オブジェクト指向/2022/ガイダンス
専攻科2年のオブジェクト指向プログラミングの授業の1回目。
最近のプログラミングの基本となっているオブジェクト指向について、その機能についてC++言語を用いて説明し、後半では対象(オブジェクト)をモデル化して設計するための考え方(UML)について説明する。
評価は、3つの課題と最終テストを各25%づつで評価を行う。
オブジェクト指向プログラミングの歴史
最初のプログラム言語のFortran(科学技術計算向け言語)の頃は、処理を記述するだけだったけど、 COBOL(商用計算向け言語)ができた頃には、データをひとまとめで扱う「構造体」(C言語ならstruct {…}の考えができた。(データの構造化)
// C言語の構造体 struct Person { // 1人分のデータ構造をPersonとする char name[ 20 ] ; // 名前 int b_year, b_month, b_day ; // 誕生日 } ;
一方、初期のFortranでは、プログラムの処理順序は、繰り返し処理も if 文と goto 文で記載し、処理がわかりにくかった。その後のALGOLの頃には、処理をブロック化して扱うスタイル(C言語なら{ 文 … }の複文で 記述する方法ができてきた。(処理の構造化)
// ブロックの考えがない時代の雰囲気をC言語で表すと int i = 0 ; LOOP: if ( i >= 10 ) goto EXIT ; if ( i % 2 != 0 ) goto NEXT ; printf( "%d " , i ) ; NEXT: i++ ; goto LOOP ; // 処理の範囲を字下げ(インデント)で強調 EXIT: --------------------------------------------------- // C 言語で書けば int i ; for( i = 0 ; i < 10 ; i++ ) { if ( i % 2 == 0 ) { printf( "%d¥n" , i ) ; } } --------------------------------------------------- ! 構造化文法のFORTRANで書くと integer i do i = 0 , 9 if ( mod( i , 2 ) == 0 ) then print * , i end if end do
このデータの構造化・処理の構造化により、プログラムの分かりやすさは向上し、このデータと処理をブロック化した書き方は「構造化プログラミング(Structured Programming)」 と呼ばれる。
雑談
ここで紹介した、最古の高級言語 Fortran や COBOL は、今でも使われている。Fortran は、スーパーコンピュータなどで行われる数値シミュレーションでは、広く利用されている。また COBOL は、銀行などのシステムでもまだ使われている。しかしながら、新システムへの移行で COBOL を使えるプログラマーが定年を迎え減っていることから、移行トラブルが発生している。特に、CASEツール(UMLなどの図をベースにしたデータからプログラムを自動生成するツール)によって得られた COBOL のコードが移行を妨げる原因となることもある。
この後、様々なプログラム言語が開発され、C言語などもできてきた。 一方で、シミュレーションのプログラム開発(例simula)では、 シミュレーション対象(object)に対して、命令するスタイルの書き方が生まれ、 データに対して命令するという点で、擬人法のようなイメージで直感的にも分かりやすかった。 これがオブジェクト指向プログラミング(Object Oriented Programming)の始まりとなる。略記するときは OOP などと書くことが多い。
この考え方を導入した言語の1つが Smalltalk であり、この環境では、プログラムのエディタも Smalltalk で記述したりして、オブジェクト指向がGUIのプログラムと親和性が良いことから、この考え方は多くのプログラム言語へと取り入れられていく。
C言語にこのオブジェクト指向を取り入れ、C++が開発される。さらに、この文法をベースとした、 Javaなどが開発されている。最近の新しい言語では、どれもオブジェクト指向の考えが使われている。
この授業の中ではオブジェクト指向プログラミングにおける、隠蔽化, 派生と継承, 仮想関数 などの概念を説明する。
構造体の導入
C++でのオブジェクト指向は、C言語の構造体の表記がベースになっているので、まずは構造体の説明。詳細な配布資料を以下に示す。
// 構造体の宣言 struct Person { // Personが構造体につけた名前 char name[ 20 ] ; // 要素1 int phone ; // 要素2 } ; // 構造体定義とデータ構造宣言を // 別に書く時は「;」の書き忘れに注意 // 構造体変数の宣言 struct Person saitoh ; struct Person data[ 10 ] ; // 実際にデータを参照 構造体変数.要素名 strcpy( saitoh.name , "t-saitoh" ) ; saitoh.phone = 272925 ; for( int i = 0 ; i < 10 ; i++ ) { scanf( "%d%s" , data[ i ].name , &(data[ i ].phone) ) ; }
