UMLの概要
巨大なプロジェクトでプログラムを作成する場合、設計の考え方を図で示すことは、直感的な理解となるため重要であり、このために UML がある。以下にその考え方と記述方法を説明していく。
プログラムの考え方の説明
今まで、プログラムを人に説明する場合には、初心者向けの方式としてフローチャートを使うのが一般的であろう。しかし、フローチャートは四角の枠の中に説明を書ききれないことがあり、使い勝手が悪い。他には、PAD と呼ばれる記述法もある。この方法は、一連の処理を表す縦棒の横に、処理を表す旗を並べるようなイメージで記載する。
しかし、これらの記法は、手順を記載するためのものであり、オブジェクト指向のようなデータ構造を説明するための図が必要となってきた。
UML記法が生まれるまで
巨大なプロジェクトでプログラムを作る場合、対象となるシステムを表現する場合、オブジェクト指向分析(Object Oriented Analysis)やオブジェクト指向設計(Object Oriented Design)とよばれるソフトウェア開発方法が重要となる。(総称して OOAD – Object Oriented Analysis and Design)
これらの開発方法をとる場合、(1)自分自身で考えを整理したり、(2)グループで設計を検討したり、(3)ユーザに仕様を説明したりといった作業が行われる。この時に、自分自身あるいはチームメンバーあるいはクライアントに直感的に図を用いて説明する。この時の図の書き方を標準化したもの、UML であり、(a)処理の流れを説明するための振る舞い図(フローチャートやPAD)と、(b)データ構造を説明するための構造図を用いる。
UMLは、ランボーによるOMT(Object Modeling Technique どちらかというとOOA中心)と、 ヤコブソンによるオブジェクト指向ソフトウェア工学(OOSE)を元に1990年頃に 発生し、ブーチのBooch法(どちらかというとOOD中心)の考えをまとめ、 UML(Unified Modeling Language)としてでてきた。
UMLでよく使われる図を列記すると、以下の物が挙げられる。
- 構造図
- クラス図
- コンポーネント図
- 配置図
- オブジェクト図
- パッケージ図
- 振る舞い図
- アクティビティ図
- ユースケース図
- ステートチャート図(状態遷移図)
- 相互作用図
- シーケンス図
- コミュニケーション図(コラボレーション図)
図形と仮想関数の継承方法
純粋仮想基底クラスと図形の課題の基本形
課題で取り組んでいるプログラムは、純粋仮想基底クラスFigureと、そこから派生させたクラスと仮想関数で絵を書いている。このような派生の関係を以下のような図で表現する。
class Figure { public: virtual void draw( int x , int y ) = 0 ; } ; class FigureBox : public Figure { private: int width , height ; public: FigureBox( int w , int h ) : width( w ) , height( h ) {} virtual void draw( int x , int y ) { // 四角を描く処理 } } ; class FigureCircle : public Figure { private: int radius ; public: FigureCircle( int r ) : radius( r ) {} virtual void draw( int x , int w ) { // 円を描く処理 } } ;
色付き図形を派生する方法
課題では、上記プログラムを活用して、色付き図形のクラスを作ることを目的とするが、その実装方法には色々な方法がある。
単純なやり方は、FigureBox と同じように、Figure から FigureColorBox を派生させる方法だろう。
class FigureColorBox : public Figure { private: int width , height , color ; public: FigureColorBox( int w , int h , int c ) : width( w ) , height( h ) , color( c ) {} virtual void draw( int x , int y ) { // 色を変える処理 // 四角を描く処理 ... FIgureBox と同じ処理 } } ;
この方法は単純だけど、四角を描く処理を書くため無駄であり、FIgureBox と処理を共通化できればプログラムを書く手間を減らせるはず。
処理を共通化するなら派生すればいい
class FigureColorBox : public FigureBox { private: int color ; // 幅と高さの記述が無い public: FigureColorBox( int w , int h , int c ) : FigureBox( w , h ) , color( c ) {} virtual void draw( int x , int y ) { // 色を変える処理 FigureBox::draw( x , y ) ; // 親クラスの処理を継承 } } ;
同じような色の処理を追加したクラスが沢山ある場合
上記の、FigureBox から FigureColorBox を派生させた場合は、四角を描く処理が継承により共通化ができた。
