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オブジェクト指向」カテゴリーアーカイブ

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引数の取扱いとオブジェクト指向の導入

値渡し,ポインタ渡し,参照渡し

C言語をあまりやっていない学科の人向けのC言語の基礎として、関数との値渡し, ポインタ渡しについて説明する。ただし、参照渡しについては電子情報の授業でも細かく扱っていない内容なので電子情報系学生も要注意。

オブジェクト指向のプログラムでは、構造体のポインタ渡し(というよりは参照渡し)を多用するが、その基本となる関数との値の受け渡しの理解のため、以下に値渡しポインタ渡し参照渡しについて説明する。

ポインタと引数

値渡し(Call by value)

// 値渡しのプログラム
void foo( int x ) {  // x は局所変数(仮引数は呼出時に
                     // 対応する実引数で初期化される。
   x++ ;
   printf( "%d¥n" , x ) ;
}
int main() {
   int a = 123 ;
   foo( a ) ;  // 124
               // 処理後も main::a は 123 のまま。
   foo( a ) ;  // 124
   return 0 ;
}

このプログラムでは、aの値は変化せずに、124,124 が表示される。ここで、関数 foo() を呼び出しても、関数に「値」が渡されるだけで、foo() を呼び出す際の実引数 a の値は変化しない。こういった関数に値だけを渡すメカニズムは「値渡し」と呼ぶ。

値渡しだけが使われれば、関数の処理後に変数に影響が残らない。こういった処理の影響が残らないことは一般的に「副作用がない」という。

大域変数を使ったプログラム

でも、プログラムによっては、124,125 と変化して欲しい場合もある。どのように記述すべきだろうか?

// 大域変数を使う場合
int x ;
void foo() {
   x++ ;
   printf( "%d¥n" , x ) ;
}
int main() {
   x = 123 ;
   foo() ;  // 124
   foo() ;  // 125
   return 0 ;
}

しかし、このプログラムは大域変数を使うために、間違いを引き起こしやすい。大域変数はどこでも使える変数であり、副作用が発生して間違ったプログラムを作る原因になりやすい。

// 大域変数が原因で予想外の挙動をしめす簡単な例
int i ;
void foo() {
   for( i = 0 ; i < 2 ; i++ )
      printf( "A" ) ;
}
int main() {
   for( i = 0 ; i < 3 ; i++ )  // このプログラムでは、AA AA AA と
      foo() ;                   // 表示されない。
   return 0 ;
}

ポインタ渡し(Call by pointer)

C言語で引数を通して、呼び出し側の値を変化して欲しい場合は、変更して欲しい変数のアドレスを渡し、関数側では、ポインタ変数を使って受け取った変数のアドレスの示す場所の値を操作する。(副作用の及ぶ範囲を限定する) こういった、値の受け渡し方法は「ポインタ渡し」と呼ぶ。

// ポインタ渡しのプログラム
void foo( int* p ) {  // p はポインタ
   (*p)++ ;
   printf( "%d¥n" , *p ) ;
}
int main() {
   int a = 123 ;
   foo( &a ) ;  // 124
                // 処理後 main::a は 124 に増えている。
   foo( &a ) ;  // 124
   return 0 ;   // さらに125と増える
}

ポインタを利用して引数に副作用を与える方法は、ポインタを正しく理解していないプログラマーでは、危険な操作となる。

参照渡し(Call by reference)

C++では、ポインタ渡しを極力使わないようにするために、参照渡しを利用する。ただし、ポインタ渡しも参照渡しも、機械語レベルでは同じ処理にすぎない。

// ポインタ渡しのプログラム
void foo( int& x ) {  // xは参照
   x++ ;
   printf( "%d¥n" , x ) ;
}
int main() {
   int a = 123 ;
   foo( a ) ;  // 124
               // 処理後 main::a は 124 に増えている。
   foo( a ) ;  // 124
   return 0 ;  // さらに125と増える。
}

大きなプログラムを作る場合、副作用のあるプログラムの書き方は、間違ったプログラムの原因となりやすい。そこで関数の呼び出しを中心としてプログラムを書くものとして、関数型プログラミングがある。


構造体の参照渡し

構造体のデータを関数で受け渡しをする場合は、参照渡しを利用する。

struct Person {
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
} ;
void print( struct Person* p ) {
   printf( "%s %d¥n" , p->name , p->age ) ;
}
void main() {
   struct Person saitoh ;
   strcpy( saitoh.name , "t-saitoh" ) ;
   saitoh.age = 50 ;
   print( &saitoh ) ;  // ポインタによる参照渡し
}

このようなプログラムの書き方をすると、「データ saitoh に、print() せよ…」 といった処理を記述したようになる。 これを発展して、データ saitoh に、print という命令をするイメージにも見える。

この考え方を、そのままプログラムに反映させ、Personというデータは、 名前と年齢、データを表示するprintは…といったように、 データ構造と、そのデータ構造への処理をペアで記述すると分かりやすい。


オブジェクト指向の導入

構造体でオブジェクト指向もどき

例えば、名前と年齢の構造体で処理を記述する場合、 以下の様な記載を行うことで、データ設計者データ利用者で分けて 仕事ができることを説明。

// この部分はデータ構造の設計者が書く
// データ構造を記述
struct Person {
   char name[10] ;
   int  age ;
} ;
// データに対する処理を記述
void setPerson( struct Person* p , char s[] , int a ) {
   // ポインタの参照で表記
   strcpy( (*p).name , s ) ;
   (*p).age = a ;
}
void printPerson( struct Person* p ) {
   // アロー演算子で表記 "(*p).name" は "p->name" で書ける
   printf( "%s %d¥n" ,
           p->name , p->age ) ;
}
// この部分は、データ利用者が書く
int main() {
   // Personの中身を知らなくてもいいから配列を定義(データ隠蔽)
   struct Person saitoh ;
   setPerson( &saitoh , "saitoh" , 55 ) ;

   struct Person table[ 10 ] ; // 初期化は記述を省略
   for( int i = 0 ; i < 10 ; i++ ) {
      // 出力する...という雰囲気で書ける(手続き隠蔽)
      printPerson( &table[i] ) ;
   }
   return 0 ;
}

このプログラムの書き方では、mainの中を読むだけもで、 データ初期化とデータ出力を行うことはある程度理解できる。 この時、データ構造の中身を知らなくてもプログラムが理解でき、 データ実装者はプログラムを記述できる。これをデータ構造の隠蔽化という。 一方、setPerson()や、printPerson()という関数の中身についても、 初期化・出力の方法をどうするのか知らなくても、 関数名から動作は推測できプログラムも書ける。 これを手続きの隠蔽化という。

C++のクラスで表現

上記のプログラムをそのままC++に書き直すと以下のようになる。

#include <stdio.h>
#include <string.h>

// この部分はクラス設計者が書く
class Person {
private: // クラス外からアクセスできない部分
   // データ構造を記述
   char name[10] ; // メンバーの宣言
   int  age ;
public: // クラス外から使える部分
   // データに対する処理を記述
   void set( char s[] , int a ) { // メソッドの宣言
      // pのように対象のオブジェクトを明記する必要はない。
      strcpy( name , s ) ;
      age = a ;
   }
   void print() {
      printf( "%s %d¥n" , name , age ) ;
   }
} ; // ← 注意ここのセミコロンを書き忘れないこと。

// この部分はクラス利用者が書く
int main() {
   Person saitoh ;
   saitoh.set( "saitoh" , 55 ) ;
   saitoh.print() ;

   // 文法エラーの例
   printf( "%d¥n" , saitoh.age ) ; // age は private なので参照できない。
   return 0 ;
}

用語の解説:C++のプログラムでは、データ構造データの処理を、並行しながら記述する。 データ構造に対する処理は、メソッド(method)と呼ばれる。 データ構造とメソッドを同時に記載したものは、クラス(class)と呼ぶ。 そのclassに対し、具体的な値や記憶域が割り当てられたものをオブジェクト(object)と呼ぶ。

オブジェクト指向プログラミング・ガイダンス2024

専攻科2年のオブジェクト指向プログラミングの授業の1回目。

最近のプログラミングの基本となっているオブジェクト指向について、その機能についてC++言語を用いて説明し、後半では対象(オブジェクト)をモデル化して設計するための考え方(UML)について説明する。