構造体に慣れていない人のための課題
- 以下に、C言語の構造体を使った基本的なプログラムを示す。このプログラムでは、国語,算数,理科の3科目と名前の5人分のデータより、各人の平均点を計算している。このプログラムを動かし、以下の機能を追加せよ。レポートには プログラムリストと動作結果の分かる結果を付けること。
- 国語の最低点の人を探し、名前を表示する処理。
- 算数の平均点を求める処理。
#include <stdio.h> struct Student { char name[ 20 ] ; int kokugo ; int sansu ; int rika ; } ; struct Student table[5] = { // name , kokugo , sansu , rika { "Aoyama" , 56 , 95 , 83 } , { "Kondoh" , 78 , 80 , 64 } , { "Saitoh" , 42 , 78 , 88 } , { "Sakamoto" , 85 , 90 , 36 } , { "Yamagosi" ,100 , 72 , 65 } , } ; int main() { int i = 0 ; for( i = 0 ; i < 5 ; i++ ) { double sum = table[i].kokugo + table[i].sansu + table[i].rika ; printf( "%-10.10s %3d %3d %3d %6.2lf\n" , table[i].name , table[i].kokugo , table[i].sansu , table[i].rika , sum / 3.0 ) ; } return 0 ; }
値渡し,ポインタ渡し,参照渡し
C言語をあまりやっていない学科の人向けのC言語の基礎として、関数との値渡し, ポインタ渡しについて説明する。ただし、参照渡しについては電子情報の授業でも細かく扱っていない内容なので電子情報系学生も要注意。
オブジェクト指向のプログラムでは、構造体のポインタ渡し(というよりは参照渡し)を多用するが、その基本となる関数との値の受け渡しの理解のため、以下に値渡し・ポインタ渡し・参照渡しについて説明する。
ポインタと引数
値渡し(Call by value)
// 値渡しのプログラム void foo( int x ) { // x は局所変数(仮引数は呼出時に // 対応する実引数で初期化される。 x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } int main() { int a = 123 ; foo( a ) ; // 124 // 処理後も main::a は 123 のまま。 foo( a ) ; // 124 return 0 ; }
このプログラムでは、aの値は変化せずに、124,124 が表示される。ここで、関数 foo() を呼び出しても、関数に「値」が渡されるだけで、foo() を呼び出す際の実引数 a の値は変化しない。こういった関数に値だけを渡すメカニズムは「値渡し」と呼ぶ。
値渡しだけが使われれば、関数の処理後に変数に影響が残らない。こういった処理の影響が残らないことは一般的に「副作用がない」という。
大域変数を使ったプログラム
でも、プログラムによっては、124,125 と変化して欲しい場合もある。どのように記述すべきだろうか?
// 大域変数を使う場合 int x ; void foo() { x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } int main() { x = 123 ; foo() ; // 124 foo() ; // 125 return 0 ; }
しかし、このプログラムは大域変数を使うために、間違いを引き起こしやすい。大域変数はどこでも使える変数であり、副作用が発生して間違ったプログラムを作る原因になりやすい。
// 大域変数が原因で予想外の挙動をしめす簡単な例 int i ; void foo() { for( i = 0 ; i < 2 ; i++ ) printf( "A" ) ; } int main() { for( i = 0 ; i < 3 ; i++ ) // このプログラムでは、AA AA AA と foo() ; // 表示されない。 return 0 ; }
ポインタ渡し(Call by pointer)
C言語で引数を通して、呼び出し側の値を変化して欲しい場合は、変更して欲しい変数のアドレスを渡し、関数側では、ポインタ変数を使って受け取った変数のアドレスの示す場所の値を操作する。(副作用の及ぶ範囲を限定する) こういった、値の受け渡し方法は「ポインタ渡し」と呼ぶ。
// ポインタ渡しのプログラム void foo( int* p ) { // p はポインタ (*p)++ ; printf( "%d¥n" , *p ) ; } int main() { int a = 123 ; foo( &a ) ; // 124 // 処理後 main::a は 124 に増えている。 foo( &a ) ; // 124 return 0 ; // さらに125と増える }
ポインタを利用して引数に副作用を与える方法は、ポインタを正しく理解していないプログラマーでは、危険な操作となる。
参照渡し(Call by reference)