しかし、同じように FigureCircle から FigureColorCircle を派生させる…といったクラスを沢山作る場合は、色を変える処理を何度も使うことになるが、処理の共有することができない。こういった場合は、以下のような方法がある。
class Color { private: int color ; public: Color( int c ) : color( c ) {} void set_color() { // 色を変える処理 } } ; class FigureColorBox : public FigureBox , public Color { public: // 多重継承のキモ FigureColorBox( int w , int h , int c ) : FigureBox( w , h ) , Color( c ) {} virtual void draw( int x , int y ) { Color::set_color() ; // Colorクラスを使って色を設定 FigureBox::draw( x , y ) ; // FigureBoxクラスで形を描く } } ;
多重継承
上記の FigureColorBox のように、親クラスとして、FigureBox と Color のように複数のクラスをもつ継承は、多重継承と呼ばれる。
ただし、多重継承は後に示すような曖昧さや、実装の際の手間を考えると、多重継承は必ずしも便利な機能ではない。このため、オブジェクト指向のプログラミング言語によっては、多重継承機能が使えない。
Java では、多重継承が使えない代わりに、interface 機能が使えたりする。
ダイヤモンド型の継承と曖昧さ
C++ のような言語での多重継承が問題となる事例として、ダイヤモンド型の継承が挙げられる。
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例えば、動物クラスから鳥クラス・哺乳類クラスを派生して、鳥クラスからニワトリを派生して、哺乳類クラスから人間を派生するというのは、進化の過程を踏まえると、自然な派生と考えられる。
しかし、鳥がクラスメンバーとして羽と足を持ち、哺乳類が手と足を持つとしたとき、鳥のくちばしを持ち卵を生むカモノハシを派生する場合には、どうすれば良いのだろうか?しかし、これを鳥と哺乳類を親クラスとした多重継承で実装をすると、手と羽と足が4本のカモノハシができてしまう。(お前はドラゴンかッ!)
また、大元の動物クラスがインスタンスを持つ場合、このような多重継承をすると、同じ名前のインスタンスを2つ持つことになる。この場合、C++では仮想継承というメカニズムを使うことができる。
class Animal { private: char name[10] ; } ; class Bird : public virtual Animal { } ; class Mammalian : public virtual Animal { } ; class Psyduck : public Bird , public Mammalian { // このクラスは、name は1つだけ。 } ;
また、動物が動くためのmove()というメソッドを持つとした場合、鳥は羽で飛び、哺乳類は足で移動する処理となるだろう。しかし、多重継承のカモノハシは、鳥の羽で動くメソッドmove()と、哺乳類の足で動くメソッドmove()を持つことになり、カモノハシに動け…と命令した場合、どちらのメソッドmove() を使うのだろうか?
こういった、使いにくさ・実装時の手間・処理の曖昧さを考慮したうえで、多重継承のメカニズムが使えるオブジェクト指向プログラム言語は少ない。
仮想関数
仮想関数
前回の派生したプログラムで継承の説明をしたが、以下のようなプログラムでは、Student 型が混在した family[] の配列でも、Person へのポインタに「格下げ」されて保存されているため、
family[i]->print() では、Student 型でも Person型で表示処理が行われる。
class Student : public Person { : void print() { Person::print() ; // 名前と年齢を表示 printf( " %s %d¥n" , dep , grade ) ; // 所属と学年を表示 } } ; void main() { Person saitoh( "t-saitoh" , 53 ) ; saitoh.print() ; // t-saitoh 53 Student mitsu( "mitsuki" , 18 , "E" , 4 ) ; Student ayuka( "ayuka" , 16 , "EI" , 2 ) ; mitsu.print() ; // mitsuki 18 / E 4 名前,年齢,所属,学年を表示 ayuka.print() ; // ayuka 16 / EI 2 名前,年齢,所属,学年を表示 Person* family[] = { &saitoh , &mitsu , &ayuka , // 配列の中に、Personへのポインタと } ; // Studentへのポインタが混在している // 派生クラスのポインタは、 // 基底クラスのポインタとしても扱える for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) family[ i ]->print() ; // t-saitoh 53/mitsuki 18/ayuka 16 } // が表示される。
しかし、Student型とPerson型の機能を活かせないだろうか?