評価は、3つの課題と最終テストを各25%づつで評価を行う。

オブジェクト指向プログラミングの歴史

最初のプログラム言語のFortran(科学技術計算向け言語)の頃は、処理を記述するだけだったけど、 COBOL(商用計算向け言語)ができた頃には、データをひとまとめで扱う「構造体」(C言語ならstruct {…}の考えができた。(データの構造化)

// C言語の構造体
struct Person { // 1人分のデータ構造をPersonとする
   char name[ 20 ] ;             // 名前
   int  b_year, b_month, b_day ; // 誕生日
} ;

一方、初期のFortranでは、プログラムの処理順序は、繰り返し処理も if 文と goto 文で記載し、処理がわかりにくかった。その後のALGOLの頃には、処理をブロック化して扱うスタイル(C言語なら{ 文 … }の複文で 記述する方法ができてきた。(処理の構造化)

      ! 構造化文法がないFORTRAN
      integer i
      do 999 i = 0 , 9
         write( 6 , '(I2)' ) i
  999 continue
      end
---------------------------------------------------  
      // ブロックの考えがない時代の雰囲気をC言語で表すと
      int i = 0 ;
LOOP: if ( i >= 10 ) goto EXIT ;
         if ( i % 2 != 0 ) goto NEXT ;
            printf( "%d " , i ) ;
NEXT:    i++ ;
      goto LOOP ;   // 処理の範囲を字下げ(インデント)で強調
EXIT:
--------------------------------------------------- 
      // C 言語で書けば
      int i ;
      for( i = 0 ; i < 10 ; i++ ) {
         if ( i % 2 == 0 ) {
            printf( "%d¥n" , i ) ;
         }
      }
---------------------------------------------------
      ! 構造化文法のFORTRANで書くと
      integer i
      do i = 0 , 9
        if ( mod( i , 2 ) == 0 ) then
          print * , i
        end if
      end do

このデータの構造化・処理の構造化により、プログラムの分かりやすさは向上し、このデータと処理をブロック化した書き方は「構造化プログラミング(Structured Programming)」 と呼ばれる。

雑談

ここで紹介した、最古の高級言語 Fortran や COBOL は、今でも使われている。Fortran は、スーパーコンピュータなどで行われる数値シミュレーションでは、広く利用されている。また COBOL は、銀行などのシステムでもまだ使われている。しかしながら、新システムへの移行で COBOL を使えるプログラマーが定年を迎え減っていることから、移行トラブルが発生している。特に、CASEツール(UMLなどの図をベースにしたデータからプログラムを自動生成するツール)によって得られた COBOL のコードが移行を妨げる原因となることもある。

この後、様々なプログラム言語が開発され、C言語などもできてきた。 一方で、シミュレーションのプログラム開発(例simula)では、 シミュレーション対象(object)に対して、命令するスタイルの書き方が生まれ、 データに対して命令するという点で、擬人法のようなイメージで直感的にも分かりやすかった。 これがオブジェクト指向プログラミング(Object Oriented Programming)の始まりとなる。略記するときは OOP などと書くことが多い。

この考え方を導入した言語の1つが Smalltalk であり、この環境では、プログラムのエディタも Smalltalk で記述したりして、オブジェクト指向がGUIのプログラムと親和性が良いことから、この考え方は多くのプログラム言語へと取り入れられていく。

C言語にこのオブジェクト指向を取り入れ、C++が開発される。さらに、この文法をベースとした、 Javaなどが開発されている。最近の新しい手続き型言語では、どれもオブジェクト指向の考えが使われている。

この授業の中ではオブジェクト指向プログラミングにおける、隠蔽化, 派生と継承, 仮想関数 などの概念を説明する。

構造体の導入

専攻科の授業では、電子情報以外の学科系の学生さんもいるので、まずは C 言語での構造体の説明を行う。

C++でのオブジェクト指向は、C言語の構造体の表記がベースになっているので、まずは構造体の説明。

// 構造体の宣言
struct Person {      // Personが構造体につけた名前
   char name[ 20 ] ; // 要素1
   int  phone ;      // 要素2
} ;                  // 構造体定義とデータ構造宣言を
                     // 別に書く時は「;」の書き忘れに注意
// 構造体変数の宣言
struct Person saitoh ;
struct Person data[ 10 ] ;
// 実際にデータを参照 構造体変数.要素名
strcpy( saitoh.name , "t-saitoh" ) ;
saitoh.phone = 272925 ;
for( int i = 0 ; i < 10 ; i++ ) {
   scanf( "%d%s" , data[ i ].name , &(data[ i ].phone) ) ;
}

構造体に慣れていない人のための課題

  • 以下に、C言語の構造体を使った基本的なプログラムを示す。このプログラムでは、国語,算数,理科の3科目と名前の5人分のデータより、各人の平均点を計算している。このプログラムを動かし、以下の機能を追加せよ。レポートには プログラムリストと動作結果の分かる結果を付けること。
    • 国語の最低点の人を探し、名前を表示する処理。
    • 算数の平均点を求める処理。
#include <stdio.h>

struct Student {
  char name[ 20 ] ;
  int  kokugo ;
  int  sansu ;
  int  rika ;
} ;

struct Student table[5] = {
  // name ,      kokugo , sansu , rika                                          
  { "Aoyama" ,   56 ,     95 ,    83 } ,
  { "Kondoh" ,   78 ,     80 ,    64 } ,
  { "Saitoh" ,   42 ,     78 ,    88 } ,
  { "Sakamoto" , 85 ,     90 ,    36 } ,
  { "Yamagosi" ,100 ,     72 ,    65 } ,
} ;

int main() {
  int i = 0 ;
  for( i = 0 ; i < 5 ; i++ ) {
    double sum = table[i].kokugo + table[i].sansu + table[i].rika ;
    printf( "%-10.10s %3d %3d %3d %6.2lf\n" ,
            table[i].name , table[i].kokugo , table[i].sansu , table[i].rika ,
            sum / 3.0 ) ;
  }
  return 0 ;
}

値渡し,ポインタ渡し,参照渡し

C言語をあまりやっていない学科の人向けのC言語の基礎として、関数との値渡し, ポインタ渡しについて説明する。ただし、参照渡しについては電子情報の授業でも細かく扱っていない内容なので電子情報系学生も要注意。

オブジェクト指向のプログラムでは、構造体のポインタ渡し(というよりは参照渡し)を多用するが、その基本となる関数との値の受け渡しの理解のため、以下に値渡し・ポインタ渡し・参照渡しについて説明する。

ポインタと引数

値渡し(Call by value)

// 値渡しのプログラム
void foo( int x ) {  // x は局所変数(仮引数は呼出時に
                     // 対応する実引数で初期化される。
   x++ ;
   printf( "%d¥n" , x ) ;
}
int main() {
   int a = 123 ;
   foo( a ) ;  // 124
               // 処理後も main::a は 123 のまま。
   foo( a ) ;  // 124
   return 0 ;
}

このプログラムでは、aの値は変化せずに、124,124 が表示される。ここで、関数 foo() を呼び出しても、関数に「値」が渡されるだけで、foo() を呼び出す際の実引数 a の値は変化しない。こういった関数に値だけを渡すメカニズムは「値渡し」と呼ぶ。

値渡しだけが使われれば、関数の処理後に変数に影響が残らない。こういった処理の影響が残らないことは一般的に「副作用がない」という。

大域変数を使ったプログラム

でも、プログラムによっては、124,125 と変化して欲しい場合もある。どのように記述すべきだろうか?

