コンピュータの教育への利用を研究している学会であるEDUCAUSEの、 教育関係者を中心とした研究発表会 ELI2009(フロリダ・オーランド) に、県大の山川氏,菊沢氏,敦短の北野氏,仁短の篭谷氏, コーディネータ澤崎氏 ,および斉藤(高専)にて、 参加した。
本来興味のあった教育システムのハードウェアについて詳細に聞ける事例は少なかった。 しかしながら、インターネットを幅広く駆使した様々な事例は自分自身にとって目新しく、 今後の大学連携においてハードウェアではなく人的ソフトウェアの重要性が確認できた。
1日目(2009/01/20) =============================================================
基調講演: "Virtual Worlds as Naturally Occurring Online Learning Environments", Steinkuehler
MMOG型 のゲーム (World of Warcraft) の仮想空間の中で、 問題解決などをグループでどのように行うのか…を通して 自然発生的な学習についての講演。
GLS(Games+Learning+Society Conference) というゲームと学習の協議会がすでに活動するなど、 日本であればゲーム=遊び≠教育という風潮になりがちなことに 積極的に取り組んでいる点に驚かされた。
Concurrent Session: "Are We Ready for Mobile Technologies and Their Impact on Pedagogy, Tool Development, and Assessment?"
教育・ツール開発・成績評価に携帯などの、モバイル技術が導入することの効果についての講演。 モバイル関係の講演でもあり、 参加者にも合わせてその場でオンライン投票システムでアンケートをやったり、 講演途中で隣の参加者とグループ討議の時間を設けたりと、 日本の学会ではなかなか見れない方式で講演が進んだ。
講演の中では、iPhoneへの注目の高さが特徴的で、 将来的には80%を超える学生利用との予測もあり、 高機能携帯が普及した日本の ガラパゴス携帯文化 の違いが大きい。
GPS機能と加速度センサーの応用への興味が高く、 現実的なネットワークへの興味は当たり前になっているのか アンケートの数値的には低いものであった。 移動中の飛行機内での Blackberry 端末 がビジネスマンに普及しているのと比べ、 興味深い分析であった。
しかし講演中のグループ討議など、 討論文化が根付いているお国柄の違いを痛感すると共に、 語学能力の無さから討議に参加できず、英語の重要性を再認識させられた。
# グループ討議が始まって隣の女性教師の方に Hi! と言われた時点で凍り付きました。 (;_;)
# ↓凍り付いた相手 Part2 (決して怖い方ではありません)
Experience IT Session: "Innovation in Instruction Using Tablet PCs: A Hands-On Session Integrating Tablet PCs in Education",Mark Andrews
タブレット型PCを使った講義方法の解説を、 実際にタブレットPCで実践しながらの説明。 参加者用に用意されたタブレットPCに実際に使いながら、 意見や回答をペンで絵を書き込んだり択一問題を選んだり、 各自の回答画面を切り替えながらその回答した理由を発表させたりという インタラクションを取りながら、実際の授業を想定した講演が進められた。
受講者にとって「自分の回答が画面に表示され意見を求められる」という状況から、 受講者に緊張感を与え、否が応にも授業に集中せざる得ない状況となり、 極めて効果的と感じた。 デスクトップ共有システムを用いたシステムでは、 教師がデスクトップPCに張り付き、 受講者との対話がおろそかになりがちであるが、 この講演者はタブレットPCを活かし部屋をうろつきながら回答を確認したりと、 その特性をうまく使いこなしている所が、興味深かった。 この発表のために準備された資料は、 だれでも簡単に作れそうなシンプルな画面構成で、 短時間で準備できるような雰囲気ながら、 対話性と機動性を活かすことで高い教育効果をうむことが期待できる発表であった。
2日目(2009/01/21) =============================================================
基調講演: "From Knowledgeable to Knowledge-able: Experiments in New Media Literacy",(Wesch)
会話・筆記・製版・通信と技術の発展と共に、 現在はITメディアを活かした情報交換ができるようになり、 教育にどのように活用していくことができるのかといった内容の講演。 教師や学習者が、 Youtubeの動画共有 、 Flickrによる写真共有 、 Twitter によるシンプルかつタイムリーな討論システムといった、 様々なITメディアを活用することで、 様々な教育への活用が可能であることが、 事例を交えながら紹介された。
今回の大学連携では、 SNS による交流・ LMS による学習支援が中核であるが、 多様なメディアが関係してくることを痛感した。 日本であれば、 ニコニコ動画 や携帯による交流は必須であろう。 これより利用者が「どの程度、幅広いITメディアを知っていて・使えるのか」を 事前調査しておき、 大学連携の前後でその利用形態が変化したのかを把握することは、 大学連携の効果分析で重要と感じた。 このことから大学連携開始時点で、ITリテラシーの状況アンケートを実施することを提言した。