仮想関数
このような場合、オブジェクト指向では、仮想関数の機能が便利である。
class Person { : virtual void print() { printf( "%s %d\n" , name , age ) ; } } ; class Student : public Person { : virtual void print() { Person::print() ; // 名前と年齢を表示 printf( " %s %d¥n" , dep , grade ) ; // 所属と学年を表示 } } ; void main() { Person saitoh( "t-saitoh" , 53 ) ; saitoh.print() ; // t-saitoh 53 Student mitsu( "mitsuki" , 18 , "E" , 4 ) ; Student ayuka( "ayuka" , 16 , "EI" , 2 ) ; mitsu.print() ; // mitsuki 18 / E 4 名前,年齢,所属,学年を表示 ayuka.print() ; // ayuka 16 / EI 2 名前,年齢,所属,学年を表示 Person* family[] = { &saitoh , &mitsu , &ayuka , } ; for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) family[ i ]->print() ; // t-saitoh 53/mitsuki 18,E 4/ayuka 16,EI 2 }
仮想関数が宣言されると、基底クラスの中に「型情報(PersonなのかStudentなのか)」が自動的に埋め込まれる。仮想関数を呼び出すと、型情報を使って、Person::print()を呼び出すか、Student::print()を呼び出すか、を選んでくれる。
仮想関数が生まれた背景
仮想関数は、GUI のプログラム記述に向いていた。例えば、GUIシステムでは、画面にデータを表示するための基本型として、座標と幅,高さの情報を持つ Window 型がある。
また、画面のアイコンは、Window型に、表示する絵の画像を追加した派生クラス WindowIcon 型、画面のテキストは、Windows型に、表示するテキストやフォント情報を持った、WindowText といった型のようなものとする。そうなると仮想関数の概念が無いと、display() を呼び出すためには、派生型の種類が大量ならばデータの型に応じた if 文を大量に書き並べないといけないし、データ型を区別するための情報(下記の例ならばtype)に、型毎に異なるマジックナンバーを埋め込む処理を自分で書かないといけない。
class Window { // 概念を説明するための例にすぎない private: int x , y , w , h ; int type ; // 型を区別するための情報 public: void display() { // 表示する処理 } } ; class WindowIcon : public Window { private: Image img ; public: void display() { // 画像を表示する処理 } } ; class WindowText : public Window { private: Font font ; char* text ; public: void display() { // テキストを表示する処理 } } ; void main() { WindowIcon wi( アイコンのコンストラクタ ) ; WindowText wt( テキストのコンストラクタ ) ; Window* wins[] = { &wi , &wt , ... } ; for( int i = 0 ; i < 配列すべて ; i++ ) { if ( wins[i]->type が アイコンならば ) wins[i]->display() ; // アイコンを表示する else if ( wins[ i ]->type が テキストならば ) wins[i]->display() ; // テキストを表示する。 else if .... : } }
関数ポインタ
では、仮想関数はどのようなテクニックを用いて実装されているのだろうか?
これには、関数ポインタが用いられる。
int add( int x , int y ) { return x + y ; } int mul( int x , int y ) { return x * y ; } int main() { int (*func)( int , int ) ; func = add ; // add() ではない printf( "%d¥n" , (*func)( 3 , 4 ) ) ; // 7 func = mul ; printf( "%d¥n" , (*func)( 3 , 4 ) ) ; // 12 return 0 ; }
仮想関数を用いると、基底クラスにはクラス毎の仮想関数への「関数ポインタ」などの型情報を保存する場所が自動的に作られ、基底クラス・派生クラスが使われると、そのオブジェクト毎に型情報を初期化する処理が行われる。仮想関数が呼び出されると、関数ポインタにより、各型毎のメソッドが呼び出されるため、大量の if 文は不要となる。
純粋仮想基底クラス
// 純粋仮想基底クラス class Object { public: virtual void print() = 0 ; // 中身の無い純粋基底クラスを記述しない時の書き方。 } ; // 整数データの派生クラス class IntObject : public Object { private: int data ; public: IntObject( int x ) { data = x ; } virtual void print() { printf( "%d\n" , data ) ; } } ; // 文字列の派生クラス class StringObject : public Object { private: char data[ 100 ] ; public: StringObject( const char* s ) { strcpy( data , s ) ; } virtual void print() { printf( "%s\n" , data ) ; } } ; // 実数の派生クラス class DoubleObject : public Object { private: double data ; public: DoubleObject( double x ) { data = x ; } virtual void print() { printf( "%lf\n" , data ) ; } } ; // 動作確認 int main() { Object* data[3] = { new IntObject( 123 ) , new StringObject( "abc" ) , new DoubleObject( 1.23 ) , } ; for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) { data[i]->print() ; } return 0 ; } ;
この書き方では、data[]には、整数、文字列、実数という異なるデータが入っているが、 Objectという純粋仮想基底クラスを通して、共通な型のように扱えるようになる。 そして、data[i]->print() では、各型の仮想関数が呼び出されるため、 「123 abc 1.23」 が表示される。