// 大域変数を使う場合
int x ;
void foo() {
   x++ ;
   printf( "%d¥n" , x ) ;
}
int main() {
   x = 123 ;
   foo() ;  // 124
   foo() ;  // 125
   return 0 ;
}

しかし、このプログラムは大域変数を使うために、間違いを引き起こしやすい。大域変数はどこでも使える変数であり、副作用が発生して間違ったプログラムを作る原因になりやすい。

// 大域変数が原因で予想外の挙動をしめす簡単な例
int i ;
void foo() {
   for( i = 0 ; i < 2 ; i++ )
      printf( "A" ) ;
}
int main() {
   for( i = 0 ; i < 3 ; i++ )  // このプログラムでは、AA AA AA と
      foo() ;                   // 表示されない。
   return 0 ;
}

ポインタ渡し(Call by pointer)

C言語で引数を通して、呼び出し側の値を変化して欲しい場合は、変更して欲しい変数のアドレスを渡し、関数側では、ポインタ変数を使って受け取った変数のアドレスの示す場所の値を操作する。(副作用の及ぶ範囲を限定する) こういった、値の受け渡し方法は「ポインタ渡し」と呼ぶ。

// ポインタ渡しのプログラム
void foo( int* p ) {  // p はポインタ
   (*p)++ ;
   printf( "%d¥n" , *p ) ;
}
int main() {
   int a = 123 ;
   foo( &a ) ;  // 124
                // 処理後 main::a は 124 に増えている。
   foo( &a ) ;  // 124
   return 0 ;   // さらに125と増える
}

ポインタを利用して引数に副作用を与える方法は、ポインタを正しく理解していないプログラマーでは、危険な操作となる。

参照渡し(Call by reference)

C++では、ポインタ渡しを極力使わないようにするために、参照渡しを利用する。ただし、ポインタ渡しも参照渡しも、機械語レベルでは同じ処理にすぎない。

// ポインタ渡しのプログラム
void foo( int& x ) {  // xは参照
   x++ ;
   printf( "%d¥n" , x ) ;
}
int main() {
   int a = 123 ;
   foo( a ) ;  // 124
               // 処理後 main::a は 124 に増えている。
   foo( a ) ;  // 124
   return 0 ;  // さらに125と増える。
}

大きなプログラムを作る場合、副作用のあるプログラムの書き方は、間違ったプログラムの原因となりやすい。そこで関数の呼び出しを中心としてプログラムを書くものとして、関数型プログラミングがある。

オブジェクト指向プログラミング-2023年度講義録

  1. オブジェクト指向プログラミング・ガイダンス2023
  2. 引数の取扱いとオブジェクト指向の導入
  3. オブジェクト指向の基本プログラムと複素数クラス
  4. 複素数クラスによる演習
  5. 派生と継承
  6. 派生と継承と仮想関数
  7. 抽象クラス(純粋仮想基底クラス)
  8. 派生や集約と多重継承
  9. UMLの概要
  10. UMLの概要と構造図
  11. UMLと振る舞い図
  12. オブジェクト指向とソフトウェア工学

オブジェクト指向とソフトウェア工学

オブジェクト指向プログラミングの最後の総括として、 ソフトウェア工学との説明を行う。

トップダウン設計とウォーターフォール型開発

ソフトウェア工学でプログラムの開発において、一般的なサイクルとしては、 専攻科などではどこでも出てくるPDCAサイクル(Plan, Do, Check, Action)が行われる。 この時、プログラム開発の流れとして、大企業でのプログラム開発では一般的に、 トップダウン設計とウォーターフォール型開発が行われる。

トップダウン設計では、全体の設計(Plan)を受け、プログラムのコーディング(Do)を行い、 動作検証(Check)をうけ、最終的に利用者に納品し使ってもらう(Action)…の流れで開発が行われる。設計(Plan)の中身は、要件定義機能仕様動作仕様…といった細かなフェーズになることも多い。 この場合、コーディングの際に設計の不備が見つかり設計のやり直しが発生すれば、 全行程の遅延となることから、前段階では完璧な設計が必要となる。 このような、上位設計から下流工程にむけ設計する方法は、トップダウン設計などと呼ばれる。また、処理は前段階へのフィードバック無しで次工程へ流れ、 川の流れが下流に向かう状態にたとえ、ウォーターフォールモデルと呼ばれる。

引用:Think IT 第2回開発プロセスモデル

このウォーターフォールモデルに沿った開発では、横軸時間、縦軸工程とした ガントチャートなどを描きながら進捗管理が行われる。

引用:Wikipedia ガントチャート

V字モデル

一方、チェック工程(テスト工程)では、 要件定義を満たしているかチェックしたり、基本設計や詳細設計が仕様を満たすかといったチェックが存在し、テストの前工程とそれぞれ対応した機能のチェックが存在する。 その各工程に対応したテストを経て最終製品となる様は、V字モデルと呼ばれる。

引用:@IT Eclipseテストツール活用の基礎知識

しかし、ウォーターフォールモデルでは、(前段階の製作物の不備は修正されるが)前段階の設計の不備があっても前工程に戻るという考えをとらないため、全体のPDCAサイクルが終わって次のPDCAサイクルまで問題が残ってしまう。巨大プロジェクトで大量の人が動いているだから、簡単に方針が揺らいでもトラブルの元にしかならないことから、こういった手法は大人数での巨大プロジェクトでのやり方である。

ボトムアップ設計とアジャイル開発

少人数でプログラムを作っている時(あるいはプロトタイプ的な開発)には、 部品となる部分を完成させ、それを組合せて全体像を組み上げる手法もとられる。 この方法は、ボトムアップ設計と呼ばれる。このような設計は場当たり的な開発となる場合があり設計の見直しも発生しやすい。

また、ウォーターフォールモデルでは、前工程の不備をタイムリーに見直すことができないが、 少人数開発では適宜前工程の見直しが可能となる。 特にオブジェクト指向プログラミングを実践して隠蔽化が正しく行われていれば、 オブジェクト指向によるライブラリの利用者への影響を最小にしながら、ライブラリの内部設計の見直しも可能となる。 このような外部からの見た挙動を変えることなく内部構造の改善を行うことリファクタリングと呼ばれる。

一方、プログラム開発で、ある程度の規模のプログラムを作る際、最終目標の全機能を実装したものを 目標に作っていると、全体像が見えずプログラマーの達成感も得られないことから、 機能の一部分だけ完成させ、次々と機能を実装し完成に近づける方式もとられる。 この方式では、機能の一部分の実装までが1つのPDCAサイクルとみなされ、 このPDCAサイクルを何度も回して機能を増やしながら完成形に近づける方式とも言える。 このような開発方式は、アジャイルソフトウェア開発と呼ぶ。 一つのPDCAサイクルは、アジャイル開発では反復(イテレーション)と呼ばれ、 短い開発単位を反復し製品を作っていく。この方法では、一度の反復後の実装を随時顧客に見てもらうことが可能であり、顧客とプログラマーが一体となって開発が進んでいく。

引用:コベルコシステム

エクストリームプログラミング

アジャイル開発を行うためのプログラミングスタイルとして、 エクストリームプログラミング(Xp)という考え方も提唱されている。 Xpでは、5つの価値(コミュニケーション,シンプル,フィードバック,勇気,尊重)を基本とし、 開発のためのプラクティス(習慣,実践)として、 テスト駆動開発(コーディングでは最初に機能をテストするためのプログラムを書き、そのテストが通るようにプログラムを書くことで,こまめにテストしながら開発を行う)や、 ペアプログラミング(2人ペアで開発し、コーディングを行う人とそのチェックを行う人で役割分担をし、 一定期間毎にその役割を交代する)などの方式が取られることが多い。

リーン・ソフトウェア開発は、トヨタ生産方式を一般化したリーン生産方式をソフトウェア開発に導入したもの。ソフトウェアでよく言われる話として「完成した機能の64%は使われていない」という分析がある。これでは、開発に要する人件費の無駄遣いとみることもできる。そこで、品質の良いものを作る中で無駄の排除を目的とし、本当にその機能は必要かを疑いながら、優先順位をつけ実装し、その実装が使われているのか・有効に機能しているのかを評価ながら開発をすすことが重要であり、リーン生産方式がソフトウェア開発にも取り込まれていった。

伽藍(がらん)とバザール

これは、通常のソフトウェア開発の理論とは異なるが、重要な開発手法の概念なので「伽藍とバザール」を紹介する。

伽藍(がらん)とは、優美で壮大な寺院のことであり、その設計・開発は、優れた設計・優れた技術者により作られた完璧な実装を意味している。バザールは有象無象の人の集まりの中で作られていくものを意味している。

たとえば、伽藍方式の代表格である Microsoft の製品は、優秀なプロダクトだが、中身の設計情報などを普通の人は見ることはできない。このため潜在的なバグが見つかりにくいと言われている。

これに対しバザール方式の代表格の Linux は、インターネット上にソースコードが公開され、誰もがソースコードに触れプログラムを改良してもいい(オープンソース)。その中で、新しい便利な機能を追加しインターネットに公開されれば、良いコードは生き残り、悪いコードは自然淘汰されていく。