C++では、ポインタ渡しを極力使わないようにするために、参照渡しを利用する。ただし、ポインタ渡しも参照渡しも、機械語レベルでは同じ処理にすぎない。
// ポインタ渡しのプログラム void foo( int& x ) { // xは参照 x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } int main() { int a = 123 ; foo( a ) ; // 124 // 処理後 main::a は 124 に増えている。 foo( a ) ; // 124 return 0 ; // さらに125と増える。 }
大きなプログラムを作る場合、副作用のあるプログラムの書き方は、間違ったプログラムの原因となりやすい。そこで関数の呼び出しを中心としてプログラムを書くものとして、関数型プログラミングがある。
専攻科実験・コンパイラと関数電卓プログラム作成
- コンパイラの技術と関数電卓プログラム(1)
- 再帰下降パーサによる構文解析による電卓プログラム作成
- 補助資料:コンパイラの技術と関数電卓プログラム(1-2)
- 課題
- 複数桁の数字が使えること。
- 式中に空白が使えること。
- 何らかの演算子を追加すること。
- (例) %,単項演算子のマイナスなど
- 演算子が左結合か右結合か確認すること。
- オプション課題
- 変数が使えること。
(変数名は1文字のA-Zといったもので良い)
- 変数が使えること。
- レポート内容
- コンパイラ技術の概要、課題(1)の説明・最終的なBNF記法・ソース・動作検証、考察
- コンパイラの技術と関数電卓プログラム(2)
- コンパイラツールを使ったLR構文解析による電卓プログラムの作成
- 補助資料:専攻科実験: unix系 開発環境のインストール
- 課題
- 基本的に、lex+yaccで(1)と同様の課題で参考資料を元に改良を行う。
- レポート内容
- lex,yaccの概要、課題(2)の説明・ソース・動作検証、考察
2021年度授業アンケート
情報制御基礎(3年学際科目)
情報構造論(4EI)
データベース(5EI)
オブジェクト指向プログラミング(専攻科生産システム2年)
卒業おめでとうございます
本日3/18(金)、卒業式・修了式が行われました。
卒業生、修了生の皆さんおめでとうございます。式ではコロナ感染対策で、在校生や保護者の参加ができませんでした。コロナでこの2年間は色々と制限のあるなか、5年生の卒業生の皆さんは、4年ではインターンシップが無かったり、卒研発表でもリモート発表があったりと大変なことも多かったと思います。卒研では、例年に比べ家での作業も多かったりで個人的には「学生との報連相が不足していた」と反省もあります。一方で社会に出てからのリモートでの技はしっかり身に付けたかと思います。この高専での経験の良いところを次の進路で活かし、日々の技術進歩に追いつくよう精進して頑張って下さい。
EmoCheck2.1
Emotet が2月に変化があったようで、EmoCheck 2.1 で改めて確認してみよう。
PDFファイルのタイトル/著者を一括修正
例年実施している学生の卒研発表のレジメ資料のWeb公開。しかしながら表示させると、画面の左上のメニュー部に「講演題目第1行目は…」。PDFファイルのタイトル部に、ひな形ファイルの属性が残っているみたい。著者欄にもひな形の著者情報が残っている。
なんとなくカッコ悪いので、タイトル部と著者情報を消したい。
((( 必要なツールのインストール ))) $ aptitude install libimage-exiftool-perl ((( 一つのファイルなら ))) $ exiftool -Title="" -Author="" -overwrite_original hoge.pdf ((( find+xargs で一括修正 ))) $ find . -name "*.pdf" -print \ | xargs exiftool -Title="" -Author="" -overwrite_original
2021年度 卒業研究発表会
2021年度 電子情報工学科 卒業研究発表会が 3/2(水),3(木) と行われています。
コロナ対策で、リモートを交えながら実施しています。5年間に勉強してきたことをこの1年間の卒研で総仕上げとしての発表で、緊張している人もいますが皆さん頑張ってしてしています。
情報構造論2021全講義録
- 情報構造論2021ガイダンス
- 繰り返し処理と処理時間の見積もり
- 再帰呼び出しと再帰方程式
- 再帰処理時間の見積もりとポインタ操作
- ポインタとメモリの使用効率
- malloc()とfree()
- 様々なデータの覚え方のレポート課題
- 様々な2次元配列
- リスト構造と処理
- リスト処理
- リストへの追加処理
- スタックと待ち行列
- 集合とリスト処理
- 双方向リスト
- 2分探索木
- 深さ優先探索と幅優先探索
- 2分探索木の処理とデータ追加処理
- AVLと2分ヒープ
- 意思決定木と構文解析
- 演算子と2分木による式の表現
- B木とデータベース
- ハッシュ法(導入)
- ハッシュ衝突の対策
- プログラムの処理時間の測り方
- 文字列のハッシュ関数
- 共有のあるデータの取扱い
- ガベージコレクタ
- 動的メモリ管理 malloc() と free()
- 関数ポインタ
- 情報構造論とオブジェクト指向