ここで、Object の様な一見すると中身が何もないクラスを宣言し、 このクラスから様々な派生クラスを用いるプログラムテクニックは、 広く利用され、Objectのような基底クラスは、純粋仮想基底クラスなどと呼ばれる。
派生と継承
隠ぺい化の次のステップとして、派生・継承を説明する。
派生を使わずに書くと…
元となるデータ構造(例えばPersonが名前と年齢)でプログラムを作っていて、 途中でその特殊パターンとして、所属と学年を加えた学生(Student)という データ構造を作るとする。
// 元となる構造体(Person) struct Person { char name[ 20 ] ; // 名前 int age ; // 年齢 } ; // 初期化関数 void set_Person( struct Person* p , char s[] , int x ) { strcpy( p->name , s ) ; p->age = x ; } // 表示関数 void print_Person( struct Person* p ) { printf( "%s %d\n" , p->name , p->age ) ; } void main() { struct Person saitoh ; set_Person( &saitoh , "t-saitoh" , 50 ) ; print_Person( &saitoh ) ; }
パターン1(そのまんま…)
上記のPersonに、所属と学年を加えるのであれば、以下の方法がある。 しかし以下パターン1は、要素名がname,ageという共通な部分があるようにみえるが、 プログラム上は、PersonとPersonStudent1は、まるっきり関係のない別の型にすぎない。
このため、元データと共通部分があっても、同じ処理を改めて書き直しになる。
// 元のデータに追加要素(パターン1) struct PersonStudent1 { char name[ 20 ] ; // 名前 int age ; // 年齢 char dep[ 20 ] ; // 所属 int grade ; // 学年 } ; void set_PersonStudent1( struct PersonStudent1* p , char s[] , int x , char d[] , int g ) { strcpy( p->name , s ) ; // 同じことを書いてる p->age = x ; strcpy( p->dep , d ) ; // 追加分はしかたない p->grade = g ; } // 名前と年齢だけ表示 void print_PersonStudent1( struct PersonStudent1* p ) { // また同じ処理を書いてる printf( "%s %d\n" , p->name , p->age ) ; } void main() { struct PersonStudent1 yama1 ; set_PersonStudent1( &yama1 , "yama" , 22 , "PS" , 2 ) ; print_PersonStudent1( &yama1 ) ; }
パターン2(元データの処理を少し使って…)
パターン1では、同じような処理を何度も書くことになり、面倒なので、 元データ用の関数をうまく使うように書いてみる。
// 元のデータに追加要素(パターン2) struct PersonStudent2 { struct Person person ; char dep[ 20 ] ; int grade ; } ; void set_PersonStudent2( struct PersonStudent2* p , char s[] , int x , char d[] , int g ) { // Personの関数を部分的に使う set_Person( &(p->person) , s , x ) ; // 追加分はしかたない strcpy( p->dep , d ) ; p->grade = g ; } void print_PersonStudent2( struct PersonStudent2* p ) { // Personの関数を使う。 print_Person( &p->person ) ; } void main() { struct PersonStudent2 yama2 ; set_PersonStudent2( &yama2 , "yama" , 22 , "PS" , 2 ) ; print_PersonStudent2( &yama2 ) ; }
このパターン2であれば、元データ Person の処理をうまく使っているので、 プログラムの記述量を減らすことはできるようになった。
しかし、print_PersonStudent2() のような処理は、元データ構造が同じなのに、 いちいちプログラムを記述するのは面倒ではないか?
そこで、元データの処理を拡張し、処理の流用ができないであろうか?
基底クラスから派生クラスを作る
オブジェクト指向では、元データ(基底クラス)に新たな要素を加えたクラス(派生クラス)を 作ることを「派生」と呼ぶ。派生クラスを定義するときは、クラス名の後ろに、 「:」「public/protected/private」基底クラス名を書く。
// 基底クラス class Person { private: char name[ 20 ] ; int age ; public: Person( const char s[] , int x ) { strcpy( name , s ) ; age = x ; } void print() { printf( "%s %d\n" , name , age ) ; } } ; // 派生クラス class Student : public Person { private: char dep[ 20 ] ; int grade ; public: Student( const char s[] , int x , const char d[] , int g ) : Person( s , x ) // 基底クラスのコンストラクタ { strcpy( dep , d ) ; grade = g ; } } ; void main() { Person saitoh( "t-saitoh" , 50 ) ; saitoh.print() ; Student yama( "yama" , 22 , "PS" , 2 ) ; yama.print() ; }
ここで注目すべき点は、main()の中で、Studentクラス”yama”に対し、yama.print() を呼び出しているが、パターン2であれば、print_PersonStudent2()に相当するプログラムを 記述していない。 しかし、この派生を使うと Person の print() が自動的に流用することができる。 これは、基底クラスのメソッドを「継承」しているから、 このように書け、名前と年齢「yama 22」が表示される。
さらに、Student の中に、以下のような Student 専用の新しい print()を記述してもよい。
class Student ...略... {
...略...
void print() {
Person::print() ;
printf( "%s %d\n" , dep , grade ) ;
}
} ;
void main() {
...略...