このオープンソースを支えているツールとしては、プログラムの変更履歴やバージョン管理を行う分散型バージョン管理システム git が有名であり、Linux のソフトウェア管理などで広く利用されている。。

オープンソースライセンス

バザール方式は、オープンソースライセンスにより成り立っていて、このライセンスが適用されていれば、改良した機能はインターネットに公開する義務を引き継ぐ。このライセンスの代表格が、GNU パブリックライセンス(GPL)であり、公開の義務の範囲により、BSD ライセンスApacheライセンスといった違いがある。

コピーレフト型 GNU ライセンス(GPL) 改変したソースコードは公開義務,
組み合わせて利用で対応箇所の開示。
準コピーレフト型 LGPL, Mozilla Public License 改変したソースコードは公開義務。
非コピーレフト型 BSDライセンス, Apacheライセンス ソースコードを改変しても必ずしもすべてを公開しなくてもいい。

GPLライセンスのソフトウェアを組み込んで製品を開発した場合に、ソースコード開示を行わないとGPL違反となる。大企業でこういったGPL違反が発生すると、大きな風評被害による損害をもたらす場合がある。

UMLと振る舞い図

前回の講義で説明した構造図に続いて、処理の流れを説明するための振る舞い図の説明。

講義の後半は、UML作成のレポートの課題時間とする。

振る舞い図

参考資料をもとに振る舞い図の説明を行う。

ユースケース図

1507131131_211x192.png

ユーザなど外部からの要求に対する、システムの振る舞いを表現するための活用事例や機能を表す図がユースケース図。 システムを構築する際に、最初に記述するUMLであり、システムに対する処理要件の全体像や機能を理解するために記述する。 ユーザや外部のシステムは、アクターとよび人形の絵で示す。楕円でシステムに対する具体的な処理をユースケースとして楕円で記述する。 関連する複数のユースケースをまとめて、サブジェクトとして示す場合もある。

アクティビティ図

処理順序を記述するための図にはフローチャートがあるが、上から下に処理順序を記述するため、縦長の図になりやすい。また、四角枠の中に複雑なことを書けないので、UMLではアクティビティ図を用いる。

初期状態●から、終了状態◉までの手順を示すためのものがアクティビティ図。 フローチャートに無い表現として、複数の処理を並行処理する場合には、フォークノードで複数の処理を併記し、最終的に1つの処理になる部分をマージノードで示す。 通常の処理は、角丸の長方形で示し、条件分岐はひし形で示す。

ステートチャート図(状態遷移図)

ステートチャート図は、処理内部での状態遷移を示すための図。 1つの状態を長丸長方形で示し、初期状態●から終了状態◉までを結ぶ。 1つの状態から、なんらかの状態で他の状態に遷移する場合は、分岐条件となる契機(タイミング)とその条件、およびその効果(出力)を「契機[条件]/効果」で矢印に併記する。 複数の状態をグループ化して表す場合もある。

シーケンス図

複数のオブジェクトが相互にやり取りをしながら処理が進むようなもののタイミングを記述するためのものがシーケンス図。 上部の長方形にクラス/オブジェクトを示し、その下に縦軸にて時系列の処理の流れの線(Life Line)を描く。 オブジェクトがアクティブな状態は、縦長の長方形で示し、そのLife Line間を、やり取り(メッセージ)の線で相互に結ぶ。 メッセージは、相手側からの返答を待つような同期メッセージは、黒塗り三角矢印で示す。 返答を待たない非同期メッセージは矢印で示し、返答は破線で示す。

コミュニケーション図

クラスやオブジェクトの間の処理とその応答(相互作用)と関連の両方を表現する図。

応答を待つ同期メッセージは -▶︎、非同期メッセージは→で表す。複数のオブジェクト間のやりとりの相互作用を表現する。

タイミング図

タイミング図は、クラスやオブジェクトの時間と共に状態がどのように遷移するのかを表現する図。

状態変化の発生するタイミングや、時間的な遅れや時間的な制約を図で明記するために使われる。

IT専科・UML入門より引用

UMLの概要と構造図

前回の授業でUMLの概要について説明を行ったが、専攻科の休講日だったようなので、UMLの概要をおさらいした後、UMLの構造図の説明を行う。

UML(Unified Modeling Language)記法が生まれるまで

巨大なプロジェクトでプログラムを作る場合、対象となるシステムを概念として表現する場合、オブジェクト指向分析(OOA: Object Oriented Analysis)オブジェクト指向設計(OOD: Object Oriented Design)とよばれるソフトウェア開発方法が重要となる。(総称して OOAD – Object Oriented Analysis and Design)

これらの開発方法をとる場合、(1)自分自身で考えを整理したり(2)グループで設計を検討したり(3)ユーザに仕様を説明したりといった作業が行われる。この時に、自分自身あるいはチームメンバーあるいはクライアントに直感的に図を用いて説明する。この時の図の書き方を標準化したものが UML であり、(a)処理の流れを説明するための振る舞い図(以前であればフローチャートやPAD)と、(b)データ構造を説明するための構造図を用いる。

UMLは、ランボーによるOMT(Object Modeling Technique どちらかというとOOA中心)と、 ヤコブソンによるオブジェクト指向ソフトウェア工学(OOSE)を元に1990年頃に 発生し、ブーチBooch法(どちらかというとOOD中心)の考えをまとめ、 UML(Unified Modeling Language)としてでてきた。

UMLでよく使われる図を列記すると、以下の物が挙げられる。

  • 構造図
    • クラス図
    • コンポーネント図
    • 配置図
    • オブジェクト図
    • パッケージ図
  • 振る舞い図
    • アクティビティ図
    • ユースケース図
    • ステートチャート図(状態遷移図)
    • 相互作用図
    • シーケンス図
    • コミュニケーション図(コラボレーション図)

UMLを正しく使うことができるようになれば、UMLで仕様書を書けばそれがそのままプログラムになることが理想的な姿かもしれない。ソフトウェア開発やソフトウェアの保守にソフトウェアツールを利用することは、CASE(Computer Aided Software Engineering)と呼ばれ、そのようなツールをCASEツールと呼ぶ。地元福井の永和システムマネジメントでは、astar* というCASEツールを開発している。


UMLの構造図の書き方の説明。 詳しくは、参考ページのUML入門などが、分かりやすい。

クラス図

クラス図は、構造図の中の基本的な図で、 枠の中に、上段:クラス名、中段:属性(要素)、下段:メソッド(関数)を記載する。 属性やメソッドの可視性を示す場合は、”-“:private、”+”:public、”#”:protected 可視性に応じて、”+-#”などを記載する。

関連

クラスが他のクラスと関係がある場合には、その関係の意味に応じて、直線や矢印で結ぶ。
(a)関連(association):単純に関係がある場合、
(b)集約(aggregation):部品として持つが、弱い結びつき。関係先が消滅しても別に存在可能。(has-a)
(c)コンポジション(composition):部品として持つが強い結びつき。関係先と一緒に消滅。(has-a)
(d)依存(dependency):依存関係にあるだけ
(e)派生(generalization):派生・継承した関係(is-a)
(f)実現(realization): Javaでのinterfaceによる多重継承

上図の例では、乗り物クラスVehicleから自動車Carが派生し(CarからVehicleへの三角矢印―▷)、 自動車は、エンジン(Engine)を部品として持つ(EngineからCarへのひし形矢印―◆)。エンジンは車体と一緒に廃棄なら、コンポジション(C++であれば部品の実体を持つ)で実装する。

自動車は、同じく車輪(Wheel)を4つ持つが、自動車を廃棄してもタイヤは別に使うかもしれないので、集約(部品への参照を持つ)で実装する(WheelからCarへのひし形矢印―◇)。 集約で実装する場合は、C++などであれば、ポインタで部品を持ち、部品の廃棄(delete)は、別に行うことになる。

Javaなどのプログラム言語では、オブジェクトはデータの実体へのポインタで扱われるため、コンポジションと集約を区別して表現することは少ない。

is-a 、has-a の関係

前の課題でのカモノハシクラスで、羽や足の情報をどう扱うべきかで、悩んだ場合と同じように、 クラスの設計を行う場合には、部品として持つのか、継承として機能を持つのか悩む場合がある。 この場合には、“is-a”の関係“has-a”の関係で考えると、部品なのか継承なのか判断しやすい。

