( "%s %d¥n" , name , age ) ;
}
} ; // ← 注意ここのセミコロンを書き忘れないこと。
// この部分はクラス利用者が書く
int main() {
Person saitoh ;
saitoh.set( "saitoh" , 55 ) ;
saitoh.print() ;
// 文法エラーの例
printf( "%d¥n" , saitoh.age ) ; // age は private なので参照できない。
return 0 ;
}
用語の解説:C++のプログラムでは、データ構造とデータの処理を、並行しながら記述する。 データ構造に対する処理は、メソッド(method)と呼ばれる。 データ構造とメソッドを同時に記載したものは、クラス(class)と呼ぶ。 そのclassに対し、具体的な値や記憶域が割り当てられたものをオブジェクト(object)と呼ぶ。