Student yama( "yama" , 22 , "PS" , 2 ) ;
yama.print() ;
}
この場合は、継承ではなく機能が上書き(オーバーライト)されるので、 「yama 22 / PS 2」が表示される。
派生クラスを作る際の後ろに記述した、public は、他にも protected , private を 記述できる。
public だれもがアクセス可能。 protected であれば、派生クラスからアクセスが可能。 派生クラスであれば、通常は protected で使うのが一般的。 private 派生クラスでもアクセス不可。
仮想関数への伏線
上記のような派生したプログラムを記述した場合、以下のようなプログラムでは何が起こるであろうか?
class Student ... { : void print() { Person::print() ; // 名前と年齢を表示 printf( " %s %d¥n" , dep , grade ) ; // 所属と学年を表示 } } ; void main() { Person saitoh( "t-saitoh" , 53 ) ; saitoh.print() ; // t-saitoh 53 Student mitsu( "mitsuki" , 18 , "E" , 4 ) ; Student ayuka( "ayuka" , 16 , "EI" , 2 ) ; mitsu.print() ; // mitsuki 18 / E 4 名前,年齢,所属,学年を表示 ayuka.print() ; // ayuka 16 / EI 2 名前,年齢,所属,学年を表示 Person* family[] = { &saitoh , &mitsu , &ayuka , // 配列の中に、Personへのポインタと } ; // Studentへのポインタが混在している // 派生クラスのポインタは、 // 基底クラスのポインタとしても扱える for( int i = 0 ; i < 3 ; i++ ) family[ i ]->print() ; // t-saitoh 53/mitsuki 18/ayuka 16 } // が表示される。
複素数とクラス・隠蔽化の演習
コンストラクタやメソッドの書き方
前回のプログラムを、もう少しC++のオブジェクト指向っぽい書き方を導入してみる。この際に、分かりやすく記述するため、行数が長くなってきた時のための処理を考慮して、記述してみる。
#include <stdio.h> #include <math.h> class Complex { private: double re ; double im ; public: // 絶対座標系でも極座標系でも、実部・虚部・絶対値・偏角を扱うため inline double get_re() const { return re ; } inline double get_im() const { return im ; } inline double get_r() const { return sqrt( re*re + im*im ) ; } inline double get_th() const { return atan2( im , re ) ; } // 極座標系なら、以下のような getterメソッド を書いておけば、 // 座標系を気にせず処理がかける。 // inline double get_re() const { return r * cos( th ) ; } // inline double get_r() const { return r ; } // inline は、開いたサブルーチンで実装してくれるので処理速度が遅くならない // foo() const { ... } は、オブジェクトに副作用が無いことを示す。 // コンストラクタのメンバー変数の初期化の書き方 // Complex( ... ) // : 要素1( 値1 ) , 要素2( 値2 ) ... // { その他の初期化 // } Complex() // コンストラクタ : re( 0.0 ) , im( 0.0 ) {} Complex( double r , double i ) // コンストラクタ : re( r ) , im( i ) {} // メソッドのプロトタイプ宣言 // メソッドの中身が長くなる場合は、 // 名前と引数だけを宣言しておく void print() ; void add( Complex ) ; void mul( Complex ) ; } ; // ←しつこいけどセミコロン忘れないでね。 // クラス宣言の外にメソッドの定義を書く // メソッドの中身の記述 「::」をクラス限定子と呼ぶ void Complex::print() { printf( "%lf + j%lf¥n" , get_re() , get_im() ) ; } void Complex::add( Complex z ) { re = re + z.re ; im = im + z.im ; } void Complex::mul( Complex z ) { double r = re * z.re - im * z.im ; double i = re * z.im + im * z.re ; re = r ; im = i ; } int main() { Complex a( 1.0 , 2.0 ) ; Complex b( 2.0 , 4.0 ) ; a.add( b ) ; a.print() ; return 0 ; }
参考資料
レポート1(複素数の加減乗除)
授業中に示した上記のプログラムをベースに、 記載されていない減算・除算のプログラムを作成し、レポートを作成する。 レポートには、下記のものを記載すること。
- プログラムリスト
- プログラムへの説明
- 動作確認の結果
- プログラムより理解できること。
実際にプログラムを書いてみて分かった問題点など…
コンストラクタと複素数クラスと隠蔽化
コンストラクタ
プログラミングでは、データの初期化忘れによる間違いもよく発生する。これを防ぐために、C++ のクラスでは、コンストラクタ(構築子)がある。データ構造の初期化専用の関数。