たとえば、上の乗り物(Vehicle)クラスと、車(Car)のクラスは、”Car is-a Vehicle” といえるので、is-a の関係。 “Car is-a Engine”と表現すると、おかしいことが判る。 車(Car)とエンジン(Engine)のクラスは、”Car has-a Engine”といえるので、has-a の関係となる。 このことから、CarはVehicleからの派生であり、Carの属性としてEngineを部品として持つ設計となる。

ER図

UMLではないが、オブジェクト図に近いものとしてER図がある。これはリレーショナルデータベースの設計が正しいか確認しながら設計するための図で、Entity(実体)とRelation(関連)を相互に線で結んだもので、最近のER図の書き方は、かなりクラス図の書き方に似ている。

オブジェクト図

クラス図だけで表現すると、複雑なクラス関係では、イメージが分かりづらい場合がでてくる。 この場合、具体的な値を図に書き込んだオブジェクトで表現すると、説明がしやすい場合がある。 このように具体的な値で記述するクラス図は、オブジェクト図と言う。 書き方としては、クラス名の下に下線を引き、中段の属性の所には具体的な値を書き込んで示す。

その他の構造図

パッケージ図

パッケージ図は、クラス図をパッケージ毎に分類して記載する図。 パッケージのグループを、フォルダのような図で記載する。


IT専科から引用

コンポーネント図とコンポジット構造図

コンポジット構造図は、クラスやコンポーネントの内部構造を示すもので、コンポーネント図は、複数のクラスで構成される処理に、 インタフェースを用意し、あたかも1つのクラスのように扱ったもの。 接続するインタフェースを飴玉と飴玉を受けるクチのイメージで、提供側を◯───で表し、要求側を⊃──で表す。


IT専科から引用

配置図

配置図は、システムのハードウェア構成や通信経路などを表現するための図。 ハードウェアは直方体の絵で表現し、 デバイスの説明は、”≪device≫”などを示し、実行環境には、”≪executionEnvironment≫” などの目印で表現する。


IT専科から引用

UMLの概要

巨大なプロジェクトでプログラムを作成する場合、設計の考え方を図で示すことは、直感的な理解となるため重要であり、このために UML がある。以下にその考え方と記述方法を説明していく。

プログラムの考え方の説明

今まで、プログラムを人に説明する場合には、初心者向けの方式としてフローチャートを使うのが一般的であろう。しかし、フローチャートは四角の枠の中に説明を書ききれないことがあり、使い勝手が悪い。他には、PAD と呼ばれる記述法もある。この方法は、一連の処理を表す縦棒の横に、処理を表す旗を並べるようなイメージで記載する。

しかし、これらの記法は、手順を記載するためのものであり、オブジェクト指向のようなデータ構造を説明するための図が必要となってきた。

個人的な経験では、企業にてプログラムを作っていた頃(1990年頃)、UML などの考え方は普及していなかった。処理を説明するためのフローチャートでも、通信関係のプログラムでは、送信側と受信側の相互関係を説明する場合、フローチャートでは相互のタイミングなどの説明は困難であった。また、通信では、リトライ・タイムアウトといった状態も発生するが、その場合だと状態遷移図なども併記する必要があり、フローチャートの限界を感じていた。

また、データ構造については、オブジェクト指向も普及前であればデータ要素の一覧表が中心であった。プログラム書式(コーディングスタイル)などの統一もされていないので、同じチーム内で誤解などを解消するための意思統一が重要であった。

プログラムのドキュメント

学生のみなさんは、プログラムの説明の文書はどのように残しているだろうか?

私が仕事をしていた頃は、プログラムと別にドキュメントをワープロで残そうとすると、プログラム変更に合わせて編集することが難しく、プログラムとドキュメントの乖離が発生する。このため、プログラムの中にコメントの形で残すことが重要であった。特にデータ構造の説明は、ヘッダファイルの中に大量のコメントで残すことが多かった。

TeXを改発した Knuth は、文芸的プログラミングとして、プログラム中にドキュメントを併記するための WEB を同時に開発している。このシステムでは、プログラムとドキュメントを併記したソースプログラムから、ドキュメントを取り出すプログラムと、ソースコードを取り出すプログラムがあり、情報の一体性を高めている。

最近では、プログラムのエディタで Markdown という、マークアップ言語でドキュメントを残す場合も多いだろう。これであれば、プレーンテキストで書いたドキュメントを、HTMLLaTeXといった読みやすいドキュメントに変換も容易である。


UML記法が生まれるまで

巨大なプロジェクトでプログラムを作る場合、対象となるシステムを表現する場合、オブジェクト指向分析(Object Oriented Analysis)オブジェクト指向設計(Object Oriented Design)とよばれるソフトウェア開発方法が重要となる。(総称して OOAD – Object Oriented Analysis and Design)

これらの開発方法をとる場合、(1)自分自身で考えを整理したり(2)グループで設計を検討したり(3)ユーザに仕様を説明したりといった作業が行われる。この時に、自分自身あるいはチームメンバーあるいはクライアントに直感的に図を用いて説明する。この時の図の書き方を標準化したものが UML であり、(a)処理の流れを説明するための振る舞い図(フローチャートやPAD)と、(b)データ構造を説明するための構造図を用いる。

UMLは、ランボーによるOMT(Object Modeling Technique どちらかというとOOA中心)と、 ヤコブソンによるオブジェクト指向ソフトウェア工学(OOSE)を元に1990年頃に 発生し、ブーチのBooch法(どちらかというとOOD中心)の考えをまとめ、 UML(Unified Modeling Language)としてでてきた。

UMLでよく使われる図を列記すると、以下の物が挙げられる。

  • 構造図
    • クラス図
    • コンポーネント図
    • 配置図
    • オブジェクト図
    • パッケージ図
  • 振る舞い図
    • アクティビティ図
    • ユースケース図
    • ステートチャート図(状態遷移図)
    • 相互作用図
    • シーケンス図
    • コミュニケーション図(コラボレーション図)

その他の関連雑談のためのリンク

 

派生や集約と多重継承

派生や継承について、一通りの説明が終わったので、データ構造(クラスの構造)の定義の方法にも様々な考え方があり、どのように実装すべきかの問題点を考えるための説明を行う。その中で特殊な継承の問題についても解説する。

動物・鳥類・哺乳類クラス

派生継承を使うと、親子関係のあるデータ構造をうまく表現できることを、ここまでの授業で示してきた。

しかしながら、以下に述べるような例では、問題が発生する。

// 動物クラス
class Animal {
private:
  char name[ 10 ] ;
public:
  Animal( const char s[] ) {
    strcpy( name , s ) ;
  }
  const char* get_name() const { return name ; }
  virtual void move() = 0 ;
  virtual void birth() = 0 ;
} ;

// 鳥類クラス
class Bird : public Animal {
public:
  Bird( const char s[] ) : Animal( s ) {}
  virtual void move() {
    printf( "%s fry.\n" , get_name() ) ;
  }
  virtual void birth() {
    printf( "%s lay egg.\n" , get_name() ) ;
  }
} ;

// 哺乳類クラス
class Mammal : public Animal {
public:
  Mammal( const char s[] ) : Animal( s ) {}
  virtual void move() {
    printf( "%s walk.\n" , get_name() ) ;
  }
  virtual void birth() {
    printf( "%s lay baby.\n" , get_name() ) ;
  }
} ;

int main() {
  Bird chiken( "piyo" ) ;
  chiken.move() ;
  chiken.birth() ;
  Mammal cat( "tama" ) ;
  cat.move() ;
  cat.birth() ;
  return 0 ;
}

ここで、カモノハシを作るのであれば、どうすれば良いだろうか?

鳥類・哺乳類とは別にカモノハシを作る(いちばん無難な方法)

class SeaBream : public Animal {
public:
  Mammal( const char s[] ) : Animal( s ) {}
  virtual void move() {
    printf( "%s walk.\n" , get_name() ) ;
  }
  virtual void birth() {
    printf( "%s lay egg.\n" , get_name() ) ;
  }
} ;

この例では、簡単な処理だが、move() の中身が複雑であれば、改めて move() を宣言するのではなく、継承するだけの書き方ができないだろうか?