途中では、日本の メディア教育開発センター(NIME) の方の口利きで、EDUCAUSE の代表者の方との歓談時間をとっていただき、 今後の大学連携の際の協力などを話し合いました。
Concurrent Session: "The Emergence of E-Learning in Japan",(青木氏)
日本におけるE-Learningの危機という内容で、 E-Learningの先駆者を日本に招いて講演を行ってもらった際の、 文化的なギャップに伴う問題提起。 最初日本人講演者による日本のE-Learningの問題点の紹介の後、 日本に招いた研究者の感想であった。 自分自身がE-Learningを専門としていないため、 日本の現状と問題点を理解するという点で、興味深い内容であった。
日本におけるE-learningでは「コンテンツを作って学生に見せる」ことが中心になりがちで、 これでは教師→学生の一方向の活用にすぎない。 実際、最近の事例報告では、ビデオコンテンツの充実ばかりが注目され、 テキストベースのコンテンツへの注目が少ない。 テキストベースのコンテンツでも教師と学生の双方向で質疑応答を充実させる研究が 重要であるといった内容が興味深かった。 自分自身、講義録などを日記で掲載することを長年続けているけれど、 コメントによる学生の反応は極めて少ないのが実情であり、 もっと学生が意見や質問を出せる環境づくりが重要であると反省させられた。
講演が終わり雑談が始まっていたら、前の方で"Japanese POP culture…." という 単語が飛び交っていたり、日本に興味のある先生に声をかけられたりと、 日本のアニメの影響は大きいと感じた。 ちなみに、奥さんへのお土産は、英語で書かれた「犬夜叉」であった。 夫婦そろって、英語で何が書いてあるやらと???の状態で、 充輝君が「(背景の擬音だけ)読める!」と喜んでいた。
Featured Session: "Learning in an Emergent, Model-Based Environment Created by Cyberinfrastructure and Community nanoHUB.org",(nanoHUB.org)
HUBzero.org社,Purdue 大学, nonanoHUB.org社 による、 ブラウザ上で動くグラフィカルなシミュレーション環境で、 双方向や協調作業のできる機能により教育を行うシステムの事例紹介。 講演者が遠隔講義システムで発表をすすめていたが、 音声トラブルなどで内容が聞き取りづらく内容も分かりづらく途中で退席し、 ポスター展示の見学を行った。
ポスターセッション:
- "Developing a Virtual Community: Co-Creating a 3D Library Learning Commons in Second Life" : 3D仮想空間のSecond Life上に教育向けの仮想コミュニティー空間を作るための3Dライブラリの紹介。
- "What is the Ethnography of the University Initiative?" : イリノイ大学による複数キャンパス間で民族学の調査研究を行った事例報告。
Experience IT Session: "Google Earth: Mapping Tools and Learning 2.0"
Google Earth を教育における地図と情報の関連付けのツールとして活用するために、 地図上の情報を扱うXMLファイル形式のデータである KML の使い方の講習。 どのように活用できるかの説明の後は、 実際に利用者にKMLデータを登録するなどの演習が中心であった。 慣れない教育方式の内容より自分の興味に近い説明であったので極めて参考になった。
自分自身の研究で丹南地区向けの緊急連絡システムを開発しているが、 その情報をKML形式に変換する環境を構築すれば、 すぐに地図ベースの安全マップを簡単に構築するために利用ると期待できる。 既存データをKMLに変換するという簡単な処理でもあり、 来年度の学生の卒業研究のテーマに利用できることが確認できた。
3日目(2009/01/22) =============================================================
Concurrent Session: "Running Out of Science Lab Space on Your Campus? Put Science Totally Online!"(Elizabeth A.Evans)
看護師の養成のために実務をこなしながら、 週1回程度のオンライン学習で解剖・生理学を学ぶコースの実践事例。 解剖生理学を学ぶため、オンラインのコンテンツだけでなく Microbiology Kit(顕微鏡,解剖器具などを含む)を企業と提携して利用者に提供されている。 さらに、学生との質疑応答のための裏方として解剖生理学の博士と連携をとっている。
オンラインコンテンツでは、 SoftChalk というシステムが使われており、 ブラウザ上でワープロ感覚でテキスト・図・択一問題・対応付け問題などの 学習コンテンツを作成できる。 択一問題などのコンテンツ作成などは、容易に作ることができそうな雰囲気が感じられたが、 リアルタイムに動くアニメーションといったコンテンツも利用できるものの、 そのコンテンツ作成にどの程度の労力で済むのかといった点が疑問であった。
感想 =============================================================
この学会では前述の昼の部に加えて、会議後にはアクティブな他の同行の皆さんと、 レンタカーを借りて食事などに出かけ、楽しい時間を過ごせました。