// コンストラクタ #include <stdio.h> #include <string.h> class Person { private: char name[ 20 ] ; int phone ; public: void print() { printf( "%s %d¥n" , name , phone ) ; } Person() { // コンストラクタ(A) name[0] = '¥0' ; // 空文字列 phone = 0 ; } Person( const char str[] , int tel ) { // コンストラクタ(B) strcpy( name , str ) ; phone = tel ; } ~Person() { // デストラクタ print() ; // 内容の表示 } } ; int main() { Person saitoh( "t-saitoh" , 621111 ) ; // (A)で初期化 Person tomoko() ; // (B)で初期化 saitoh.print() ; // "t-saitoh 621111" の表示 tomoko.print() ; // " 0" の表示 return 0 ; // この時点で saitoh.~Person() // tomoko.~Person() が自動的に } // 呼び出される。
コンストラクタと反対に、デストラクタは、データが不要となった時に自動的に呼び出される関数。
複素数クラスの例
隠蔽化と基本的なオブジェクト指向の練習課題として、複素数クラスをあげる。ここでは、複素数の加算・乗算を例に説明をするので、減算・除算などの処理を記述することで、クラスの扱いに慣れてもらう。
直交座標系
#include <stdio.h>
#include <math.h>
class Complex {
private:
double re ; // 実部
double im ; // 虚部
public:
void print() {
printf( "%lf + j%lf¥n" , re , im ) ;
}
Complex( double r , double i ) {
re = r ;
im = i ;
}
Complex() {
re = im = 0.0 ;
}
void add( Complex z ) {
re = re + z.re ;
im = im + z.im ;
}
void mul( Complex z ) {
double r = re * z.re - im * z.im ;
double i = re * z.im + im * z.re ;
re = r ;
im = i ;
}
} ; // ←何度も繰り返すけど、ここのセミコロン忘れないでね
int main() {
Complex a( 1.0 , 2.0 ) ;
Complex b( 2.0 , 3.0 ) ;
a.print() ;
a.add( b ) ;
a.print() ;
a.mul( b ) ;
a.print() ;
}
極座標系
上記の直交座標系の Complex クラスは、加減算の関数は単純だけど、乗除算の関数を書く時には面倒になってくる。この場合、極座標系でプログラムを書いたほうが判りやすいかもしれない。
class Complex {
private:
double r ; // 絶対値 r
double th ; // 偏角 θ
public:
void print() {
printf( "%lf ∠ %lf¥n" , r , th / 3.14159265 * 180.0 ) ;
}
Complex() {
r = th = 0.0 ;
}
Complex( double x , double y ) {
r = sqrt( x*x + y*y ) ;
th = atan2( y , x ) ; // 象限を考慮したatan()
}
void add( Complex z ) {
; // 自分で考えて
}
void mul( Complex z ) { // 極座標系での乗算は
r = r * z.r ; // 絶対値の積
th = th + z.th ; // 偏角の和
}
} ; // ←しつこく繰り返すけど、セミコロン忘れないでね(^_^;
このように、プログラムを開発していると、当初は直交座標系でプログラムを記述していたが、途中で極座標系の方がプログラムが書きやすいという局面となるかもしれない。しかし、オブジェクト指向による隠蔽化を正しく行っていれば、利用者に影響なく「データ構造」や「その手続き(メソッド)」を書換えることも可能となる。
このように、プログラムをさらに良いものとなるべく書換えることは、オブジェクト指向ではリファクタリングと呼ぶ。
引数渡しと構造体からオブジェクト指向へ
値渡し、ポインタ渡し、参照渡し
構造体の使い方の話では、関数との構造体のデータ渡しでポインタなどが出てくるので、 値渡し・ポインタ渡し・参照渡しの復習。(参照渡しはC++で導入された考え方)
値渡し
C言語の基本は、値渡し。呼び出し側の実引数は、関数側の仮引数に値がコピーされる。 このため、呼び出し側の変数(下の例ではa)の中身は変化しない。 よって、関数の呼び出しで呼び出し側の変数が勝手に中身が変わらないので、予想外の変数の中身の変化が無く分かりやすい。
// 値渡し(call by value)の例 void foo( int x ) { x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } void main() { int a = 123 ; foo( a ) ; // 124が表示 foo( a ) ; // 124が表示 }
ポインタ渡し
しかし、上の例では、foo()の呼び出しで、変数aの中身が変化してくれたほうが都合が良い場合もある。 この場合は、C言語ではポインタを使って記述する。 このように、関数を呼び出して、手元の変数が変化することは、副作用と呼ばれる。 副作用の多いプログラムは、変数の値の管理がわかりにくくなるので、副作用は最小限に記述すべき。
// ポインタ渡し(call by pointer)の例 void foo( int *px ) { (*px)++ ; printf( "%d¥n" , (*px) ) ; } void main() { int a = 123 ; foo( &a ) ; // 124が表示 foo( &a ) ; // 125が表示 }