多重継承を使う方法(ダイヤモンド型継承が発生する)

C++ には、複数のクラスから、派生する多重継承という機能がある。であれば、鳥類と哺乳類から進化したのだから、以下のように書きたい。

// 多重継承 鳥(Bird)と哺乳類(Mammal) から SeaBeam を作る
class SeaBream : public Bird , public Mammal {
   //
} ;

しかし、カモノハシに move() を呼び出すと、鳥類の move() と哺乳類の move() のどちらを動かすか曖昧になる。

また「派生」は、基底クラスと派生クラスの両方のデータを持つデータ構造を作る。このため、単純に多重継承を行うと、カモノハシのクラスでは、派生クラスは親クラスのデータ領域と、派生クラスのデータ領域を持つため、鳥類の name[] と、哺乳類の name[] を二つ持つことになる。多重継承による”ダイヤモンド型継承”の問題

足と羽のクラスを作る場合(本来は多重継承で実装すべきではない)

以下に、足と羽のクラスを作ったうえで、多重継承を行うプログラム例を示す。

しかし、この例では、相変わらずカモノハシのクラスを多重継承で実装すると、ダイヤモンド型継承の問題が残る。

class Animal {
private:
  char name[ 10 ] ;
public:
  Animal( const char s[] ) {
    strcpy( name , s ) ;
  }
  const char* get_name() const { return name ; }
  virtual void move() = 0 ;
} ;
// 羽
class Wing {
public:
   const char* move_method() { return "fly" ; }
} ;
// 
class Leg {
public:
   const char* move_method() { return "walk" ; }
} ;
class Bird : public Animal , public Wind {
public:
  Bird( const char s[] ) : Animal( s ) {}
  virtual void move() {
    printf( "%s %s.\n" , get_name() , move_method() ) ;
  }
} ;
class Mammal : public Animal , public Leg {
public:
  Mammal( const char s[] ) : Animal( s ) {}
  virtual void move() {
    printf( "%s %s.\n" , get_name() , move_method() ) ;
  }
} ;

継承を使うべきか、部品として持つべきか

ただし、ここで述べた方式は、UML による設計の際に改めて説明を行うが、is-a , has-a の関係でいうなら、

  • Bird is a Animal. – 鳥は動物である。
    • “Bird has a Animal” はおかしい。
    • 鳥は、動物から派生させるのが正しい。
  • Bird has a Wing. – 鳥は羽をもつ。
    • “Bird is a Wing” はおかしい。
    • 鳥は、羽を部品として持つべき。

であることから、Wing は 継承で実装するのではなく、集約もしくはコンポジションのような部品として実装すべきである。

このカモノハシ問題をどうしても多重継承で実装したいのなら、C++では、以下のような方法で、ダイヤモンド型の継承問題を解決できる。

class Animal {
private:
   char name[ 10 ] ;
public:
   Animal( const char s[] ) {
      strcpy( name , s ) ;
   }
   const char* get_name() const { return name ; }
   virtual void move() = 0 ;
   virtual void birth() = 0 ;
} ;

// 鳥類クラス
class Bird : public virtual Animal {
public:
   Bird( const char s[] ) : Animal( s ) {}
   virtual void move() {
      printf( "%s fry.\n" , get_name() ) ;
   }
   virtual void birth() {
      printf( "%s lay egg.\n" , get_name() ) ;
   }
} ;

// 哺乳類クラス
class Mammal : public virtual Animal {
public:
   Mammal( const char s[] ) : Animal( s ) {}
   virtual void move() {
      printf( "%s walk.\n" , get_name() ) ;
   }
   virtual void birth() {
      printf( "%s lay baby.\n" , get_name() ) ;
   }
} ;

class SeaBream : public virtual Bird , virtual Mammal {
public:
   SeaBream( const char s[] ) : Animal( s ) {}
   void move() {
      Mammal::move() ;
   }
   void birth() {
      Bird::birth() ;
   }
} ;

ただし、多重継承は親クラスの情報と、メソッドを継承する。この場合、通常だと name[] を二つ持つことになるので、問題が発生する。そこで、親クラスの継承に virtual を指定することで、ダイヤモンド型継承の 2つの属性をうまく処理してくれるようになる。

しかし、多重継承は処理の曖昧さや効率の悪さもあることから、採用されていないオブジェクト指向言語も多い。特に Java は、多重継承を使えない。その代わりに interface という機能が使えるようになっている。

多重継承を使える CLOS や Python では、適用するメソッドやインスタンス変数の曖昧さについては親クラスへの優先度を明確にできる機能がある。曖昧さの問題を避けるのであればクラス限定子”::”を使うべきである。

抽象クラス(純粋仮想基底クラス)

前回説明した仮想関数では、基底クラスから派生させたクラスを作り、そのデータが混在してもクラスに応じた関数(仮想関数)を呼び出すことができる。

この仮想関数の機能を逆手にとったプログラムの記述方法として、抽象クラス(純粋仮想基底クラス)がある。その使い方を説明する。

JavaのGUIにおける派生の使い方

先週の講義では、派生を使ったプログラミングは、GUI で使われていることを紹介したが、例として Java のプログラミングスタイルを少し紹介する。

例えば、Java で アプレット(ブラウザの中で動かすJavaプログラム)を作る場合の、最小のサンプルプログラムは、以下のようになる。

import java.applet.Applet; // C言語でいうところの、Applet 関連の処理を include
import java.awt.Graphics;

public class App1 extends Applet {  // Applet クラスから、App1 クラスを派生
    public void paint(Graphics g) { // 画面にApp1を表示する必要がある時に呼び出される。
        g.drawString("Hello World." , 100 , 100);
    }
}

この例では、ブラウザのGUIを管理する Applet クラスから、App1 というクラスを派生(extendsキーワード)し、App1 固有の処理として、paint() メソッドを定義している。GUI のプログラミングでは、本来ならマウスが押された場合の処理などを記述する必要があるが、このプログラムでは paint() 以外何も書かれていない。これはマウス処理などは、基底クラスのAppletのマウス処理が継承されるので、省略してもうまく動くようになっている。

このように、派生クラスの継承機能を使うことで、雑多な処理を基底クラスですべて書くようにすれば、同じようなデータ型が出てくる場合プログラムを書く手間を減らすことができる。

抽象クラス(純粋仮想基底クラス)

抽象クラス(純粋仮想基底クラス)とは、見かけ上はデータを何も持たないクラスであり、本来なら意味がないデータ構造となってしまう。しかし、派生クラスで要素となるデータと仮想関数で機能を与えることで、基底クラスという共通部分から便利な活用ができる。(実際には、型を区別するための型情報を持っている)

例えば、C言語であれば一つの配列に、整数、文字列、実数といった異なる型のデータを記憶させることは本来ならできない。しかし、以下のような処理を記載すれば、可能となる。

C言語では、1つの記憶域を共有するために共用体(union)を使うが、C++では仮想関数が使えるようになり、型の管理をプログラマーが行う必要のある「面倒で危険な」共用体を使う必要はなくなった。

// 純粋仮想基底クラス
class Object {
public:
   virtual void print() const = 0 ;
   // 中身の無い純粋基底クラスで、
   // 仮想関数を記述しない時の書き方。
} ;

// 整数データの派生クラス
class IntObject : public Object {
private:
   int data ;
public:
   IntObject( int x ) {
      data = x ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%d\n" , data ) ;
   }
} ;

// 文字列の派生クラス
class StringObject : public Object {
private:
   char data[ 100 ] ;
public:
   StringObject( const char* s ) {
      strcpy( data , s ) ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%s\n" , data ) ;
   }
} ;

// 実数の派生クラス
class DoubleObject : public Object {
private:
   double data ;
public:
   DoubleObject( double x ) {
      data = x ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%lf\n" , data ) ;
   }
} ;

// 動作確認
int main() {
   Object* data[3] = {
      new IntObject( 123 ) ,
      new StringObject( "abc" ) ,
      new DoubleObject( 1.23 ) ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) { // 123
      data[i]->print() ;            // abc
   }                                // 1.23 と表示
   return 0 ;
} ;

このプログラムでは、純粋仮想基底クラスObjectから、整数IntObject, 文字列StringObject, 実数DoubleObject を派生させ、そのデータを new により生成し、Objectの配列に保存している。

仮想関数を使うと、Object型の中に自動的に型情報が保存されるようになる。一般的な実装では、各派生クラス用の仮想関数のポインタテーブル(vtable)へのポインタが使われる。