参照渡し
しかし、ポインタを多用すると、ポインタを動かしてトラブルも増えることから、ポインタはあまり使わない方が良い。 そこで、C++では参照型というものがでてきた。
// 参照型(call by reference)の場合 void foo( int &x ) { x++ ; printf( "%d¥n" , x ) ; } void main() { int a = 123 ; foo( a ) ; // 124が表示 foo( a ) ; // 125が表示 }
参照型は、ポインタを使っていないように見えるけれども、機械語レベルでみればポインタを使ったものと同じ。
構造体でオブジェクト指向もどき
例えば、名前と電話番号の構造体で処理を記述する場合、 以下の様な記載を行うことで、データ設計者とデータ利用者で分けて 仕事ができることを説明。
// この部分はデータ構造の設計者が書く // データ構造を記述 struct Person { char name[10] ; int phone ; } ; // データに対する処理を記述 void readPerson( struct Person* p ) { // ポインタの参照で表記 scanf( "%s%d" , (*p).name , &(*p).phone ) ; } void printPerson( struct Person* p ) { // アロー演算子で表記 printf( "%s %d¥n" , p->name , p->phone ) ; } // この部分は、データ利用者が書く int main() { // Personの中身を知らなくてもいいから配列を定義(データ隠蔽) struct Person table[ 10 ] ; for( int i = 0 ; i < 10 ; i++ ) { // 入力して、出力する...という雰囲気で書ける(手続き隠蔽) readPerson( &table[i] ) ; printPerson( &table[i] ) ; } return 0 ; }
このプログラムの書き方では、mainの中を読むだけもで、 データ入力とデータ出力を行うことはある程度理解できる。 この時、データ構造の中身を知らなくてもプログラムが理解でき、 データ実装者はプログラムを記述できる。これをデータ構造の隠蔽化という。 一方、readPerson()や、printPerson()という関数の中身についても、 入力・出力の方法をどうするのか知らなくても、 関数名から動作は推測できプログラムも書ける。 これを手続きの隠蔽化という。
C++のクラスで表現
上記のプログラムをそのままC++に書き直すと以下のようになる。
#include <stdio.h> // この部分はクラス設計者が書く class Person { private: // クラス外からアクセスできない部分 // データ構造を記述 char name[10] ; // メンバーの宣言 int phone ; public: // クラス外から使える部分 // データに対する処理を記述 void read() { // メソッドの宣言 // pのように対象のオブジェクトを明記する必要はない。 scanf( "%s%d" , name , &phone ) ; } void print() { printf( "%s %d¥n" , name , phone ) ; } } ; // ← 注意ここのセミコロンを書き忘れないこと。 // この部分はクラス利用者が書く int main() { Person table[ 10 ] ; for( int i = 0 ; i < 10 ; i++ ) { table[i].read() ; // メソッドの呼び出し table[i].print() ; // オブジェクト.メソッド() } // 文法エラーの例 printf( "%d¥n" , table[0].phone ) ; // phoneはprivateなので参照できない。 return 0 ; }
用語の解説:C++のプログラムでは、データ構造とデータの処理を、並行しながら記述する。 データ構造に対する処理は、メソッド(method)と呼ばれる。 データ構造とメソッドを同時に記載したものは、クラス(class)と呼ぶ。 そのclassに対し、具体的な値や記憶域が割り当てられたものをオブジェクト(object)と呼ぶ。
オブジェクト指向(2018) / ガイダンス
専攻科2年のオブジェクト指向プログラミングの授業の1回目。最初に授業全般の概要を説明した後、オブジェクト指向の歴史とC言語の構造体の説明。
オブジェクト指向プログラミングの歴史
最初のプログラム言語のFortran(科学技術計算向け)の頃は、処理を記述するだけだったけど、 COBOL(商用計算向け)ができた頃には、データをひとまとめで扱う「構造体」(C言語ならstruct …}の考えができた。 その後のALGOLの頃には、処理をブロック化して扱うスタイル(C言語なら{ 文 … }の複文で 記述する方法ができて、処理の構造化・データの構造化ができる。これが「構造化プログラミング(structured programming)」 の始まりとなる。
この後、様々なプログラム言語が開発され、C言語などもできてきた。 一方で、シミュレーションのプログラム開発(例simula)では、 シミュレーション対象(object)に対して、命令するスタイルの書き方が生まれ、 データに対して命令するという点で、擬人法のようなイメージで直感的にも分かりやすかった。 これがオブジェクト指向の始まりとなる。
この考え方を導入した言語の1つが Smalltalk であり、この環境では、プログラムのエディタも Smalltalk で記述したりして、オブジェクト指向がGUIのプログラムと親和性が良いことから普及が拡大する。
C言語にこのオブジェクト指向を取り入れて、C++が開発される。さらに、この文法をベースとした、 Javaなどが開発される。最近の新しい言語では、どれもオブジェクト指向の考えが使われている。
構造体の導入
C++でのオブジェクト指向は、構造体の表記がベースになっているので、まずは構造体の説明。
// 構造体の宣言 struct Person { // Personが構造体につけた名前 char name[ 20 ] ; // 要素1 int phone ; // 要素2 } ; // 構造体定義とデータ構造宣言を // 別に書く時は「;」の書き忘れに注意 // 構造体変数の宣言 struct Person saitoh ; struct Person data[ 10 ] ; // 実際にデータを参照 構造体変数.要素名 strcpy( saitoh.name , "t-saitoh" ) ; saitoh.phone = 272925 ; for( int i = 0 ; i < 10 ; i++ ) { scanf( "%d%s" , data[ i ].name , &(data[ i ].phone) ) ; }
構造体の参照渡しとオブジェクト指向
一緒に、来週のプログラミング応用の資料書いちゃえ。
構造体の参照渡し
構造体のデータを関数の呼び出しで記述する場合には、参照渡しを利用する。
struct Person { char name[ 20 ] ; int age ; } ; void print( struct Person* p ) { printf( "%s %d¥n" , p->name , p->age ) ; } void main() { struct Person saitoh ; strcpy( saitoh.name , "t-saitoh" ) ; saitoh.age = 50 ; print( &saitoh ) ; }
このようなプログラムの書き方をすると、「データ saitoh に、print() せよ…」 といった処理を記述したようになる。 これを発展して、データ saitoh に、print という命令をするイメージにも見える。
この考え方を、そのままプログラムに反映させ、Personというデータは、 名前と年齢、データを表示するprintは…といったように、 データ構造と、そのデータ構造への処理をペアで記述すると分かりやすい。
オブジェクト指向の導入
オブジェクト指向では、データ構造とその命令を合わせたものをクラス(class)と呼ぶ。 また、データ(class)への命令は、メソッド(method)と呼ぶ。
class Person { private: char name[ 20 ] ; int age ; public: Person( char s[] , int a ) { strcpy( name , s ) ; age = a ; } int scan() { return scan( "%s %d" , name , &age ) ; } void print() { printf( "%s %d¥n" , name , age ) ; } } ; void main() { Person saitoh( "t-saitoh" , 50 ) ; saitoh.print() ; Person table[ 50 ] ; for( int i = 0 ; i < 50 ; i++ ) { if ( table[ i ].scan() != 2 ) break ; table[ i ].print() ; } }
構造体とオブジェクト指向
プログラミング応用の後期では、構造体とコンピュータグラフィックスの基礎を扱う予定。 CGの基礎でも、X座標,Y座標…をひと塊の構造体で表現という意味では、構造体の延長として授業を進める予定。
構造体
上記資料を元に説明。 最初に構造体が無かったら、名前・国語・算数・理科の1クラス分のデータをどう表現しますか?
// まずは基本の宣言 char name[ 50 ][ 20 ] ; int kokugo[ 50 ] ; int sansu[ 50 ] ; int rika[ 50 ] ; // もしクラスが最初20人だったら、20→50に変更する際に、 // 文字列長の20も書きなおしちゃうかも。 // 50とか20とかマジックナンバーは使わないほうがいい。 #define SIZE 50 #define LEN 20 char name[ SIZE ][ LEN ] ; int kokugo[ SIZE ] ; : // 2クラス分のデータ(例えばEI科とE科)を保存したかったら? // case-1(配列2倍にしちゃえ) char name[ 100 ][ 20 ] ; // どこからがEI科? int kokugo[ 100 ] ; : // case-2(2次元配列にしちゃえ) char name[ 2 ][ 50 ][ 20 ] ; // 0,1どっちがEI科? int kokugo[ 2 ][ 50 ] ; : // case-3(目的に応じた名前の変数を作っちゃえ) char ei_name[ 50 ][ 20 ] ; // EI科は一目瞭然 int ei_kokugo[ 50 ] ; // だけど変数名が違うから : // 処理を2度書き char ee_name[ 50 ][ 20 ] ; int ee_kokugo[ 50 ] ; :
このような問題に対応するために構造体を用いる。
struct Person { // Personが構造体名(タグ名) char name[ 20 ] ; int kokugo ; int sansu ; int rika ; } ; struct Person saitoh ; struct Person ei[ 50 ] , ee[ 40 ] ; strcpy( saitoh.name , "t-saitoh" ) ; saitoh.kokugo = 100 ; ei[ 0 ].sansu = 80 ; ee[ 1 ].rika = 75 ;
授業では、構造体の初期化、入れ子の話をする。詳細は配布資料参照。
途中で、C言語の歴史として、unix開発時に、BCPL→B言語→C言語(K&R)→ANSI-C→…C++→D言語 といった雑談も説明。
入れ子の話では、 for(…) { for(…) { } } のような、処理の入れ子(処理の構造化)と、 構造体の入れ子(データの構造化)の話から、構造化プログラミング(structured programming)といった話も紹介する。