Javaなどのオブジェクト指向言語では、全てのクラス階層のスーパークラスとして、Object を持つように作られている。

様々な型に適用できるプログラム

次に、抽象クラス(純粋仮想基底クラス)の特徴を応用したプログラムの作り方を説明する。

例えば、以下のような最大選択法で配列を並び替えるプログラムがあったとする。

int a[5] = { 11, 55, 22, 44, 33 } ;

void my_sort( int array[] , int size ) {
   for( int i = 0 ; i < size - 1 ; i++ ) {
      int max = i ;
      for( int j = i + 1 ; j < size ; j++ ) {
         if ( array[j] > array[max] )
            max = j ;
      }
      int tmp = array[i] ;
      array[i] = array[max] ;
      array[max] = tmp ;
   }
}
int main() {
   my_sort( a , 5 ) ;
}

しかし、この整数を並び替えるプログラムがあっても、文字列の並び替えや、実数の並び替えがしたい場合には、改めて文字列用並び替えの関数を作らなければいけない。しかも、ほとんどが同じような処理で、改めて指定された型のためのプログラムを作るのは面倒である。

C言語のデータの並び替えを行う、qsort() では、関数ポインタを用いることで、様々なデータの並び替えができる。しかし、1件あたりのデータサイズや、データ実体へのポインタを正しく理解する必要がある。

#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
int a[ 4 ] = { 11, 33, 22, 44 } ;
double b[ 3 ] = { 1.23 , 5.55 , 0.11 } ;
// 並び替えを行いたいデータ専用の比較関数を作る。
// a>bなら+1, a=bなら0, a<bなら-1を返す関数
int cmp_int( int* pa , int* pb ) { // int型用コールバック関数
   return *pa - *pb ;
}
int cmp_double( double* pa , double* pb ) { // double型用コールバック関数
   if ( *pa == *pb )
      return 0 ;
   else if ( *pa > *pb )
      return 1 ;
   else
      return -1 ;
}
int main() {                                   // C言語の怖さ
   qsort( a , 4 , sizeof( int ) ,              //   このあたりの引数を書き間違えると
          (int(*)(void*,void*)) cmp_int ) ;    //   とんでもない目にあう。
   qsort( b , 3 , sizeof( double ) ,
          (int(*)(void*,void*)) cmp_double ) ;
} 

このように、自分が作っておいた関数のポインタを、関数に渡して呼び出してもらう方法は、コールバックと呼ぶ。
JavaScript などの言語では、こういったコールバックを使ったコーディングがよく使われる。

// コールバック関数 f を呼び出す関数
function exec_callback( var f ) {
   f() ;
}
// コールバックされる関数 foo()
function foo() {
   console.log( "foo()" ) ;
}
// foo() を実行する。
exec_callback( foo ) ;
// 無名関数を実行する。
exec_callback( function() {
                  console.log( "anonymous" ) ;
               } ) ;

任意のデータを並び替え

class Object {
public:
   virtual void print() const = 0 ;
   virtual int  cmp( Object* ) = 0 ;
} ;

// 整数データの派生クラス
class IntObject : public Object {
private:
   int data ;
public:
   IntObject( int x ) {
      data = x ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%d\n" , data ) ;
   }
   virtual int cmp( Object* p ) {
      int pdata = ((IntObject*)p)->data ;  // 本当はこのキャストが危険
      return data - pdata ;                //  ↓安全な実装したいなら↓
   }                                       // IntObject* pi = dynamic_cast<IntObject*>(p) ;
} ;                                        // return pi != NULL ? data - pi->data : 0 ;

// 文字列の派生クラス
class StringObject : public Object {
private:
   char data[ 100 ] ;
public:
   StringObject( const char* s ) {
      strcpy( data , s ) ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%s\n" , data ) ;
   }
   virtual int cmp( Object* p ) {
      char* pdata = ((StringObject*)p)->data ;
      return strcmp( data , pdata ) ; // 文字列比較関数
   }
} ;

// 実数の派生クラス
class DoubleObject : public Object {
private:
   double data ;
public:
   DoubleObject( double x ) {
      data = x ;
   }
   virtual void print() const {
      printf( "%lf\n" , data ) ;
   }
   virtual int cmp( Object* p ) {
      double pdata = ((DoubleObject*)p)->data ;
      if ( data == pdata )
         return 0 ;
      else if ( data > pdata )
         return 1 ;
      else
         return -1 ;
   }
} ;

// Objectからの派生クラスでcmp()メソッドを
//   持ってさえいれば、どんな型でもソートができる。
void my_sort( Object* array[] , int size ) {
   for( int i = 0 ; i < size - 1 ; i++ ) {
      int max = i ;
      for( int j = i + 1 ; j < size ; j++ ) {
         if ( array[j]->cmp( array[max] ) > 0 )
            max = j ;
      }
      Object* tmp = array[i] ;
      array[i] = array[max] ;
      array[max] = tmp ;
   }
}
// 動作確認
int main() {
   Object* idata[3] = {
      new IntObject( 11 ) ,
      new IntObject( 33 ) ,
      new IntObject( 22 ) ,
   } ;
   Object* sdata[3] = {
      new StringObject( "abc" ) ,
      new StringObject( "defghi" ) ,
      new StringObject( "c" ) ,
   } ;
   my_sort( idata , 3 ) ; // 整数のソート
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ )
      idata[i]->print() ;
   my_sort( sdata , 3 ) ; // 文字列のソート
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ )
      sdata[i]->print() ;
   return 0 ;
} ;

このような方式でプログラムを作っておけば、新しいデータ構造がでてきてもソートのプログラムを作らなくても、比較専用の関数 cmp() を書くだけで良い。

ただし、この並び替えの例では、Object* を IntObject* に強制的に型変換している。

また、このプログラムでは、データを保管するために new でポインタを保管し、データの比較をするために仮想関数の呼び出しを行うことから、メモリの使用効率も処理効率でもあまりよくない。

こういう場合、最近の C++ ではテンプレート機能が使われる。

template <typename T>
void my_sort( T a[] , int size ) {
  for( int i = 0 ; i < size - 1 ; i++ ) {
    int max = i ;
    for( int j = i + 1 ; j < size ; j++ ) { if ( a[j] > a[max] )
        max = j ;
    }
    T  tmp = a[i] ;
    a[i] = a[max] ;
    a[max] = tmp ;
  }
}

int main() {
  int idata[ 5 ] = { 3, 4, 5 , 1 , 2 } ;
  double fdata[ 4 ] = { 1.23 , 0.1 , 3.4 , 5.6 } ;

  // typename T = int で int::mysort() が作られる
  my_sort<int>( idata , 5 ) ;
  for( int i = 0 ; i < 5 ; i++ )
    printf( "%d " , idata[i] ) ;
  printf( "\n" ) ;

  // typename T = double で double::mysort() が作られる
  my_sort<double>( fdata , 4 ) ;
  for( int i = 0 ; i < 4 ; i++ )
    printf( "%lf " , fdata[i] ) ;
  printf( "\n" ) ;
  return 0 ;
}

C++のテンプレート機能は、my_sort( int[] , int ) で呼び出されると、typename T = int で、整数型用の my_sort() の処理が自動的に作られる。同じく、my_sort( double[] , int ) で呼び出されると、typename = double で 実数型用の my_sort() が作られる。

テンプレート機能では、各型用のコードが自動的に複数生成されるという意味では、出来上がったコードがコンパクトという訳ではない。

仮想関数レポート課題

ここで示したプログラムを参考に、独自のデータ(例えば、複素数のデータや名前と誕生日といったデータ)について、my_sort() などで並び替えるプログラムを作成せよ。並び替える時の順序も、各自て定義すればいい。(複素数なら絶対値順とか、名前と誕生日なら、誕生日順とか)

レポートの提出先はこちら

派生と継承と仮想関数

前回の派生と継承のイメージを改めて記載する。

// 基底クラス
class Person {
private:
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
public:
   Person( const char s[] , int x )
     : age( x ) {
      strcpy( name , s ) ;
   }
   void print() {
      printf( "%s %d\n" , name , age ) ;
   }
} ;
// 派生クラス(Student は Person から派生)
class Student : public Person {
private:
   char dep[ 20 ] ;
   int  grade ;
public:
   Student( const char s[] , int x ,
            const char d[] , int g )
            : Person( s , x ) // 基底クラスのコンストラクタ
   {  // 追加された処理
      strcpy( dep , d ) ;
      grade = g ;
   }
   void print() {
      Person::print() ;       // 基底クラスPersonで名前と年齢を表示
      printf( "- %s %d\n" , dep , grade ) ;
   }
} ;
int main() {
   Person saitoh( "t-saitoh" , 55 ) ;
   Student yama( "yamada" , 21 , "ES" , 1 ) ;
   Student nomu( "nomura" , 22 , "PS" , 2 ) ; 
   saitoh.print() ; // 表示 t-saitoh 55
   yama.print() ;   // 表示 yamada 21
                    //      - ES 1
   nomu.print() ;   // 表示 nomura 22
   return 0 ;       //      - PS 2
}

このような処理でのデータ構造は、次のようなイメージで表される。

派生クラスでの問題提起

基底クラスのオブジェクトと、派生クラスのオブジェクトを混在してプログラムを記述したらどうなるであろうか?
上記の例では、Person オブジェクトと、Student オブジェクトがあったが、それをひとまとめで扱いたいこともある。

以下の処理では、Person型の saitoh と、Student 型の yama, nomu を、一つの table[] にまとめている。

int main() {
   Person saitoh( "t-saitoh" , 55 ) ;
   Student yama( "yamada" , 21 , "ES" , 1 ) ;
   Student nomu( "nomura" , 22 , "PS" , 2 ) ;

   Person* table[3] = {
      &saitoh , &yama , &nomu ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) {
      table[ i ]->print() ;
   }
   return 0 ;
}

C++では、Personへのポインタの配列に代入する時、Student型ポインタは、その基底クラスへのポインタとしても扱える。ただし、このように記述すると、table[] には、Person クラスのデータして扱われる。

このため、このプログラムを動かすと、以下のように、名前と年齢だけが3人分表示される。

t-saitoh 55
yamada   21
nomura   22

派生した型に応じた処理

上記のプログラムでは、 Person* table[] に、Person*型,Student*型を混在して保存をした。しかし、Person*として呼び出されると、yama のデータを表示しても、所属・学年は表示されない。上記のプログラムで、所属と名前を表示することはできないのだろうか?

// 混在したPersonを表示
for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ )
   table[i]->print() ;
// Student は、所属と名前を表示して欲しい
t-saitoh 55
yamada 21
- ES 1
nomura 22
- PS 2

上記のプログラムでは、Person型では、後でStudent型と区別ができないと困るので、Person型に、Person型(=0)なのか、Student型(=1)なのか区別するための type という型の識別番号を追加し、type=1ならば、Student型として扱うようにしてみた。

// 基底クラス
class Person {
private:
   int  type ; // 型識別情報
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
public:
   Person( int tp , const char s[] , int x )
     : type( tp ) , age( x ) {
      strcpy( name , s ) ;
   }
   int type_person() { return type ; }
   void print() {
      printf( "%s %d\n" , name , age ) ;
   }
} ;
// 派生クラス(Student は Person から派生)
class Student : public Person {
private:
   char dep[ 20 ] ;
   int  grade ;
public:
   Student( int tp , const char s[] , int x ,
            const char d[] , int g )
            : Person( tp , s , x ) // 基底クラスのコンストラクタ
   {  // 追加された処理
      strcpy( dep , d ) ;
      grade = g ;
   }
   void print() {
      Person::print() ;       // 基底クラスPersonで名前と年齢を表示
      printf( "- %s %d\n" , dep , grade ) ;
   }
} ;
int main() {
   // type=0 は Person 型、type=1は Student 型
   Person saitoh( 0 , "t-saitoh" , 55 ) ;
   Student yama( 1 , "yamada" , 21 , "ES" , 1 ) ;
   Student nomu( 1 , "nomura" , 22 , "PS" , 2 ) ;

   Person* table[3] = {
      &saitoh , &yama , &nomu ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) {
      switch( table[i]->type_person() ) {
      case 0 :
         table[i]->print() ;
         break ;
      case 1 :
         // 強制的にStudent*型として print() を呼び出す。
         //   最近のC++なら、(static_cast<Student*>(table[i]))->>print() ;
         ((Student*)table[i])->print() ;
         break ;
      }
   }
   return 0 ;
}

しかし、このプログラムでは、プログラマーがこのデータは、Personなので type=0 で初期化とか、Studentなので type=1 で初期化といったことを記述する必要がある。

また、関数を呼び出す際に、型情報(type)に応じて、その型にふさわしい処理を呼び出すための switch 文が必要になる。

もし、派生したクラスの種類がいくつもあるのなら、(1)型情報の代入は注意深く書かないとバグの元になるし、(2)型に応じた分岐処理は巨大なものになるだろう。実際、オブジェクト指向プログラミングが普及する前の初期の GUI プログラミングでは、巨大な switch 文が問題となっていた。巨大な switch 文は、選択肢だけの if else-if else-if が並ぶと処理効率も悪い。

仮想関数

上記の、型情報の埋め込みと巨大なswitch文の問題の解決策として、C++では仮想関数(Virtual Function)が使える。

型に応じて異なる処理をしたい関数があったら、その関数の前に virtual と書くだけで良い。このような関数を、仮想関数と呼ぶ。

// 基底クラス
class Person {
private:
   char name[ 20 ] ;
   int  age ;
public:
   Person( const char s[] , int x )
     : age( x ) {
      strcpy( name , s ) ;
   }
   virtual void print() {
      printf( "%s %d\n" , name , age ) ;
   }
} ;
// 派生クラス(Student は Person から派生)
class Student : public Person {
private:
   char dep[ 20 ] ;
   int  grade ;
public:
   Student( const char s[] , int x ,
            const char d[] , int g )
            : Person( s , x ) // 基底クラスのコンストラクタ
   {  // 追加された処理
      strcpy( dep , d ) ;
      grade = g ;
   }
   virtual void print() {
      Person::print() ;       // 基底クラスPersonで名前と年齢を表示
      printf( "- %s %d\n" , dep , grade ) ;
   }
} ;
int main() {
   // type=0 は Person 型、type=1は Student 型
   Person saitoh( "t-saitoh" , 55 ) ;
   Student yama( "yamada" , 21 , "ES" , 1 ) ;
   Student nomu( "nomura" , 22 , "PS" , 2 ) ;

   Person* table[3] = {
      &saitoh , &yama , &nomu ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) {
      table[i]->print() ;
   }
   return 0 ;
}

クラスの中に仮想関数が使われると、C++ では、プログラム上で見えないが、何らかの型情報をオブジェクトの中に保存してくれる。

また、仮想関数が呼び出されると、その型情報を元に、ふさわしい関数を自動的に呼び出してくれる。このため、プログラムも table[i]->print() といった極めて簡単に記述できるようになる。

関数ポインタ

仮想関数の仕組みを実現するためには、関数ポインタが使われる。

以下の例では、返り値=int,引数(int,int)の関数( int(*)(int,int) )へのポインタfpに、最初はaddが代入され、(*fp)(3,4) により、7が求まる。

int add( int a , int b ) {
   return a + b ;
}
int mul( int a , int b ) {
   return a * b ;
}
int main() {
   int (*fp)( int , int ) ;
   fp = add ;
   printf( "%d\n" , (*fp)( 3 , 4 ) ) ; // 3+4=7
   fp = mul ;
   printf( "%d\n" , (*fp)( 3 , 4 ) ) ; // 3*4=12

   int (*ftable[2])( int , int ) = {
      add , mul ,
   } ;
   for( int i = 0 ; i < 2 ; i++ )
      printf( "%d\n" , (*ftable[i])( 3 , 4 ) ) ;
   return 0 ;
}

仮想関数を使うクラスが宣言されると、一般的にそのコンストラクタでは、各クラス毎の仮想関数へのポインタのテーブルが型情報として保存されるのが一般的。仮想関数の呼び出しでは、仮想関数へのポインタを使って処理を呼び出す。このため効率よく仮想関数を動かすことができる。

仮想関数の実装方法

仮想関数の一般的な実装方法としては、仮想関数を持つオブジェクトには型情報として仮想関数へのポインタテーブルへのポインタを保存する。この場合、仮想関数の呼び出しは、object->table[n]( arg… ) のような処理が行われる。

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